脱・古い時代の父親像。甘い父親/厳しい母親を脱却すべき本当の理由
今回は「父親育児のススメ」をテーマとして、公立小学校で23年間以上たくさんの親子に接してきた教育評論家の親野智可等先生に話を聞きました。聞き手は、2023年に1児の父になったお笑い芸人EXITのりんたろー。さん。後編では、令和時代の父親像や、子育てを上手にシェアするための夫婦のコミュニケーションについて伺いました。
自分のキャラクターに合った令和時代の父親像を
りんたろー。:僕らが育った時代は、ママが子育てや家事をしてパパは外で仕事、という固定観念がまだ強かったけど、今の時代の父親像はどういう風に変化しているんでしょうか?
親野:変わりつつはあると思いますが、昭和の時代のような男女の役割分担が、今でも日本には染みついていると思います。とても時代遅れだし、子どもにとってよくありません。男女不平等な価値観をまた再生産してしまいますから。
女性でもリーダーシップのある人はたくさんいるし、逆に人をサポートしたりケアすることが得意な男性もいる。父親だからこうしないといけない、母親だからこうであるべき、と古い価値観に捉われてしまうと苦しくなるし、自分のキャラクターや資質を自然に出して子どもに接するのがいいと思います。りんたろー。さんはご自身はどんなタイプだと思いますか?
りんたろー。:僕は、あれしなさいと指示するタイプではないし、どちらかというと寄り添ってケアするタイプですね。令和の父親の姿として、キャラクターによって役割が違ってもいいと考えたら、僕はママや子どものケアに回るのが自分に合っているのかなと思いました。
でも、ママのほうが子どもと接する時間が長いので、どうしてもママが厳しく言わないといけない場面も増えてくるのかなと。そういうときに父親が優しくケアする担当となると、ママ的にも面白くなかったりするかもしれないですよね。
親野:そうですね。パパだけがいいところどりすると、ママのストレスは半端ないですよね。そのストレスがどこに向かうかというと、弱い相手である子どもに向かってしまうことが多いんです。
りんたろー。:子どもに矛先が向いてしまうんですね。でも、うちの場合は僕に直接向かう気がします。
親野:だとしたら、メタ認知ができていて、自己管理ができるママなのかもしれないですね。メタ認知ができない人は、自分が何に対して不満を持っているのか気が付かないままに、弱い相手に対してストレスをぶつけてしまうんです。水は低いところに流れるように、ストレスは弱いところに流れてしまうので。
子育てをシェアするには8割担う意識が必要
りんたろー。:名言! でも、パパばかりがいいところどりして、ママが損してしまう状態にならないように、どうしたらいいですか?
親野:たとえば子どもがよくないことをしたとして、ママばかりが叱ったり嫌な役回りにならないようにパパもその役割をしましょう、ということではなく。前回話したように、子どもと目線を合わせて話を聞いてあげて共感してあげる、という対応を積極的にやりましょう。
「ママ、子どもたちケンカしてるよ」みたいに子どもの問題をママに丸投げするのではなく、さまざま起こるあれこれをパパも対応するということ。子育てって身の回りのお世話だけじゃないですからね。
そもそもパパは手伝うという発想ではなくて、子育てをシェアするという発想に切り替えないといけません。
りんたろー。さん:たしかに! また名言ですね!
親野先生:子育てを手伝うというとサブみたいなイメージだけど、ふたりの子どもなんだからシェアしないと。人間はみんな自分のほうが大変だと感じるので、相手より余分にやるくらいの意識でやらないとシェアにはならないですよ。パパは8:2くらいで自分がやるように意識しましょう。
幼少期に遊びに熱中することで地頭がよくなる
親野:りんたろー。さんは、夫婦の様子が子どもに影響していると感じることはありますか?
りんたろー。:まだ小さいのでそこまではわからないですけど、僕ら夫婦はよく笑うからか、子どもも笑顔が多くて、外に出かけてもみんなに愛想を振りまいてます。
親野:素晴らしいですね! それだけで子育てのすべての条件を満たしています。笑顔でいると幸せホルモンがどんどん出るし、それを見ている子どものメンタルも安定しますよ。家族が笑顔でいられたら子どもの自己肯定感も高まるし、親子関係もよくなります。それさえあればお子さんの人生はもう大丈夫です。僕はいつも言ってるのですが、しつけや勉強は100番目でいいんです。
りんたろー。:100番目ですか?!
親野:1番目から99番目は、家族が笑顔で仲良くて、親子関係がいいこと。親子関係がよければ安心して家にいられるし、自分は生きていていいんだという自己肯定感につながります。
りんたろー。:確かに、自己肯定感が高い素敵な子どもに育ってほしいですね。ただ、そうは言っても子どもの学力をつけてあげたいとは思う親も多いと思います。何か親ができることはあるのでしょうか?
親野:子どもの地頭をよくするためには、本人が好きな遊びをとことんやらせてあげることが一番です。とある日本の有名な研究によれば、いわゆる難関大学に受かった子の幼少期を調べると、未就学期に本人がやりたい遊びを徹底的にやらせてもらっていたというデータがあります。
これはなぜかというと、子どもが好きな遊びに熱中しているとき、ドーパミンがたくさん出て、シナプスが大増殖するから。シナプスとは、ニューロンという神経細胞同士をつなぎ合わせて情報をやりとりする交差線のことを言いますが、シナプスは増えれば増えるほど地頭がよくなるんです。
りんたろー。:シナプスって渋谷のスクランブル交差点みたいっすね。
親野:そうそう(笑)。とはいえ、子どもが遊びに熱中していても、ごはんの時間だったり出かける時間だったり、止めないといけないタイミングも必ずあると思います。でも、せっかくシナプスが大増殖しているときに止めてしまったらもったいない。高速道路と同じでノンストップで高スピードだとあっという間に遠くまでいけるのに、途中で止められてしまうと立ち上がるのに時間がかかってしまうんです。
りんたろー。:遊びに熱中させるのがいいんですね! 全然知らなかったです。
夫婦の民主的な対話のコツとは
りんたろー。:話は変わりますが、夫婦はそれぞれ価値観が違い、子どもの教育方針などでぶつかることがあると思います。夫婦間のコミュニケーションのコツなどがあれば、ぜひ教えていただきたいです。
親野:夫婦とはいえ、生まれ持ったものも育った環境も、見てきた景色も生きてきた文脈も全部違うんだから、意見がぶつかって当然です。まずは、違って当たり前だということを理解することが大事です。そのうえで、自分が正しいとか自分に合わせてもらおうとしすぎないこと。
当たり前のようですが、夫婦で対話をすることが絶対に必要。意外とできている夫婦は少ないんですよね。パパはお茶を出して、ママを褒めたりして雰囲気をよくして、それから本題に入る。本題でもまずはママの意見に共感してあげること。たっぷり共感したあとで、自分の意見を話すとよいです。
そうすると最初に共感的に聞いたことで、今度はママも共感的に聞いてくれるはず。そういう手順を踏むことが、民主的な対話につながります。そこでお互いが譲れるところは譲って、歩み寄るところは歩み寄って、着地点を見つけていくようにしたらよいと思います。
りんたろー。:僕は子育て番組にも出させてもらっているので、ママに対してけっこうマウント気味に入っちゃうことがあって、それは雑だったなと反省しています。番組で得た知識を「専門家の人はこう言ってたよ」とか。
ママからすると「普段子どものこと見てないのに、頭でっかちにそんなこと言わないで」という気持ちだったと思います。ちゃんと自分がやるべきことをやって歩み寄って、ママの意見をまず先に聞いて、そのあとに言うべきでした。
親野:それは大事ですね。でも、そこを分かっているということは、りんたろー。さんは自分をメタ認知できているんですね。
ケンカは仲直りの過程まで見せる
りんたろー。:でも、一緒に子育てしていたらケンカになってしまうときもどうしてもあるとは思うんですが、やっぱり子どもの前ではケンカしないほうがいいですか?
親野:はい。特に、自分のことでママとパパがケンカしているとなると、子どもにとっては大きなストレスになります。ただ、どうしてもケンカになってしまったときは仕方ないので、仲直りをする場面も絶対に見せてあげてください。
りんたろー。:なるほど。夫婦喧嘩は見せないほうがいいに決まってるけど、起きてしまったら、仲直りする過程も見せるということですね。
親野先生:そうです。とはいえ大人も最初の「ごめんね」がなかなか言えないですよね。そんなときは、LINEがおすすめですよ。口に出しては言えないことも、LINEで書き言葉になると言えたりしますから。私も女房とけんかしたときは口ではなかなか謝れないけれど、LINEで「さっきはごめんね。言い過ぎた」に土下座みたいな絵文字をつけたりします。
りんたろー。:先生、絵文字までつけるんですね(笑)! 直接言葉で伝えられないときはテクノロジーの力を借りると。
親野先生:気持ちをLINEで伝えるのは、思春期の子どもに対してもよいですよ。たとえば「運動会の実行委員頑張ってたね。君の頑張りを誇りに思うよ」と伝えたいけど、言ってるそばから「うぜー」みたいに言われるときもあると思います。そういうときもLINEだったら伝えることができるかもしれません。
ママの自己肯定感を下げないために家族写真が有効
親野:最後にりんたろー。さんにもうひとつおすすめしたいのが、家族の写真を家の中に飾ることです。たとえば、赤ちゃんが生まれたばかりでパパママが愛しそうに見ている場面やお世話をしている場面はすごくよいです。普段目につく場所にそういう写真があることで、自分には大事なパパママがいて、パパママは自分のことを大事にしてくれているということが実感できるのです。
このことによって子どもの自己肯定感が60%代から90%代にあがったというエビデンスもあります。これは「ほめ写プロジェクト」のメンバーで発達心理学者の岩立京子先生(東京家政大学教授)の研究によるものです。
そして、もうひとつ大事なことが、ママの自己肯定感も上がるということ。なぜなら「あのとき大変だったけど生まれてくれて嬉しかったな」「私けっこう子育て頑張ってきたじゃん」と、自分を肯定できる証拠写真になるんです。
りんたろー。:仕事をしていると褒められたり、評価されることはあるけど、ママを褒めてくれる人ってあんまりいないですもんね。
親野先生:子育てはやって当たり前で、頑張っても褒められることがあまりないんですよね。子どもが生まれる前は仕事で評価されて自己肯定感が高かったとしても、子育ては孤独だしなかなか達成感もないし、褒められることもないから、自己肯定感下がっちゃうんですよね。
りんたろー。さん:たしかにそうですね。ママの自己肯定感もパパが上げていかないといけないですね! そのためにも、さっそく親子写真を部屋に飾ってみようと思います。