『皮革と油脂のまち「きねがわスタンプラリー」』
東京・墨田区には荒川と中川に挟まれた「きねがわ」と呼ばれてきた地域があります。住所では「東墨田」ですが、ここでは、動物の皮をなめして、カバンやバッグなど革製品の材料にする皮革産業や、廃棄される油などを加工して、石鹸や肥料、食品の材料などにする油脂産業が古くから盛んです。先月20日に行われた木下川地域の歴史や現状を楽しく学べる「きねがわスタンプラリー」を取材しました。
スタート地点の「墨田区社会福祉会館」は、朝10時のオープン前から入口には家族連れの行列ができるほど賑わっていて、例年人気なのが、皮を使ったキーホルダーづくりですが、今年初めて登場したのが、豚の皮でつくるブタや、牛の皮で作るウシのキーホルダーづくり。筆者の私も体験してきました。
「まず半分に折ってください。それで顔の部分から始めましょう。こういう形にして耳立てると、 皮が乾いてくると硬くなってきますから、靴が雨で濡れたとき硬くなりますよね、乾くと。 そういう原理で硬くなりますので、いろんな形になっていくと思います。少しずつ乾かしながら自分の好きな形にしてください。」(スタッフの中村茂さん)
皮は水に浸すと柔らかくなり、乾くときに形が定着するということで、耳や尻尾など形作ったら手の中でゆっくり乾かすと徐々に固くなっていきます。1時間ほど乾燥させるとしっかり固くなり完成です。動物の型は、皮を扱う地元の企業の協力で作ったもので、参加者は未就学の子どもから70代の高齢者まで年齢層は様々でした。参加者の感想です。
「初めてです。12年前にこちらに引っ越してきて、東隅田2丁目に住みながら友達に 皮のことを聞かれると何も答えられないから1回経験してみようと思って。面白いですね。」(70代男性)
「結構曲げるのが力がいって硬かったですね。」(小学生の母)
「作ったのは2回目。前もブタ作った。水がついてて柔らかかったからちょっと足のところが難しかったからその辺をがんばって作った。」(未就学の男の子)
以前も、きねがわスタンプラリーに参加したという方のほか、地域のイベントでもキーホルダーづくりを体験したという声もあり、きねがわの皮革産業を知ってもらう取り組みが、徐々に浸透している様子が感じられました。
「産業・教育資料室きねがわ」
墨田区社会福祉会館の中にある「産業・教育資料室きねがわ」には、馬一頭分の大きな皮や、毛が生えたままの豚皮、さらにかつてこの地域にあった木下川小学校の生徒が豚の皮で作った太鼓も展示されていました。
豚の皮でつくる太鼓
1990年代から始まり今も、小学生が自分で太鼓を作り、運動会などで使うことで子どもたちがもつ、町に対するイメージが変化してきたと、長い間、この地域で教員を務めてきた資料室の室長・岩田明夫さんはこう振り返りました。
「今までどっちかっていうと見せないようにとか、知らせないようにした文化があったんだけど、逆にうちはこういうところを作ってる町なんだっていうのが、誇らしげに子どもが言うようになって。みんな今まで隠して見せないように「いろんな匂いがして臭い」とか言われたんだけど、いや、逆に「知ってもらおう!これ職人の技なんだよ」って。この町はいろんな匂いするけど、そういうときに出た匂いなんだっていう。子どもたちは、前向きに捉えるんです。」(「産業・教育資料室きねがわ」室長・岩田明夫さん)
以前は、皮をなめす過程で使う薬品の独特な匂いからネガティブなイメージが先行していましたが、今や、区内の学校教育でも「きねがわ」の皮革産業のことが扱われるようになったと、岩田さんはとてもうれしそうでした。
高校生に語り継がれるきねがわの歩み
さらに、この日は高校生2人が岩田さんのもとでお手伝いをしていました。きねがわのお住まいではないということですが、どういう繋がりなのか、高校二年生の野田えいとさんに聞きました。
「普段は僕の方からもお願いした形ではあるんですけど、お邪魔して資料室の方で木下川に関する 資料の読書会みたいなものをさせていただいてはいますね。このあたりの歴史を書いてある資料がこのあたりの方が作った資料があるので、それをちょっと読んで、書いてあること、わからない 単語とか、あとこの現象が何でこういうことになってるんだろうね、みたいな話をちょっとご質問しながら読む会っていうのやっています。」(高校二年生の野田えいとさん)
もう一人の高校生、春日俊博 さんは、「スタンプラリーの参加者は子どもが多くて、きねがわに色々な形で関心を持ってもらっていて素晴らしいと思う。来年以降も手伝いに来たい」と意気込みました。
続いて、社会福祉会館の並びにある「八広(やひろ)児童館」では、パラスポーツのボッチャの体験や、牛一頭から私たちの生活に役立つ様々なものが作られることを描く絵本「よみがえった黒べえ」のパネル展示などがありました。
年に一度の一般開放「東京都立 皮革技術センター」
歩いて次のポイントに移動すると、油脂産業の工場や皮をなめす工場の横を通ったりします。最後のポイント、「東京都立 皮革技術センター」では、普段は一般公開していない、皮をなめすなどの20を超える工程の見学ができ、年に一度の貴重な機会なので、大人も真剣に聞き入っていました。
最後にスタート地点の「社会福祉会館」に戻ってゴール。この日は、500人を超える来場者が訪れました。今日紹介した施設のうち「産業・教育資料室きねがわ」は平日もあいているので興味がある方は訪れてみてください。
(TBSラジオ『人権TODAY』担当:久保絵理紗 (TBSラジオキャスター))