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「水と油でもいい」買収合意で話題のアクセンチュアとゆめみを直撃

エンジニアtype

「水と油でもいい」買収合意で話題のアクセンチュアとゆめみを直撃

あのゆめみがアクセンチュアに買収される!?

「ゆめみ、アクセンチュアによる買収に合意」のニュースは大きな波紋を広げた。

ここまで波紋を広げたワケを端的に言えば、こんな懸念がよぎったからだろう。

自由、自律、エンジニアファーストの象徴的企業だったゆめみが、グローバルな巨大コンサルティング企業の傘下に入れば“ゆめみらしさ”が消失するのではないか。アクセンチュアは単に、ゆめみが抱える優秀な開発人員の確保が目当てなのではないか。

経営陣は高値で売り抜けたのではないか。

そんな憶測を含むさまざまな意見が、SNSを中心に飛び交った。

加えて、この合意発表と同日には、アクセンチュアが日本国内で週5日出社を原則とする方針に転換したという報道もなされた。

これまでフルリモートの先駆けだったゆめみも、今年2月に同様の出社原則の方針を打ち出していたことから、両社の動きは「今回の提携を見越した布石だったのではないか」という見方も浮上している。

こうした状況を受け、エンジニアtypeは渦中の人物であるゆめみの取締役社長・片岡俊行さんと、合流先となるアクセンチュア ソングのマネジング・ディレクターである番所浩平さんにインタビューを実施。

今回の決断に至った背景や、“ゆめみらしさ”はどうなるのか、今後の展望などを語ってもらった。

株式会社ゆめみ 取締役社長
片岡俊行さん(@raykataoka)※写真右
1976年生まれ。京都大学大学院情報学研究科在学中の2000年株式会社ゆめみ創業、代表取締役就任。在学中に100万人規模のコミュニティサービスを立ち上げ、その後も1000万人規模のモバイルコミュニティ・モバイルECサービスを成功させる。また、大手企業向けのデジタルマーケティングの立ち上げ支援を行い、共創型で関わったインターネットサービスの規模は6000万人規模を誇り、スマートデバイスを活用したデジタル変革(DX)支援を行うリーディングカンパニーとしてゆめみを成長させた

アクセンチュア株式会社 アクセンチュア ソング Design & Digital Products日本統括
マネジング・ディレクター
番所浩平さん ※写真左
2012年にアクセンチュア入社。アクセンチュア・デジタル(当時)でモバイルアプリのビジネスを推進。UXデザイン専門チームを立ち上げ、その統括を務める。ビジネスとデザインを融合させたデジタルサービス設計を強みに、リテイルやコンシューマグッズ、金融、通信など幅広い業界において、デジタルサービス戦略からクリエイティブ設計、トランスフォーメーション支援など、多数のプロジェクトに従事。2019年に世界最大級のデザインファーム Fjord の東京スタジオを立ち上げ、その共同代表を務める。2022年より現職

目次

親会社を離れる提案「私から持ちかけた」「ゆめみ単独で継続」の選択肢も考えたプロダクトを作るだけではダメだと痛感お互い水と油だったとしても構わない「週5出社」は戸惑いもあったゆめみ“だけ”での実験は、やりつくした「俺の方が上」なんて態度は許されない

親会社を離れる提案「私から持ちかけた」

━━ゆめみの親会社であるセレスが、ゆめみの全株式をアクセンチュアに株式譲渡することで基本合意したと発表されました。片岡さんの立場から見た経緯を教えてください。

片岡:セレスとの提携関係はもう10年近くになり、その間、自由度の高い組織作りを応援してもらってきました。おかげでユニークな組織ができ、それを好む尖ったエンジニアが集まり、事業としても成長し、直近の業績も絶好調に推移していました。

しかし、セレスの株式譲渡補足説明資料にもある通り、事業シナジーという意味では、正直なところ、ほとんど得られていませんでした。

両社の今後の成長を考えると、新たなパートナーシップの可能性を考えてもいいのではないか。そう思い、私の方からそのように相談させてもらいました。

「すごくいい関係だし、感謝もしています。その上で、さらなる社会的インパクトを生むために、新たなパートナーシップを模索したい」と伝えたんです。

━━片岡さんの方から持ちかけた話だったんですね。セレスの反応はどうでしたか?

片岡:協力的に受け止めてもらえました。「以前からゆめみを買収したいという話を他社から持ちかけられることはあったが、片岡さんにその気がないと思って止めていた。片岡さんがそう言うのであれば協力するよ」と懐深く言っていただけました。

そこからは一緒に新たなパートナーを探していきました。明確にいつからとは言えないですが、急に進めたい事情があったわけでもないので、時間をかけてあらゆる企業とフラットにお話ししてきました。

━━最終的にコンサルティング企業になった理由は?

片岡:セレスとの間で事業シナジーを残念ながら作りきれなかったというのが話の発端なので、一番のポイントは明確なシナジーがあることでした。ゆめみが持てていない圧倒的な強みを持った会社で、なおかつ、ゆめみが強みとするものを欲しているという、補完関係を念頭に置いて探していきました。

われわれとしては、もともとコンサルティング力や経営層への接点の不足を課題に感じていたので、何かしらのパートナーシップで解決できないかというのは、常々考えていたことです。そのため、必然的にコンサルティング企業が有力な提携先候補になりました。

「ゆめみ単独で継続」の選択肢も考えた

━━片岡さんの一連の言動からは、生成AIが否応なく迫る変化が念頭にあるのを強く感じます。今回の意思決定とはどのように関係していますか?

片岡:2023年ごろから生成AIの技術が大きく花開き、今年に入って目に見える形で体験が変わってきているのを皆さんも実感していることと思います。今後はさらなるゲームチェンジが起きるでしょう。

生成AIを使うことで、本当に少人数だけでインターネットサービスを作ることができるようになっていきます。インターネット黎明期である2000年前後の、私がゆめみを立ち上げた当時に巻き戻った感覚です。

業務提携先を見つけなくても、われわれのような組織が単独で、何千人、何万人いる大企業に勝つジャイアント・キリングの可能性も十分にあるはずです。

そのように考えて、2024年には生成AI時代における正しいデザインエンジニアリングのあり方を探るべく、かなり力を入れてやってきました。AI駆動開発、AIを活用した開発モデルに関して、先進的に知見を貯めてきたつもりです。

━━ええ。

片岡:しかしそれと同時に、これまでは人がやっていたような高度なサービスも含めて、あらゆるサービスが生成AIによりソフトウエアになっていく流れも感じていました。

これまでのようなSoftware as a Serviceの時代から、Service as a Softwareの時代へと移行していく流れはもはや不可避です。

そうなると、われわれのようなプロダクトを作る企業であっても、経営から現場までの全てでお客さまと接点を持ち、総合的にサービスを提供していく必要が増していきます。そのように立ち位置、戦い方を変えないといけないという危機感が私たちにはありました。

それを今まで通り単独でやっていくシナリオもありましたが、総合サービス化するということは、大手SIer、広告代理店、コンサルティング会社といった括りが今後はなくなっていくということでもあります。かつての金融業界がいくつかのメガバンクへと再編されていったように、メガサービス企業へと再編されていくでしょう。

このような環境変化を踏まえると、ゆめみが強みとしてきた「プロダクトデリバリー力」は強みとしつつも、そういうメガサービス企業と一緒になってシナジーを生んでいった方が、より大きな社会的インパクトやお客さまへの価値提供になるのではないかと考えたわけです。

プロダクトを作るだけではダメだと痛感

━━ゆめみが合流するアクセンチュア ソングとはどのような組織ですか?

番所:アクセンチュア ソング(以下、ソング)は、アクセンチュアの中でも、テクノロジーと人間のクリエイティビティを掛け合わせて、クライアント企業の支援をしていくことにフォーカスした組織です。

基本的には顧客企業のフロントの変革を支援していますが、フロントの変革をしようと思うと、例えばバックエンド業務のオペレーションや業務システムも含めて変えていく必要が出てきます。そこはアクセンチュア全体の各組織と連携して進めています。

━━どういう案件を手がけていますか?

番所:クライアント企業の経営アジェンダに基づき、新規事業を作る、それに紐づくプロダクトを作るといったところまで、かなり幅広く手がけています。

単純に構想や企画を出して終わりではなく、マーケットにサービスを出して、効果を創出することを支援しています。そこが他のコンサルティング会社やSIベンダー、デザイン会社との違いではないかと思います。

━━アクセンチュアから見て、ゆめみはどのような存在として映っていますか。

番所:ゆめみはデジタルプロダクトの企画やそれを開発することに関して、日本でもトップのプレーヤーだと理解しています。われわれもそこは以前からやってきていましたが、レベルとしてはゆめみの方が圧倒的に優れていると思っています。

━━買収に至った経緯、背景にあった課題意識を教えてください。

番所:クライアント企業のサービスやものづくりの支援をさせていただく中で感じていたのは、多くの日本企業で、プロダクトをローンチすることがゴールになってしまっているということです。

本来であれば、ローンチをスタート地点として、そこから大きく投資して成長させていかなければならない。けれども実際には、保守・運用フェーズに入るとコストを削減し、小さく育てるという考え方になってしまっています。支援していて難しさを感じていた部分であり、そこをゆめみと一緒にやっていきたいという思いがあります。

ゆめみはPdMを中心として、デザイナーやエンジニアが少人数で同時並行的に連携したものづくりを行っており、それはアクセンチュアができていないこと。一緒にやることで彼らから学びつつ、世の中の多くの人が生活で使うサービスを作っていきたいと考えています。

また、そのサービスをアクセンチュアのネットワークを使ってグローバルに展開することを支援したいです。世界中で使われている日本発のデジタルサービス・プロダクトは、ほとんどないのが現状です。この状況は、支援してきた僕らの責任でもあります。それをゆめみと一緒に成し遂げたいと思っています。

━━ゆめみとしてはアクセンチュアとのパートナーシップをどのように捉えていますか?

片岡:ゆめみのビジョンとソングが掲げるビジョンはかなり近いです。先ほど話に出た「世界中で使われるサービスを作っていきたい」というのも、もともとゆめみとして持っていたビジョン。そこが一致していることがまず大きいです。

われわれも過去、グローバルなサービス・デジタルプロダクトを作ってきましたが、本当の意味で革新的に顧客体験を変えるためには、プロダクトを作るだけではダメだと痛感してきました。

顧客企業の組織や基幹システムも同時に変革しないと、「ちょっと使い勝手がいい」程度のもので終わってしまいます。

しかし、大企業との経営接点となるコンサルティング機能や、基幹システムを支えるSIの機能などは、ゆめみがどう頑張っても獲得できないものです。

ですから、かねてからパートナーの必要性を感じていて、パートナーシップを検討していました。ビジョンが一緒で、かつそうした機能を保有するアクセンチュアと一緒にやっていこうとなったのには、そういう背景があります。

━━ソングとしても、もともと企画から開発までを行ってきたというお話でした。ゆめみとの棲み分けや役割分担は今後どうなりますか?

番所:ゆめみの特徴の一つには、生成AIを使ったスピーディーなものづくりというところがあると思います。そこはわれわれも学んで、取り入れていきたいと思っています。

一方で、経営層から降りてくるアジェンダに基づいてプロダクト作りをするといったことは、ゆめみにはない、アクセンチュアしか持っていない部分です。

アクセンチュアは下記に示した通り、AIにかなり投資しています。世界中のユーザーの声を効率的かつ正確に集めて、それをインプットとして、ゆめみと一緒にプロダクト作りを行うといったこともできます。

そういう形でアクセンチュアのデータAIの強みを生かせるのではないかと思っています。

【アクセンチュア AIに関する最新の取り組み】

■30億ドルのAI投資、AI専門人材を8万人に
アクセンチュアおよびお客さまの変革のさらなる加速に向け、2023年からの3年間で30億ドルをデータおよびAI関連事業に投資し、AI専門人材を8万人にまで増やす計画を発表。(資料) 2024年には、「アクセンチュア NVIDIAビジネスグループ」を設立し、世界中の3万人の専門家が、企業のプロセス再構築とAIエージェントを活用したAIの活用拡大を支援(資料)

■生成AIに関する圧倒的な実績
2024年度におけるアクセンチュアの生成AI関連の受注額は30億ドル、収益は9億ドル。あらゆる業界のお客様に対して、計2,000以上の生成AI関連プロジェクトを展開中。AIに関して、1,650以上の特許を出願。AIに特化した35以上のエコシステムパートナーシップを通して、お客様との共同開発を支援。2024年11月に設立した「アドバンスト・AIセンター京都」をはじめ、世界中にAIの研究・開発拠点を開設し、お客様とともにイノベーションを推進

番所:ソングの中にはプロダクト開発以外の機能もあります。例えばマーケティングのチームがゆめみが作ったプロダクトの認知を世の中に拡大し、会員を集めていくといったことが可能です。ソングのコマースのチームが裏側のプラットフォームを作り、フロントをゆめみが作るといった連携も考えられます。

コールセンターなど、カスタマーサービスを支援するような機能もあるので、ゆめみのプロダクトを接点として、カスタマーサービスと連携できると、プロダクトを中心としつつもより統合された、パーソナライズされた顧客体験も実現できるでしょう。

つまり、片方だけではできなかったことができるようになると思っています。

━━具体的にはこれからということですか?

番所:そうですね。なにせ6月に始まったばかりですから。ただ、片岡さんをはじめとするゆめみの経営陣とは、かなりの時間をかけ、幾度もの議論を重ねて今回のパートナーシップに至っていますから。お互いに「必ずうまくいく」と自信を持っています。

片岡:事業面は誰がどう批判的に分析してもシナジーしかないので。個人的には間違いなく最強のタッグだと思っています。

お互い水と油だったとしても構わない

━━事業以外に関してはどんな議論を?

番所:社風が違う、カルチャーが違うということがXでも言われているので、おそらく気にされている部分だと思うのですが、僕からすると「そんなの当たり前でしょ」というのが受け止め方で。違うことのどこに問題があるのかが全く分からない。というのも、ソングはこれまでにも、いろいろな企業のV&Aをやってきていますから。

片岡:M&Aではなく、V&A(Venture and Acquisitions)なんですよね。合併=マージするためのアクイジションではなく、ベンチャー、すなわち、これまでできなかった領域に進出するための仲間集めだということ。これがアクセンチュアの明確なコンセプトなんです。

番所:ソングのV&Aはこれまでに世界で50社以上、国内でもゆめみさんで4社目。つまり、そもそもカルチャーや社風の異なる人たちが集まってできているのがソングなんです。

それぞれのカルチャーは継承されながらも、いろいろな人がいるからこそ生まれる新しい価値もある。ですから今回も、どちらかがどちらかに寄せるとか、染まるとかいうことは全く考えていません。

ゆめみのいいところはこれからも継承していくでしょうし、ソングがもともと持っていたところを全てゆめみに合わせていくつもりもない。一方で「クライアントファースト」「クライアントに価値を出す」というところは両者に共通しているので、そこさえ合っていれば別に問題はないのではないかと思っています。

片岡:V&Aをめぐるアクセンチュアの根幹の方針はカルチャー・オブ・カルチャーズ。カルチャーの集合体、多文化の文化というものです。

私自身、まさにそれを感じた出来事として、ソングの中の方々、V&Aでジョインしたどの方にお話を聞いても「自分はマイノリティーだ」という答えが返ってきたんです。

つまり、誰一人として「俺がメジャーだ」「俺らに合わせろ」なんて人はいないということ。カルチャー・オブ・カルチャーズはアクセンチュア全体の方針ですが、その中でも、ソングは一層それを体現している組織なのだと思います。

ですから、ゆめみとソングが水と油だったとしても全然構わない。その水と油が、クライアントファーストの名の下にうまく混ざり合って仕事をすることこそが、アクセンチュアのコンサルタントシップなのだと思います。

「自分はエンジニアだから」「デザイナーだから」というのではなく、お客さまのためであれば、どんなに泥臭いことでも粘り強くやっていく。だからこそ多文化の文化が成立しているのでしょう。

それはもしかすると、ゆめみに足りなかった部分かもしれません。これから学んでいくべき素晴らしい文化だなと思っています。水と油で、最終的に融合しなかったとしても、クライアントファーストのもとに手を取り合う。そこに凄みがあると思いました。

━━異なるカルチャーの組織が一つになることなく共存するのに必要なことはなんでしょうか?

番所:違うカルチャー、違うやり方、異分子を尊敬することだと思います。

「あいつらは違う」「俺たちのことを分かってない」とやり始めると、集合体として仕事などできなくなる。逆に、お互いのリスペクトがあれば必ず乗り越えられるし、うまくいきます。

あとは成功事例をどれだけ広げていけるかでしょう。別々に仕事をしてきた二つが一緒になったことにより、これまでには出なかった成果が出たという事例を実際に見せることができたら、それを見た別の社員たちが「じゃあ俺たちもやってみようか」となるじゃないですか。

これまで数々の企業と協業してきた中で確信していることは、小さな成功事例を一つ、また一つと積み重ねることが、関わるメンバーの気持ちを高め、モチベーションをあげるということです。そして、組織に一体感を生み、前進していく。私はその現場を何度も経験してきましたから。

ゆめみとの件でも、いち早く成功事例を作って展開することで「俺たちもやってみたい」という人を増やしていけると想像しています。

片岡:アクセンチュアの日本法人にはもう60年以上の歴史があります。今の経営陣も新卒から20〜30年、苦楽を共にしてきていて、同志や友人のようになっている印象です。

番所さんをはじめとするソングの幹部の人たち同士も、横のつながりがあるというか、単純に仲がいい。世の中のアクセンチュアのイメージに反して、めちゃくちゃウェットな人間関係の文化があるのを感じます。人と人との信頼関係こそが今のアクセンチュアの組織の中枢ではないかと私は見ています。

これは非常に大事なことです。なぜなら、先ほどお話ししたコンサルタントシップというのは、別の言い方をするなら、お客さまのためであれば無理難題でも聞くということです。
けれども、引き受けた無理難題を、その先で社内の誰かに協力を仰ぎ、共に解決していくことを考えたら、やはり日頃から積み上げた確かな信頼関係がある人にしか振ることなんてできないじゃないですか。

「週5出社」は戸惑いもあった

━━アクセンチュアが6月から「週5日出社」を打ち出した一方、ゆめみは2月に出社原則に転換しました。もともとリモートワークを推進していたゆめみにとって、この働き方の違いは障害になりませんでしたか?

片岡:アクセンチュアは、(コロナ禍が明けてから)週3日出社を強く推奨していたので、いずれ出社に関するアナウンスがあるだろうと想像はしていました。結果として、「週5出社」の方針が打ち出されました。

一方、実験であるといえ、われわれはフルリモートの究極系のようなところを突き詰めてきた組織です。どう捉えてもそれは対極だと感じていました。

ただ、アクセンチュアの話をよくよく聞くと、出社すること自体が目的ではなく、いつ何時も強制されるわけではないことが分かりました。目的はあくまでお客さまに価値を提供すること。その目的に照らして、出社という手段を選択するという話です。「出社しておけばいい」という態度からは最も遠い、至極合理的な考え方があることが、協議を進める中で感じとれました。

ゆめみも合理的に意思決定することを極めて重視してきた会社ですから、その点で両社は共通しています。

そうであれば、週5出社とフルリモートという、一見すると対極にしか見えない両社の働き方を、すごく細い糸ではありますが、つなぐことができるかもしれない。「無理だ」とすぐに諦めるのではなく、やってみようというふうに思えたのです。

━━それがゆめみが2月に打ち出した「出社原則」の話につながっていく?

片岡:お察しの通りです。

そこで、出社に関する方針を、ゆめみらしく言語化してみたらどうなるかと考えました。アクセンチュアの出社に関する考えをわれわれらしく言語化し、ゆめみの中に実験的にぶち込んでみたらどうか。これがくだんの「出社原則」です。

━━アクセンチュア側の受け止め方は?

番所:もちろん突然週5出社となれば、戸惑いもきっとあるだろうと思います。けれどもそれはアクセンチュアの社員も同じ。その苦労は一緒に乗り越えるべきものだと思っています。

出社することによって生まれるコラボレーションやシナジー、そういったものを実感するくらいに経験を積まないと、出社しようとは思わないでしょう。

ただ理由もなく「出社してください」と言うつもりはありません。「こういう価値がある」「こういう形でクライアントの価値につながる」「だから出社しよう」と思ってもらえるようにしたいですね。

ゆめみ“だけ”での実験は、やりつくした

━━ゆめみは組織に関するさまざまな実験を行ってきたことでも有名ですが、ゆめみの実験カルチャーに関しても変わらないということでしょうか?

番所:何も変わらないかというと、そうではないと思います。進化という意味では変わってほしい部分はあります。せっかく一緒にやるわけですから、そのままでいてくださいとは思っていない。

もしかしたらお互いに我慢する部分もあるかもしれません。ただ、それは進化のために必要なことなので。皆さんと議論しながら前に進めていければと思います。

━━今回の買収に関しては、X上での「怪文書騒ぎ」もありました。対外的なコミュニケーションにおいて、ふざけることにも意味がある、そのことによって日本のインターネットの閉塞感を打破したい、それがイノベーションにもつながるのだと片岡さんは常々おっしゃっています。この点についてはどう受け止めていますか?

番所:お答えするのが難しいご質問ですね。

番所:というのも、発信については、今後も自由にできる部分もあれば、アクセンチュアのポリシーに従ってもらう部分も、もしかしたらあると思います。

ただ、アクセンチュアグループになったことによってできなくなったことよりも、できるようになったことを大きくしたいですね。

それができれば、できなくなったことはあまり気にならないと思うので。ですから、それをどれだけ作れるかだと思います。世間の目はどうしてもネガティブな方ばかりに行きがちですが。

われわれとしてはそっちはあまり見ていません。片岡さんとの間では、どちらかといえば新しく作っていく未来の話をたくさんしています。

━━先ほどは事業面に関して伺いましたが、それ以外に未来に関してどんな構想が?

番所:いろいろなコミュニティをアクセンチュアの内外に作っていくということを片岡さんはおっしゃっています。そこは僕らも一緒に作っていきたい気持ちです。

ゆめみの中にもエンジニアのコミュニティ、デザイナーのコミュニティなどいろいろとあるでしょうが、それはアクセンチュアの中にも存在します。それらをつないで、これまでとは違うコミュニティを作るとか、それをさらに外ともつないで、世の中や日本を変えることにまで持っていけたらいいと思っています。

━━そこでいうコミュニティとは?

番所:新しいテクノロジーを使ってみて、分かったことを共有するというような勉強会もそうですし、世の中にない役割を定義していく、新しいものづくりのやり方を考えるためのディスカッションなどもそうです。

もしキャリアのどこかのタイミングでここを離れることがあったとしても、コミュニティではつながり続けて、成長し合えるような形ができたらいいと勝手に思っています。

片岡:アクセンチュアは世界有数の従業員数を誇る巨大企業ですから、そのコミュニティは都市のような規模と言えます。アクセンチュアの中のコミュニティに貢献し、存在感を示していくと、それだけでもう生きていけるというような。

ゆめみのメンバーからすると、これまではインターネットコミュニティに向けて発信・貢献することで自らの評価を高める必要があったわけですが、今後はアクセンチュアのコミュニティで活動していれば、インターネットコミュニティに依存しなくても、キャリアの自律性を高めていける可能性があるということです。

これはネガティブに考えれば、みんなが内向きになってしまうという見方もできるでしょう。ですから僕の野望としては、すでに世界一の会社であるアクセンチュアを、われわれが加わることで「超・世界一」にしようと思っています。

いずれにしても、ゆめみという小さな規模の中でできる実験は正直、もうほとんどやり尽くしたので。実際、最近はこれまでの実験を踏まえ「どこに活かすか」「より効率的にするにはどうすべきか」と、最適化フェーズに移行していたんです。

私たちはクライアントワークをしているので、自分たちの都合だけで社内で極端な実験を追求し続ける必要がないことも分かり、揺り戻しが起きていました。

社内からも「最近普通の会社になってきてつまらない」という声もちらほら出てきていました。だから、もしかしたら、ゆめみの社員を退屈させていたかもしれません。

しかしこれからはアクセンチュアというより大きな舞台、あるいはアクセンチュアという舞台を借りて社会に対して実験をしていくことができます。

これまでは「ゆめみだからできたんでしょ」のひとことで終わって、見向きもされなかったことも、「アクセンチュアの中でもそれができるのか」と見てもらえるかもしれない。社会に向けて働きかけられる可能性も大きくなると思っています。

「俺の方が上」なんて態度は許されない

━━まだ合流して2週間ですが、想定と違ったと感じるところはありますか?

片岡:違っていたということはないですね。改めて感じるのは、先ほどもお話ししたように、コンサルタントシップを発揮してビジネスをやっていく上では、人と人の信頼関係が不可欠というところ。そういうものを確立していくためには、オフィスに来て対面で話をするというのは極めて重要だと実感し始めています。

これまでのゆめみは専門家集団だったので、そういうものを必要とせず、システマチックに仕事のやり取りができていました。ですが、それはお客さまの要求がちゃんと分解されて、専門的な役割やタスクにまで落とし込まれていたからこそ、できていたことなんですよね。

その前段階で、無茶な要求、複雑な課題を解きほぐし、受け止め、それを専門家に受け渡していくコンサルタントの仕事は、やはり対面でしか築けない関係性が前提になる。そういう構造になっていることを、ここへ実際に来てみてすごく感じました。

先週の金曜日には懇親会を開いてもらったんですが、うちのメンバーが言っていたソングの皆さんの印象は「すごく柔らかい」「人が良い」「話しやすい」というポジティブなものでした。そういう人たちがいざ仕事となると、ビシッとなるわけですが、実際は両面お持ちだという発見があったと言っていました。

ただ、われわれとしてはそこを変えていきたい思いもあります。懇親会のような場だけでなく、仕事の場でも子どもらしさを出していいというようにしていきたい。

というのも、これからのAI時代はアントレプレナーシップが重要になると言われていますが、個人的には、アントレプレナーシップというのはかなりの外れ値であり、誰もが持ち得るものではないと思っていて。

それを標準的な値に落とし込んだのがチャイルドリーダーシップ。新しいものを創造していくには、子どもらしさが必要だという考え方です。

アクセンチュアの皆さんがチャイルドリーダーシップを持つには、こうした場でも、コンサルタントシップの仮面を時には外せることがポイントになります。そこはもしかしたら、ゆめみが貢献できる部分ではないかと思っています。

━━異なるカルチャーの組織が共存することで、双方にいい影響を与えあえるといいですね。

番所:繰り返しになりますが、どういうシナジープロジェクトを作れるかが、一緒になって良かったと思えるかどうかの大事なポイントだと思っています。

初期のいくつかのプロジェクトを雑に作ってしまうと「こんなはずじゃなかった」「一緒にならなければ良かった」となってしまうリスクが高まります。そこは過去の経験も踏まえて慎重にやりたいですね。

ここは社長の江川がすごく大事にしているところでもあるんです。例えば「アクセンチュアのメンバーが100人いるプロジェクトに、ゆめみのメンバーをあとから5人入れる」みたいな作り方は絶対にするな、と言われます。

その逆に、ゆめみがゆめみのやり方で、ゆめみのいいところを出せるプロジェクトに、アクセンチュアのメンバーがあとから入っていく。そうすることで、ゆめみのやり方を僕らが学び、ゆめみだけでは出せなかった価値を僕らが出す。その結果「一緒になって良かった」と言えるような作り方が初期には大事だと常々言っています。

ゆめみもそうですが、江川は買収した企業へのリスペクトがすごいんですよ。買収された側の社員に少しでも「俺の方がすごい」みたいな態度をとると、強く指摘されるので。そこは結構、アクセンチュア内に浸透していると思います。

あとはもう、人と人との付き合いなので、どれだけたくさんの人と会って、どれだけ濃い話をできるか。仕事・プロジェクトだけでなく、懇親会とか、日々のコーヒーの場のような小さいものも含めて、できるだけたくさんやることだと思います。

というわけで、しばらくは片岡さんと一緒に太ることになりそうだと覚悟していますよ(笑)。

協力/鈴木陸夫 編集/玉城智子(編集部)

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