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美しいストライプのはさみを持つ<ベニワモンヤドカリ> 大好物は故郷・高知のマガキガイ?

サカナト

ベニワモンヤドカリ(提供:椎名まさと)

ベニワモンヤドカリは鉗脚や歩脚に赤白の帯がある、非常に美しいヤドカリです。

その美しさからアクアリウムショップでもよく見られるヤドカリですが、四国などでは自ら採集することもでき、筆者も高知県の磯で採集、飼育したことがあります。

体は平べったく、タカラガイやイモガイなどの貝殻によく入っています。そして我が家では別の貝の中に好んで入っている様子を観察することができました。

※本記事では海の生物の飼育について扱っています。海の生物は真水(淡水)で飼育することはできません。海水魚飼育の設備は淡水魚とは異なるものが必要になります。詳しくは専門誌などをご参照ください。なお、一度飼育した生物を、海や川などに逃がすことは絶対にやめましょう。

ベニワモンヤドカリとは

ベニワモンヤドカリCiliopagrus strigatus (Herbst,1804)は十脚目(エビ目)・ヤドカリ科・ワモンヤドカリ属の甲殻類です。

鉗脚(はさみ)や歩脚に赤と白の縞模様があり、甲の部分が真っ白であるなどの特徴があります。

2010年に採集したベニワモンヤドカリ。意外とシャイ?(提供:椎名まさと)

本種を含むワモンヤドカリ属は日本にも何種かいますが、多くはやや深い場所に見られ、種類によっては300メートルを超える深さからも採集されているようです。

しかし、ベニワモンヤドカリは概ね浅瀬に見られます。

ベニワモンヤドカリを採集する

ベニワモンヤドカリはワモンヤドカリ属のなかでも磯に多く見られるもので、筆者は2010年に初めて採集して以降、何度か水深1メートルほどの場所でベニワモンヤドカリを採集しています。

2018年に見られた小さなベニワモンヤドカリ(提供:椎名まさと)

2018年秋に高知県の磯で採集したベニワモンヤドカリは、以前採集したものと大きく異なるところがありました。それは、その“大きさ”です。

この個体が入っていたカモンダカラガイは大きさ3センチほど。それを考えると、非常に小さい個体であることが分かります。大きさ1センチもない個体でした。

これよりも少し小さいと、眼やひげなどは赤いものの、はさみや脚などは白っぽくなるようです。

2019年に高知県で採集したベニワモンヤドカリ(提供:椎名まさと)

2019年に採集したベニワモンヤドカリは、イモガイの殻の中に入っていました。

この年は魚が少なかったので、この個体とほか数個体の小魚のみを大事にお持ち帰りしたのでした。

飼育してわかったベニワモンヤドカリの大好物

採集したベニワモンヤドカリは片道12時間かけて無事に持ち帰り、サンゴ水槽に入れて飼育開始。

しかし、底砂にコケが生えていきます。この水槽の中には底砂を攪拌してくれるマガキガイという貝を入れているのですが、なぜかマガキガイはあまり働いてくれていないようです。

そのマガキガイを取り出してみると中身が空っぽで、実はベニワモンヤドカリがマガキガイを美味しく平らげてしまっていたのでした。

故郷の「ちゃんばら貝」が好物?

マガキガイといえば、高知県では「ちゃんばら貝」という名前で親しまれている貝です。高知県で採集した我が家のベニワモンヤドカリも、マガキガイは大好物だったようです。

「故郷の名産」の殻を背負うベニワモンヤドカリ。だいぶ大きくなった(提供:椎名まさと)

なお、ベニワモンヤドカリの飼育について調べてみたところ、「雑食性だが生きたマガキガイを襲うこともある」という記述を発見しました。

ベニワモンヤドカリは体が平たいという特徴があり、イモガイやタカラガイ、マガキガイなどの貝殻に好んで入るといいます。

ベニワモンヤドカリ飼育のアドバイス

ベニワモンヤドカリの飼育について、熱帯性の海水魚がうまく飼育できている水槽であれば特に難しいことはありません。

ベニワモンヤドカリ(提供:椎名まさと)

同じベニワモンヤドカリ同士では激しく争うため、ベニワモンヤドカリの飼育は一つの水槽につき、1匹だけ飼育するのが無難です。

ほかのヤドカリ相手にも攻撃的になることがあるので注意したほうがよいでしょう。

ベニワモンヤドカリと一緒に飼育するのが難しい魚

多くの場合で魚と一緒に飼育しても大丈夫ですが、中には一緒に飼育するのが難しい魚もいます 。

例えば、モンガラカワハギやフグといった魚は、ヤドカリなどの甲殻類を好んで食べてしまいます。ほかウツボ類、ハタ類、フエダイ類、大型のベラ科魚類といった魚も避けたほうが無難です。

一方、アクアリストにファンの多いスズメダイ類、クマノミ類、ハゼ類、ハナダイ類、小型ヤッコなどとの飼育については問題ありません。

「ベントスハゼ」の導入も推奨

餌は一般的な魚向けの配合飼料でよいのですが、できればフレークよりも小さな粒状のもの(沈降性の餌)のほうが向いているでしょう。そうすると底の方にすむヤドカリも楽に餌にありつけるというわけです。

よく水槽の底砂の攪拌のために入れられるマガキガイは水槽に入れてもベニワモンヤドカリに食べられてしまうことが多く、一緒に飼育するのには適していないように思います。

砂の攪拌のためにはマガキガイではなく、オトメハゼやミズタマハゼなどのいわゆる「ベントスハゼ」を導入するのが適しています。

ミズタマハゼ(提供:椎名まさと)

このようなハゼはパウダー状の砂を口にふくみ、中に潜む餌を食べ、砂は鰓蓋から排出します。

しかしながらクロイトハゼやサラサハゼなど、一部の種は中層を泳ぎ、砂をサンゴの上にかけるように排出することもあるのでサンゴ水槽にはあまり向いていないところがあります。

(サカナトライター:椎名まさと)

文献

青木猛(2010)、原色海水魚図鑑 第30巻 砂や岩の上の愉快な奴ら ヤドカリの仲間 コーラルフィッシュ Vol.28、枻出版社

有馬啓人・加藤昌一(2014)、ネイチャーウォッチングガイドブック ヤドカリ、誠文堂新光社

三宅貞祥(1982)、原色大型甲殻類図鑑(I)、保育社

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