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羊文学の世界に浸り、想像力を羽ばたかせる 企画展『"ひみつの庭" inspired by 羊文学』レポート

SPICE

『"ひみつの庭" inspired by 羊文学 - 12 hugs (like butterflies)』会場風景

2024年5月30日(木)から 6月23日(日)まで、東京都神保町の「New Gallery」にて、『"ひみつの庭" inspired by 羊文学 - 12 hugs (like butterflies)』が開催されている。
塩塚モエカ(ボーカル・ギター)、河西ゆりか(ベース・コーラス)、フクダヒロア(ドラムス)の3ピースバンド、羊文学。繊細で骨太なオルタナティブロックのサウンドと、詩的で鋭さのある詞に定評があり、『呪術廻戦』「渋谷事変」のエンディングテーマとなった「more than words」は国内ストリーミング1億回再生を突破。その他、FUJI ROCK FESTIVAL’23への出演や海外にも本格進出するなど、人気はとどまるところを知らない。

本展のキュレーションを行ったのは、昨年12月にリリースされたアルバム『12 hugs (like butterflies)』のアートワークを担当したクリエイティブディレクターのharu.(HUG)だ。長年に渡り羊文学のアートワークを支え続けてきたharu.は、塩塚モエカのセルフライナーノーツを辿りながら楽曲を再解釈し、アルバムの世界観を体現したという。
以下、羊文学を“庭”、それを耕すクリエイターやスタッフたちを“庭師”と称する本展を紹介しよう。

羊文学の世界観に浸る仕掛けに満ちた展示

羊文学は、曲を出すたびに変化があり、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせる。本展のタイトル"ひみつの庭"は、そんな彼らの不思議な存在感を見事に言い当てている。

受付では、手紙のようなガイド小冊子が手渡される。そこには作品について記載されており、読んだ人によって異なる体験ができる道しるべとなる。

ガイド小冊子は、まるで小さな手紙のよう

会場には緑豊かな庭が広がり、小屋の扉には、さまざまな取っ手が描かれている。こちらは楽曲「GO!!!」にインスパイアされた作品で、まるで取っ手によって異なる未来を選べるようだ。

楽曲「GO!!!」にインスパイアされて生まれた扉

羊文学の楽曲は、幻想的な雰囲気を纏いながら、歌詞は身近な悩みや日常の輝きを語っていて、共感と親密さが漂う。小屋の中には、鏡やシーツのような布(実はおばけを表現している)、バットやジャンプスーツなど、生活風景に溶け込む作品が置かれているので、羊文学の透明感溢れる世界が、観客の日常と地続きであることを示すようだった。

左:楽曲「Addiction」と「honestly」にインスパイアされて生まれた鏡とおばけ

楽曲「countdown」にインスパイアされて生まれたバット

中央:楽曲「永遠のブルー」にインスパイアされて生まれたジャンプスーツ


アルバム『12 hugs (like butterflies)』を再確認できる内容

本展では『12 hugs (like butterflies)』に収録された楽曲が、アート作品として表現されている。

例えば「Flower」は花を育てられるシードペーパー、「FOOL」は破壊や創造などを示すマッチボックスといった、楽曲にインスパイアされた作品が展示されているのだ。これらのアートは驚きや共感を呼び起こし、また各曲に対して抱いていたイメージに変化をもたらすように思う。

中央:「FOOL」から生まれたマッチボックス

『12 hugs (like butterflies)』のタイトルは、両手をクロスして自分で自分を抱擁する“バタフライハグ”をテーマとし、“自分自身をハグする12曲”という意味でつけられた。本展では、塩塚モエカがバタフライハグ(自分で自分を抱きしめる)を行うアートワークのスケッチ、制作時に使用したメモ、譜面といった貴重な資料が展示され、メンバーやスタッフの痕跡を感じることができる。

展示風景

展示風景

また、会場にはアルバムタイトルにちなんで、ドアの蝶番やイラストの形でバタフライが潜んでいる。さまざまなバタフライたちを探してみるのも楽しいだろう。

展示風景


名だたる“庭師”によるアーティスティックな空間

本展の“庭師”を務めるのは、気鋭のクリエイターやスタッフたちだ。

庭を彩る植物を手掛けたのは、いけばな草月流師範のアレキサンダー・ジュリアン。切り株や植物に絡まるスマートフォンの装飾(楽曲「Hug.m4a」より)や、植物の上でヴェールのように輝く蜘蛛の巣(楽曲「人魚」より)をつくったのは、「ファッション」をバックグラウンドに活躍するアーティスト、Christopher Lodenだ。

アレキサンダー・ジュリアンの手による植物に、Christopher Lodenの蜘蛛の巣が

樹脂の装飾はChristopher Lodenの手によるもの

煌びやかなビーズで作られた衣装はAvaが制作。こちらはメンバーたちが実際に身に着けた衣装である。作品は繊細この上なく、技巧を凝らした美しい細工に思わず溜息が出る。

ビーズの細工が美しい、Avaの衣裳

小屋の窓からは、空中を飛び交うカラフルな花々(楽曲「つづく」より)を見ることができる。ファンタジーの世界から来たような作品は、フラワーアーティストのfinaleflwrが制作したもので、空間に明るさと華やぎをもたらしている。

中央:カラフルな花々はfinaleflwrが制作(写真=オフィシャル提供)

展示されているポートレートは、羊文学を独自の視点で写真に収めてきたNico Perezが撮影しており、いずれも会場限定で購入することができる。Nico Perezの写真は、小屋のカーテンとして展示されている透け感のあるマルチクロス(楽曲「深呼吸」より)にも使われている。

なお、楽曲をモチーフに制作されたアート作品や写真の中には販売が決定したものも。いずれもここでしか手に入らない貴重な品だ。

Nico Perezのポートレートはどこか儚く切なくて、胸を打つ

マルチクロスにプリントされた写真は、Nico Perezが手掛けた

本展は、羊文学に纏わるクリエイティブが形を取り、静かな空気の中で佇む場である。美術品を鑑賞するための場所というよりは、彩り豊かなスタッフやクリエイターたちが務める庭師と観客が共に参加し、時間を共有し、想像力を羽ばたかせる親密な空間、と言えそうだ。会場に流れる音楽や対談音源、楽曲をイメージしたインセンスなども五感を満たし、羊文学の世界に浸る手助けをしてくれるように思う。

気持ちを豊かにし、遊び心を誘う『"ひみつの庭" inspired by 羊文学 - 12 hugs (like butterflies)』をお見逃しなく。

文・写真=中野昭子 写真(一部)=オフィシャル提供

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