なぜ中国は今、空母2隻を太平洋に同時展開したのか?
2025年6月、中国海軍の空母「遼寧」と「山東」が太平洋で初めて同時に活動し、日本周辺海域で活発な動きを見せた。
この行動は、防衛省や国際社会から注目を集め、特に台湾有事を背景とした中国の戦略的意図が議論されている。
中国がこのタイミングで空母2隻を展開する背景には、台湾問題を巡る軍事バランスの変化と、在沖縄米軍以外の外部勢力の関与を牽制する狙いがあると考えられる。
中国空母の活動概要
防衛省によると、6月7日から9日にかけて、「遼寧」と「山東」が沖縄や小笠原諸島周辺の太平洋で確認された。
「遼寧」は、南鳥島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内を航行し、戦闘機やヘリコプターの発着を行った。
一方、「山東」は沖ノ鳥島のEEZ内で同様の活動を実施。
両空母の同時進出は初めてであり、500回以上の艦載機発着が記録された。
さらに、6月7日と8日には「山東」のJ15戦闘機が、海上自衛隊のP3C哨戒機に異常接近(最短45メートル)し、前方を横切る危険な行動を取った。
この行為に対し、日本政府は「偶発的衝突のリスクがある」として中国側に抗議したが、中国外務省は「国際法に適合した通常の活動」と主張している。
台湾有事と戦略的背景
中国の空母活動は、台湾有事を想定した軍事戦略の一環と分析されている。
台湾問題は中国にとって「核心的利益」であり、2005年の反分裂国家法により、台湾独立の動きがあれば軍事行動も辞さない姿勢を明確化している。
近年、中国は空母の運用能力を向上させ、遠洋での作戦遂行力を強化。
今回の活動では、第2列島線(小笠原諸島からグアムに至るライン)を越えた「遼寧」の航行が確認され、米軍のグアム基地からの増援を牽制する意図がうかがえる。
防衛省関係者は「遼寧」と「山東」が、第2列島線を境に「米空母役」と迎撃役に分かれて演習を行った可能性を指摘している。
この戦略の核心は、台湾有事の際に在沖縄米軍以外の米軍や同盟国の介入を最小化することにある。
中国は、台湾周辺での迅速な軍事作戦を完結させ、米本土やグアム、ハワイからの増援が到着する前に既成事実を築くことを目指している。
特に、第1列島線(九州・沖縄からフィリピン)と第2列島線の間で米軍の動きを封じ込め、太平洋での主導権を握る意図が明確だ。
空母2隻の展開は、こうした遠洋作戦能力の向上を示すデモンストレーションであり、米軍や日本への心理的圧力ともなっている。
在沖縄米軍以外の関与を牽制
在沖縄米軍は、台湾有事に最も迅速に対応可能な米軍拠点である。
グアムやハワイ、さらにはオーストラリアや本土からの増援が加われば、米軍の戦力は飛躍的に増大する。
中国の空母活動は、これらの遠方からの支援を遅らせる、または阻止する能力を誇示するものだ。
特に、J15戦闘機の異常接近は、監視活動を行う自衛隊や米軍機に対する牽制であり、空母防空圏への進入を阻止する意志を示している。
また、沖ノ鳥島や南鳥島のEEZ内での活動は、経済安全保障の観点からも注目される。
これらの海域はレアメタルなどの海底資源が豊富で、中国は海洋調査船の活動を通じて実効支配を強めようとしている。
空母の展開は、こうした資源戦略と連動し、日本のEEZに対する圧力を高める狙いもあるとされる。
今後の展望
中国の空母活動は、最新空母「福建」の就役(2025年内予定)により、さらに活発化する可能性が高い。
「福建」は電磁式カタパルトを採用し、戦闘機の出撃能力が向上しており、米空母に匹敵する性能を持つとされる。
日本や米国は、引き続き警戒監視を強化し、日米同盟やQUADなどの枠組みを通じて対抗策を講じる必要がある。
特に、台湾有事は「日本有事」と直結するとの認識が強まっており、自衛隊の即応態勢や米軍との連携が不可欠だ。
中国の空母2隻の太平洋進出は、台湾有事を念頭に置いた軍事力の誇示であり、在沖縄米軍以外の外部関与を牽制する戦略的行動である。
この動きは、軍事的な能力向上だけでなく、経済安全保障や地域への政治的圧力とも連動している。
日本を含む同盟国は、中国の意図を的確に分析し、抑止力の強化と国際協調を通じて地域の安定を維持する必要があるだろう。
文 / エックスレバン 校正 / 草の実堂編集部