「10万円のうまい棒」が1日で完売! 現代美術家・松山智一に「作品に込めた思い」と「うまい棒の好きな味」を聞いたら意外すぎる答えが返ってきた
いきなりだが「1本10万円のうまい棒」をご存知だろうか。世界で活躍する現代美術家・松山智一氏が株式会社やおきんとコラボして実現した「うまい棒 げんだいびじゅつ味」である。50本限定で販売した結果……購入希望者が殺到して即完売したらしい。マジかよ。
ただ、実物は麻布台ヒルズ ギャラリーで2025年5月11日まで開催中の個展「松山智一展 FIRST LAST」で拝むことが可能。というわけで今回は、ネット上でバズりにバズった10万円うまい棒の生みの親・松山智一さんご本人に直撃インタビューしてきたぞ。
【写真】10万円のうまい棒と松山智一展「FIRST LAST」
・うまい棒
うまい棒は1979年に発売開始。調べたところ、当初は「ソース味」「サラミ味」「カレー味」の3種類しかなかったらしい。うまい棒の知名度を爆発的に上げた「めんたい味」は1982年に登場したそうだ。ちなみに現在は15種類以上とのこと。
とにかく人気の理由は「1本10円(現在は15円)」と「種類の多さ」ではないだろうか。小学生の頃「遠足のおやつ代は300円まで」というルールがあったが、多くの子どもたちが安くて種類豊富なうまい棒のユーティリティぶりに感銘を受けたはず。
・1本10万円
前置きが長くなってしまったが、そんなうまい棒が1本10万円である。なんなら税込11万円である。さすがにヤバい。いくら現代美術界の異端児・松山智一さんの作品とは言っても、本当に買う人なんているのだろうか。と思ったら……
即完売である。
むしろ購入希望者が殺到して抽選販売となったらしい。ってか、完売と言われると「買っておきたかった」と思えるから不思議だ。それがアートのチカラなのだろうか。それとも起こっている現象が意味不明過ぎて金銭感覚がバグってしまっただけなのだろうか。
たしかに実物はオーラが違う。アクリルケースに入ったうまい棒は「10万円」というオーラを放っている。おなじみの「めんたい味」にこのオーラは出せないだろう……たぶん。とにかく本人に話を聞くしかねぇぇ!
・本人直撃
──というわけで、凄い反響ですね。
「ありがとうございます。美術ってどうしても崇高で高尚なものと思われがちで、それを大衆化したいってことではないんですが、接続詞として何かできないかなって思いました」
──それで、うまい棒を選んだんですね。
「皆さん経験あると思うんですけど “私はめんたい味が好き” とか “僕は納豆味” とか “お前はサラミだよね” といったように、皆がうまい棒にアイデンティティ(自分らしさ)をかぶせていたと思います。
それってとても普遍的な経験で、そんな “大衆文化の普遍性” と “美術の普遍性” をイコールにできないかなって思ったんです。ただ駄菓子として考えたら10万円になると1万倍なんですね。社会の反応はそこだったわけですが」
──あのうまい棒が10万円! となる気持ちは分かります。
「そうですね。あの10円で得た経験を、今度は大人になった時にどこに価値が付けられるだろうかって考えました。10万円のうまい棒、あれって何にも施してないんです。
サインも書いていないし、印刷も銀色にすれば10円以下になる。ただ “人が持つ思い” がストーリーだと思ったので千羽鶴みたいなイメージで線画だけを入れただけ。できるだけミニマムにしたかったんです。
つまり、物には価値はない。それでもテレビやネットニュースで取り上げられ話題になる。購入希望者が殺到して完売すると “買えばよかった” という方が現れるわけです」
──パッケージがシルバーだから高いと思ったら真逆だったんですね。でも僕も買いたいと思いました。
「それが “価値が生まれる” ということなんです。買いたいと思う方が多くなれば、バリュー(価値)が定着するんです。
『アッコにおまかせ!』も面白かったですよ。出演者の皆さんが触らずに見入るんです。ただの1本のうまい棒が10万円でしかも完売しているとなると、突然美術作品に見えるわけですね」
──ストーリーによって物に価値が生まれるということですね。
「美術作品には様々な価値基準があると思うんですけども、何が素晴らしいというのは、結局みんなが作ったストーリーを信じるか信じないかだけの話なんです。それなら一緒に物語を作った方が面白くないですか? ということですね」
──勉強になりました。ちなみにうまい棒の中で松山さんが好きな味とかあるんですか?
「僕は幼少期をアメリカで過ごしたんで……実はアレに乗れなかったんです。どれが1番かって言えなくて。リアルタイムで経験できなかったのでうらやましさがありました。だからみんなが食べているのを見てマネをしていましたよ」
──僕はめんたい味が好きです。
「そうなんですね。僕はやおきんさんに行って色々食べさせてくださいって言って、今販売している種類を色々食べたんですけど……やっぱりわかんないな! そういえば『プレミアムうまい棒』も食べましたけど美味しかったですね。食べてみてください」
──今度プレミアムうまい棒を食べてみます。松山さんの今後のご活躍にも期待しております! ありがとうございました!
・麻布台ヒルズ ギャラリーで開催中
いかがだっただろうか。冒頭でもお伝えしたとおり、1本10万円のうまい棒は完売してしまったものの、会場で実物を拝むことはまだ可能だ。
現代美術家・松山智一さんの東京初となる大規模個展「松山智一展 FIRST LAST」は2025年5月11日まで麻布台ヒルズ ギャラリーにて開催中。興味があればぜひ足を運んで実物をご覧になってほしい。
参考リンク:松山智一展「FIRST LAST」オフィシャルサイト
執筆:砂子間正貫
Photo:RocketNews24.