最果ての駅そば『北一』に行ってみた! 網走行きの単線で旭川から2時間、マニアのみ知る遠軽駅そば店の「ジビエそば」がこちら
2025年10月13日、旭川の朝の気温は10℃だった。羽田から札幌に着いた時も「寒っ!」って感じだったけど、旭川はさらに寒い。旭川民に聞いたところ、今日はまだ温かい方で10月11日の朝は1℃だったそうな。もう冬である。
そんな旭川からJR石北本線で2時間の遠軽駅に知る人ぞ知る駅そばがあるそうな。ネットでは「北海道三大駅そば」や「日本最北の駅そば」などと呼ばれるその店の名前は『遠軽駅そば店 北一』。せっかく旭川に来たし、片道2時間くらいなら行きやすい部類かも。
と思いきや、やっぱり北海道。ウマイそばを求めて色んな町を放浪する連載『立ち食いそば放浪記』の中でもハードル高めの放浪になった。
・網走行き
まず、石北本線とは何かと言うと、これは旭川と網走を繋ぐ路線である。私(中澤)が乗ったのは12時38分発のJR特別快速大雪。大阪生まれで上京した時ですら「遠くまで来たもんだ」と感じていたけど、人生で網走行きの鉄道に乗ることがあるとは思ってもみなかった。本当に遠くまで来たものである。
乗車券は3080円で、その価格にも距離がにじみ出る。2025年3月のJR北海道ダイヤ改正で、もともと特急だった「大雪」が格下げされて特急券がいらなくなったのはありがたいけど、乗車券だけで片道3080円だからなあ。
しかも、石北本線は全区間単線だ。山の中を永遠と進む単線。宗谷本線も単線だったから、北海道では普通なのかもしれないが、これだけの距離単線に乗ることってあんまりない気がする。ただ、ハードルというのは距離ではない。
・微妙な営業時間
どちらかと言うと、本数。片道2時間程度なら余裕と思いきや、旭川から遠軽に行く電車は1日5本しかない。しかも、遠軽駅の北一そば店は、現在営業時間が9時~15時。したがって、営業時間内に旭川から遠軽に行く電車は8時30分発の特急とこの快速大雪の2本しかないのである。
予定を見ると、この快速大雪が遠軽に到着するのが14時36分。ギリだ。都内の立ち食いそば屋だったらラストオーダーを過ぎている。はたして食べられるんだろうか? 正直、行ってみないと分からない。
・日本最北の駅そば?
行くのが大変だったというと、思い出されるのは2017年に行った音威子府駅の『常盤軒』だ。宗谷本線で稚内のちょっと前にある音威子府駅。日本最北の駅そばはこの音威子府駅そばだったんだけど2021年に閉店した。
当時は遠軽駅そば店も閉店していたんだけど、こちらはクラウドファンディングにより2025年3月に復活。冒頭で触れたように「日本最北の駅そば」となった。ちなみに、2025年10月現在は音威子府駅そばも期間限定復活しているため、日本最北の座は音威子府駅そばに戻っている。
まあ、この道のりだ。お店の紆余曲折も頷かざるを得ない。むしろ「よく復活したな」とすら思う。復活したからと言っていつまであるか分からない状況は変わらないだろうとも。いつまでもあると思うな、北の駅そば。
・オホーツクの風
そんなわけで、ようやく遠軽駅に到着。音威子府はガチで村オーラがあったけど、遠軽駅は普通に街であった。駅前にビジネスホテルがあるぞー!!
それにしても……
さっっっっむ!
旭川よりもさらに寒い。オホーツク海の風を感じる。っていうか、事実、吹いてるだろうな。地図で見たらそれくらい北海道の際である。遠くまで来たもんだなあ。
・最果てオーラ
北一そば店は駅舎の影に隠れるように佇んでいた。厨房とカウンターのみの建物。どうやら間に合ったようでカウンターはまだオープンしている。席は前のちょっとした広場にデスク机と簡易的な椅子が置かれていた。この寒さと相まって、どことなく寂しさが漂う。最果てオーラが凄いんよ。
また、メニューの少なさも最果て感を演出する。ふむふむ、かけそば(税込550円)に半熟卵をトッピング(税込650円)するか、えびかき揚げ天をトッピング(税込650円)するか、両方か(税込770円)というスタイルか。って……
ジビエそばって何じゃい!?
1つだけ異彩を放ちまくっている。さすが北海道……と思いきや、説明をよく読んでみると、このメニューだけ沖縄そばの麺を使っているという。どっちやねん!!
・ギリセーフ
価格は1300円。注文してみたところ、「ごめんねえ、今日はもうジビエそばの材料売り切れちゃったの」とおばちゃん。しかし、厨房を探して「あ! ちょっと待って1個だけ残ってた!!」と注文を受けてくれた。
どうやら本当にラス1だった様子。そこはかとなく人気が垣間見える。そんなわけで、食べられるかどうかは行ってみないと分からないと述べたけど、滑り込みセーフだった。
・ここにしかない味
遠軽エゾシカの肉を使っているという「遠軽ジビエそば」。まず驚いたのはその肉の量だ。ジビエ肉って高めだから、1300円でもちょっと入ってるだけだろうと思いきや、かなり贅沢に鹿肉が使われている。
食べてみると、臭みのない肉は量があっても食べやすい。麺はしっかりした歯ごたえがある太麺で、これもまた食べごたえ満点。
つゆを飲んでみると、おでんつゆみたいな味に肉の旨みが溶けだしていて体が温まる。寒さが肌身に染みていただけに、その温かさは心まで温められるようだ。
さらに、薬味でおろし生にんにく、おろし生姜、紅生姜をつけてくれるんだけど、紅生姜で味変してみるとこれが技あり。懐かしい優しさのある味を酸っぱ辛い紅生姜の刺激がギュッと引き締めて、コントラストが生まれる。体を温めるという意味でも良いちょい足しだ。
おばちゃんいわく、この紅生姜はたまに試しに出してみる程度だったのだが、お客さんの要望でレギュラーでつけることになったという。来週からレギュラー化するとのことなので、大分タイムリーなタイミングだったようだ。
肌身には寒いけど心には温かい『遠軽駅そば北一』。確かにここでしか味わえない味であった。
・注意
ちなみに、帰りの電車も2本。16時23分の特急オホーツクに乗らないと、終電19時45分の快速大雪になるので、特急オホーツクで帰ることに。特急なので、帰りは特急券+乗車券で片道4910円だったぞ。
旭川に帰ったらすっかり夜。1日がかりで立ち食いそばを食べたこの日。地図では比較的近くに見えてもやっぱりハード放浪になる北海道は誠に試される大地と言えよう。しかし、その分、しみじみとした旅情も感じられた。
北一の味だけでなく、山間を行く時間、単線の景色、通り過ぎる秘境駅、日本ジオパークにも認定されている遠軽町の風景などなど、贅沢な時間となるに違いない。気になる方は行ってみてくれ。
・今回紹介した店舗の情報
店名 遠軽駅そば店北一
住所 北海道紋別郡遠軽町岩見通南1-3 遠軽駅構内
営業時間 9:00~15:00
定休日 火曜日
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.