ドジャース大谷翔平選手の偉業記念 初の打撃イベント 学童野球の課題解決も模索
■「50-50」達成記念 富士高校で小学生招いて50分打ち続ける企画
前人未到の記録をきっかけに、打球を遠くに飛ばす楽しさを知ってもらいたい。静岡県富士市にある県立富士高校の野球部がドジャース・大谷翔平選手の「50-50達成記念」と銘打って、小学生を対象にした「50分打ち続けよう!企画」を開催した。富士高校の稲木恵介監督はイベントを通じて、学童野球の新しい在り方も模索している。
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富士高校野球部は野球振興と地域貢献を積極的に取り組む学校として知られている。これまでも園児を集めた野球体験会や、勉強と組み合わせた小学生向けの野球教室などを開催している。
10月30日に新たな取り組みとして実施したのは、打撃に特化して50分間過ごすイベントだった。打撃のポイントを伝えるだけで、あとはとにかく打ちまくる。本塁打を目指して力いっぱいバットを振るシンプルな内容だった。稲木監督が狙いを説明する。
「自由に打ちたくても、子どもたちが目いっぱいスイングできる場所や時間は限られています。大谷選手の50-50が注目される中で、打球を遠くに飛ばす楽しさを知ってもらおうと思いました」
■大谷選手に憧れる小学生 打球を遠くに飛ばす機会を創出
ドジャース・大谷選手は今季、長いメジャーリーグの歴史でも初となる50本塁打と50盗塁を同じシーズンで達成した。今回のイベントには、豪快な本塁打に憧れる子どもたちがフルスイングできる機会をつくって、野球への興味を深めてもらう目的があった。
参加したのは富士市や富士宮市に住む小学生20人。学年や野球歴によってグループが分けられ、使うボールはティーボール、テニスボール、軟式ボールの3種類が用意された。最初は自信なさそうにバットを振っていた子どもは野球部員に盛り上げられたり、アドバイスを受けたりすると、思い切りスイングするようになっていく。段々とコツをつかんで飛距離が伸びるとうれしそうな表情を見せ、中には飛び跳ねて喜ぶ子どももいた。
野球部員が手本を見せる場面もあった。稲木監督は「お兄さんたちは、どうやって打ってる?打球だけではなく、フォームも見てごらん」と子どもたちに問いかける。すると「リラックスして構えて、ボールに当たる時だけ力を入れている」、「頭がグラグラ動いていない」と答えが返ってくる。稲木監督は細かい解説はせず、飛距離を出すために大事なポイントだけを子どもたちに考えさせた。
「指摘したり、注意したりするのではなく、小学生はのびのびと練習するのが一番です。数をこなしていくと自分なりの感覚が分かってきますし、上手くなる達成感もあります。指導者が教える以上に、子どもたちがボールやバットに触れる回数を増やすことが大切だと思っています」
■旧態依然の学童野球に危機感 平日ナイター練習を提唱
稲木監督は数年前から学童野球の現状に関心を持つようになった。そこで感じたのが、チーム方針と保護者の考え方のギャップだった。時代が変化しても、旧態依然として変わっていない仕組みが競技人口の減少や野球のマイナスイメージにつながっていると強く感じた。
「共働きの家庭が一般的になって、土日も仕事をしたり、他の兄弟の予定も入ったりしている中で、土日祝日に丸一日練習して保護者もグラウンドに居るチーム運営では保護者が協力できる家庭でなければ、子どもたちは野球チームに集まりません。また、グラウンドで怒声罵声が飛び、ルールや制限が多すぎて子どもたちが野球を楽しめないチームも少なくありません。」
週末に朝から夕方まで練習するチームは、その理由に「練習時間の確保」を挙げる。大半が打撃、守備、走塁全てを詰め込むため、準備や片付け、グラウンド整備にも時間がかかると説明する。それに対し、稲木監督は土日を半日練習にして、「平日のナイター練習活用」を1つの案としている。
「テーマをしぼって練習すれば1時間でもかなり有意義です。例えば、平日に1時間ナイターで打撃に特化した練習する日を設けて、その分は土日の練習時間を短くします。場所や時間などクリアすべき問題はあるかもしれませんが、練習メニューを特定すれば準備や片付けの時間も最小限で済むので無駄がありません」
■打撃に特化した初の試み 1週間経たずに定員いっぱい
稲木監督は今回のイベントで、打撃に特化した内容に小学生や保護者が興味を示すのか確かめたかったという。予想以上に反応が良く、募集をかけて1週間も経たずに20人の枠がいっぱいとなり、実際にイベントに参加した子どもや保護者からも好評だった。
「ボールをたくさん打てたので子どもたちも楽しかったようです。50分あればかなりバットを振れますし、時間が短いからこそ集中して練習することを保護者の方々も感じてくれたと思います」
大谷選手が子どもたちを魅了するのは打球を遠くに飛ばす能力に加えて、野球を楽しむ姿にもある。目いっぱいバットを振り、自由に練習する環境をつくるのは野球に関わる大人たちの役目だろう。
(間 淳/Jun Aida)