月の満ち欠けと連動した海の生命の生存戦略 少しでも生き残るための本能?
海辺を歩いていると、たくさんの魚の稚魚や生まれたての小さなカニなどを一斉に目にすることがあります。
これは、月と潮の密接な関係があります。新月や満月の頃は「大潮」と呼ばれる強い潮の変化が起き、多くの生き物はこのタイミングを選んで、産卵や孵化を行っています。こうした自然のリズムを感じ取る力が、本能として身についているのです。
さまざまな海の生き物たちの誕生が一斉に重なる光景が、それを物語っています。
月に導かれながら、潮のリズムとともに生きる海の生き物たちについて紹介していきます。
月の満ち欠けと産卵のリズム
ウミガメが満月の夜に砂浜へ上陸し、産卵するという話を聞いたことはないでしょうか。
産卵を満潮のタイミングに合わせることで、卵をより安全な場所に残し、孵化した子ガメは海に戻りやすくなります。
子ガメは孵化後、すぐに月明かりを頼りに海を目指すと言われており、彼らにとって月の存在は、まさに海へ導く灯台のような役割をしています。
カメだけじゃない!月を頼りに産卵する生きものたち
沖縄や奄美などのサンゴ礁では、5月から6月の大潮の夜を狙い、サンゴが産卵します。この日に決めていたかのように、一斉に精子と卵子が入った「バンドル」と呼ばれる粒を放出するのです。
わずか15分ほどの間に、真っ暗な海中に無数の生命の白い粒が舞い上がります。その光景は、宇宙の星屑のようにも見え、とても神秘的です。
研究によれば、サンゴには光を感知する遺伝子があり、月明かりの変化を読み取って産卵のタイミングをはかっていることがわかっています。
クサフグも大潮の時に一斉産卵します。普段は個々で生活しているのですが、大潮の日になると数百匹の大群となって海岸に押し寄せます。そして波打ち際に飛び込み、一斉に産卵するのです。
クサフグの脳の視床下部を調べたところ、大潮で活性化し産卵を促す「大潮遺伝子」が発見されました。そして、産卵した際にはPGEとよばれる物質が水中に放出されます。
これがフェロモンとしての働きをし、周囲のクサフグの産卵を誘発することから、一斉産卵につながることがわかっています。
生命のメカニズムの不思議
月は海の生き物たちにとって、生命の誕生を支えるための重要な道しるべ。
それを読みとる力は、本能として受け継がれ、幾千万もの世代をこえて命をつないできたのです。
月のリズムにまつわる「生物のメカニズム」は、今後さらなる研究が期待されています。
(サカナトライター:こやまゆう)
参考文献
クサフグが大潮に一斉集団産卵する仕組みを解明 ~月の満ち欠けによってもたらされる生物リズムの謎に迫る~ー名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所