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バンドマンから業界へ。多くの経歴を経て到達したミクスチャースタイルとは?「サウンドマン」デザイナー・今井千尋さん【アメトラをつくった巨人たち。】

Dig-it[ディグ・イット]

「もう随分前のことになりますが、旧い友人Nから『ニューヨークのブランド「ニューリパブリック」と契約した。原宿に店も出すからよろしくね!」と。その旧い友人は、ジャケットスーツとは縁遠い世界、カジュアル系の業界人だったので『大丈夫か?』と思っていたら『この案件、コイツとやるから、いろいろ教えてやってね~』と、紹介されたのが今回のゲスト、サウンドマン代表・今井君でした。その後、独立してウチの店にもほど近い槍ヶ崎交差点に事務所を開き、何度か行き来した仲です。今まで紹介した『アメトラをつくった巨人たち』の中でも、音楽関連からブリティッシュトラッドまで、なかなかの経歴を経て到達した今井くんならではのミクスチャースタイルを改めていろいろと掘り下げて紹介していきます」

【案内人】Pt.アルフレッド・本江浩二さん

「サウンドマン」デザイナー・今井千尋さん|1964年生まれ、千葉県出身。大学在学中から音楽に傾倒し、青山「ブルックスブラザーズ」などでアルバイトをしながらプロを目指していたものの、卒業後に限界を感じ、知人の誘いでアパレル業界へ。子供服メーカーからキャリアを重ね、フレンチデニムブランド「シピー」、ブリティッシュトラッドブランド「ドレイパーズベンチ」、世界的ヴィンテージコレクターでもあるトム・オートマン率いる「ニュー・リパブリック」などを経た後に独立。2000年に「サウンドマン」を立ち上げた

音楽を端緒とする英国族文化との親和性

日本におけるアメカジムーブメントの礎を築き上げたリビングレジェンドたちの貴重な証言を、Ptアルフレッド代表・本江さんのナビゲーションでお届けする連載企画。今回ご登場いただくのは、英国でクールを意味するスラングでもある“サウンド”をブランド名に掲げ、往年のヴィンテージガーメンツにインスパイアされつつも現代的にモダナイズを重ねたリアルクローズを展開し続ける「サウンドマン」のデザイナー今井千尋さん。

大学在学中は英国音楽に傾倒し、本流のファッションとは縁遠い立ち位置にあったというように、バンド活動を続けつつも、将来のライフプランは何ひとつ考えていなかったと当時を振り返る。

「ヤマハが主催していたイーストウエストというコンテストの県大会で優勝したのが、大学3年の頃。かといって、音楽で食っていこうとか、就職しようとか、具体的なことは何も考えていませんでした(笑)。4年のタイミングでバンドが空中分解した際もまだ、いわゆる就活も一切していない状態。学校近くにあった『ブルックスブラザーズ』でアルバイトしたりしながら、結局は卒業まで何も決まらないまま、一旦は音楽で食っていこうと、事務所に所属して。モッズかぶれの格好をしたりして、洋服は好きでしたが、ファッション業界に興味があったワケでもなかった。

そんななか、事務所のプロデューサーに言われるがまま、毎月1曲ずつ合計12曲をひたすら書き続けていたのですが、何の見返りもない生活にストレスは溜まる一方でしたし、アルバイトでは社会保険もつかないしで、アパレルの商品管理程度なら音楽活動を続けたまま二足のわらじができるだろうと甘い考えから、まずは子供服メーカーに就職したんです。そんな矢先、父親が心筋梗塞で急逝し、さらに音楽活動にも限界を感じ始めた時期でもあって。知人の紹介を頼りに、当時隆盛期を迎えていた『シピー』へと移り、当初は営業職に就きました。在籍中にいろいろな服に触れるなか、自分が好きなスタイルの大半はイギリス発祥であると気付き、古着を中心に英国服へとどっぷりハマっていきました」。

ヴィンテージをメインに英国服を買い漁るなか、ロンドンのストリートに端を発したモッズやニューウェーブといった族文化の源流となる、ブリティッシュトラッドへと次第に関心が移っていったという。

音楽をきっかけに30年代の英国スタイルへと傾倒

1987年にヤマハ主催でスタートした世界最大級のアマチュアバンドコンテスト『BAND EXPLOSION』にも出演するなど、かつては音楽事務所に所属し、プロを目指していた時期もあったという。

1930年代頃のブリティッシュトラッドを再現していた「ドレイパーズベンチ」在籍時代。定番だったこのワイドパンツは、当時の縫製工場担当者からお借りした。

若かりし日の今井さんが参考にしていたのは、1930年代頃までに見られた英国紳士たちのクラシカルなスタイル。いわゆるブリティッシュトラッドの源流にして特権階級の日常服に強い関心を寄せていたとか。

英国クラシックからミックスクラシックへ

「シピー」での経験を経て、クラシカルな英国紳士服に根ざしたブランド「ドレイパーズベンチ」へと移籍したのは、27歳の頃。1930年代頃までに見られたブリティッシュトラッドの流儀やマナーへの関心はさらに加速していったという。

「ノーベントのジャケットにロングポイントカラーのシャツ、ツープリーツのワイドパンツというクラシカルなスタイルが、ぼくの当時の日常着でしたが、一方でヴィンテージに関しては英米問わず、30~40sのカジュアルウエアの研究もライフワークとして続けていて。音楽的にもアシッドジャズが盛り上がり始めた頃でしたし、少なからずフォーカスされたシーンではあったものの、ファッションの本流やトレンドからは、とにかく縁遠いマニアックな界隈に身を置いていたんですね。とはいえ、シーンが大きくなるにつれ、徐々にぼく自身が飽きてしまって(笑)。というのも、頭でっかちに型にハマり過ぎた窮屈な世界だなと。

そんな折、原宿キャシディで『ニュー・リパブリック』とデザイナーのトム・オートマンの存在を知りました。ニューヨーク発ながら、ぼく同様に英米問わず30~40年代頃のヴィンテージクローズから着想を得たスタイルを打ち出していましたし、その後も興味を持って追っていた矢先、繊研新聞に『ニュー・リパブリックと契約』という記事を見つけ、早速ライセンスを管理する企業へ電話すると、今すぐ会いたいとのことで、社を訪れたら、その場で採用されて。しかもいきなりの責任者ですよ(笑)。

トントン拍子で話が進むなか、『ドレイパーズベンチ』を退職し、わずか3ヶ月後にニューヨークまでトム・オートマンを訪ねることになり、クラシカルな30sのスーツをキメキメで会いに行ったところ、トムが僕のことを結構気に入ってくれて(笑)。結局は『ニュー・リパブリック』用に新しい会社を立ち上げることになり、当時の相棒からは『日本製は今井くんが全部デザインしなよ』と。とはいえ、ぼくは作ることに関しては何の経験も知識もなかった。そこで『ドレイパーズベンチ』時代の常連さんで、日本で『ラルフローレン』が紹介される前から『ラルフローレン』みたいな展開をしていた古参ブランド『エーボンハウス』でものづくりをしていた仲間を、その生産背景ごとプロジェクトに引き入れました。そういった経緯で、わずか数名体制で日本国内における『ニュー・リパブリック』をスタートさせることになったたワケです」。

「ニューリパブリック」との出会い

「ニュー・リパブリック」のデザイナーにして世界的ヴィンテージコレクターでもあるトム・オートマンは自身所有のアーカイブから、すでに消滅したワークブランドや量販系のタグを写真集としてまとめるほど、往年のヴィンテージガーメンツに対する造詣が深かったという。

今井さんが現在も所有している「ニューリパブリック」のアーカイブ。サファリジャケットを思わせるディテールを有したマドラスジャケット、クラシックなビッグシルエットのチノトラウザーズ。そして右下のギンガムチェックのBDシャツは、日本企画として今井さんが制作したもの。

自身のブランドサウンドマンを設立

「ニュー・リパブリック」も軌道に乗り始めた90年代末頃、首謀者のトム・オートマンから突然の店舗休止、さらにブランドからも撤退する旨が国内チームに告げられた。

「もう引退するから日本のチームで引き継いでくれと言われたものの、ぼくらにそれだけの体力はなかった。とはいえ、少量ながらも並行してオリジナルアイテムも展開していたので、ある程度のノウハウはありましたし、会社自体は当時台頭していたストリートに舵を切ることとなり、これまで蓄積した生産背景やパターンなど一式は託すとのことだったので、それならばと1999年に『サウンドマン』をスタートさせました。当時、そこからデビューしたブランドがすべて大成すると言われた代官山のパーフェクトルームに小さなオフィスを構え、取り急ぎ作ったサンプルを持って数軒のニューリパブリックの卸先を回ったところ、生産できるぎりぎりのオーダーをいただけたので、とりあえず1年だけやってみようと(笑)。半年後、オフィスにて展示会を開催し大手セレクトはじめ新規の取引先からのオーダーも入り、ようやく自分のブランドをやっていくんだという覚悟を決めました(笑)」。

ありそうでなかった英米デイリーのミックス

こうして創業から四半世紀以上を重ねる人気ブランドへと成長した「サウンドマン」。その根底には、恩師でもあるトム・オートマンの哲学が今も静かに脈打っているという。さらに、3年前には苦楽をともにした代官山から、地元である横浜へと拠点を移し、よりパーソナルなプロジェクトとして「サウンドマン」を続けていると語ってくれた。

「トムは言葉で世界観を表現するのが得意な方で、象徴的な言葉と合わせて現代的なミクスチャー感覚を意識していました。ぼくが身をおいていた英国クラシック界隈とは異なり、英国ものとアメリカもの、30sと60s、そうした異なる文化や背景のミックスにこそ面白みを感じ、それこそが我々が表現する世界観だと常に語っていました。『サウンドマン』では、年代や国、文化や背景を異種配合することで新たな魅力や面白みを生み出していきたいですし、創設から26年を経た今も、コンセプト自体はスタート当初と何ひとつ変わっていないと、ぼく自身は考えていますね」。

そして「サウンドマン」へ継承されるDNA

英国ものを中心としたヴィンテージへの造詣の深さから、小誌『セカンド』や兄弟誌『ライトニング』にもたびたび登場。愛車や自転車を紹介していただいたことも。

希少な「サウンドマン」の1stコレクションより、3ボタン段返りのモールスキンジャケット。タグも今とは異なる。

上が現在のフラッグシップモデル「クラーク」。深い2インプリーツが入った英国軍のオフィサートラウザーズがベース。中央の[バーミンガム]は、架空の英国の製鉄所のユニフォームをイメージした定番。下は、新作[アルバニー]。ファティーグからBDUジャケットに移行する過渡期に作られたテストサンプルと推測されるヴィンテージがデザインソース。左から2万9700円、4万8400円、4万8400円(サウンドTEL045-225-8918)

本江MEMO

「横浜山下町に戦前からある、とても良い雰囲気のオフィス。彼の世界観もキッチリ表現できるだろう瀟洒な佇まいが、まさに圧巻でした。本編に出てきた「ドレイパーズベンチ」の「30年代クラシックタイプの極太のパンツ」。旧い付き合いの K氏がいつも穿いていたのを思い出し、久しぶりに連絡をとってみました。彼が昔所属していた石巻の「アグリッパ」で縫っていたものがまだ一本だけあるよということで、今井くんもさすがに持っていなかった、その貴重なパンツを早速お借りして、本編で掲載しています」

このパンツはまた別で、当時Pt.Alfredでも販売していた今井くん作の「ニューリパブリック」。やや太めの尾錠付きピケパンツです。店の旧いお客さんであるSくんから借りてのご紹介です。クラシック&エクレクティクスタイルですね!

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