犬と共に薪ストーブのある暮らし【穴澤賢の犬のはなし】
先代犬の「富士丸」と犬との暮らしと別れを経験したライターの穴澤賢が、数年を経て現在は「大吉」と「福助」(どちらもミックス)との暮らしで感じた何気ないことを語ります。
以前、『冬の八ケ岳もいい でも注意点もある』で書いた通り、山の冬も概ね快適である。マイナス15℃くらいになることもあるが、大福と散歩していてもなぜかそれほど寒くは感じない。ただし、室内の暖房は重要になる。
冬の山の家と光熱費
2023年11月に完全移住してひと冬越したが、暖房器具は寒冷地仕様のFF式(強制給排気<Forced Draught Balanced Flue>の略)で乗り切った。しかしそれまで5年ほど鎌倉市腰越との2拠点生活だったので灯油代はそれほどではなかったが、定住するとえらくかかることを知った。請求書を見て「えー!」となった。昨年2月の灯油代は5万円だったのだ。
夏はエアコンが不要なほど涼しいので光熱費はそれほどかからないが、その分冬に来るから結局は行って来いなのだ。
そして、今年は念願だった薪ストーブを導入した。定住している知り合いはほぼみんな入れているし、「薪ストーブはいいよぉ」と口を揃える。例えるならFF式ストーブがシャワーで、薪ストーブは湯船につかるくらい体が温まるという。
そんなわけで、わが家にも遂に薪ストーブがやって来たが、実はそれに付随するものがえらい大変である。
まず、設置するには煙突工事が必要になる。さらに床や背面に熱が伝わらないよう鉄板を貼らないといけない。続いて、当然ながら燃やす薪が必要になる。使用頻度にもよるが、普通は30センチくらいにまとめた薪をひと冬300束くらいは消費するらしい。さらに、それだけの薪を置いていく薪棚もいる。
さらにさらに、着火剤と薪を入れたらいいわけではなく、焚きつけ用の細い木がいる。焚きつけ用の木に火が付いてもまだ薪をそのまま入れるには太いから、その上に5センチ角くらいに割った薪を入れ、それで初めて薪ストーブが稼働し始める。
買う薪は太いから、それを割る道具もいる。割った薪を買い続けるのは高くつくので、原木を買ってそれを40センチくらいに切って、薪にするために割るといいと教えてもらった。
そうなると、原木を切るチェーンソーや、薪割り機も揃えないといけない。ざっとあげただけでも薪ストーブに付随することはこれくらいある。費用にすると、薪ストーブ本体と煙突工事諸々で約140万円、薪300束(またはトラック3台分)で15〜18万円、チェーンソー6万円、薪割り機12万円などなど、恐らく諸々含めると200万近くかかる。
コストパフォーマンス的にはFF式ストーブの方が圧倒的に安く済む(わが家は30万程度)。費用面だけでなく、薪ストーブは薪を割ったり運んだり肉体労働も付いてくる。
薪ストーブを入れるメリットはあるか?
そんなにまでして薪ストーブを入れる必要はあるのか、と思うかもしれない。私も現時点ではよく分からない。
ただ、数日前やたら冷える日に薪ストーブデビューしてみたが、たしかに体がぽかぽかする。ゆらゆら燃える炎を見ているのもなんだかいい感じだ。
これから冬を迎えるにつれ、薪ストーブの良さを実感することになるのかどうなのか。すでに入れてしまったので、後悔してもどうしようもないが。
ただ私は昔から「山のふもとで犬と暮らしてる(RCサクセション)」の歌詞の一節「今日は一日 本を読んで暮らした とても冷える日だった」、「おまえはストーブの前に伸びていた あくびしかしなかった」というくだりに憧れており、1日本を読んで暮らせるほどのんびりする暇がないことはもう分かったが、大福がストーブの前で伸びている光景を眺めたいとは願っている。
(補足)
前々回『山へ移住を考えている人へのアドバイス』に次のような質問があったので答えておこうかと思う。
質問
「田舎は人間関係に悩むと聞きます ほかの地域から来た人を受け入れてくれる土地柄かどうかはどこで判断しましたか?」
回答
私が暮らす「丸山の森」は長野県原村ですが、別荘地なので住んでいるのはみんな移住者です。だから受け入れるも何もみんな“よそ者”なので、閉鎖的なことはないです。今では原村出身の人たちとも仲良くなりましたが、いずれにしても定住者や地元の人と仲良くなった方がいいです。都会育ちだと知らないことばかりで、そういう面でもいろいろ教えてくれるから本当に助かりますよ。
プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる)
1971年大阪生まれ。2005年、愛犬との日常をつづったブログ「富士丸な日々」が話題となり、その後エッセイやコラムを執筆するようになる。著書に『ひとりと一匹』(小学館文庫)、自ら選曲したコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック『Another Side Of Music』(ワーナーミュージック・ジャパン)、愛犬の死から一年後の心境を語った『またね、富士丸。』(世界文化社)、本連載をまとめた『また、犬と暮らして』(世界文化社)などがある。2015年、長年犬と暮らした経験から「DeLoreans」というブランドを立ち上げる。
大吉(2011年8月17日生まれ・オス)
茨城県で放し飼いの白い犬(父)とある家庭の茶色い犬(母)の間に生まれる。飼い主募集サイトを経て穴澤家へ。敬語を話す小学生のように妙に大人びた性格。雷と花火と暴走族が苦手。せっかく海の近くに引っ越したのに、海も砂浜もそんなに好きではないもよう。
福助(2014年1月11日生まれ・オス)
千葉県の施設から保護団体を経て穴澤家へ。捕獲されたときのトラウマから当初は人間を怖がり逃げまどっていたが、約2カ月ほどでただの破壊王へ。ついでにデブになる。運動神経はかなりいいので、家では「動けるデブ」と呼ばれている。