<オオウナギ>が陸上でも狩りをすることが明らかに 上流域の個体ほど陸生物への依存度が高い?
「魚はどこで狩りをするのか」と問われれば、ほとんどの方が「水中」と答えるでしょう。
しかし、意外にも陸上で活動できる魚は複数存在し、トビハゼやイールキャットなどの5グループで陸上摂餌を行うことが知られています。このうちのいくつかのグループでは“細長い体”が陸上摂餌に重要であるとされていますが、細長い体を持つウナギ属において陸上摂食が可能か否かは不明とされてきました。
そうした中で、東京大学大気海洋研究所の脇谷量子郎特任准教授らはオオウナギを対象に陸上生物をどのように捕食しているのか調査を実施。本種が陸上でも狩りを行うことを明らかにしました。
この研究成果は「Ecology」に掲載されています(論文タイトル:Amphibious feeding mode in an anguillid fish)。
陸上で活動する魚たち
海や川といった水域に生息する魚。
彼らが水中で狩りをする姿は想像に容易いですが、陸上で狩りを行う魚はどうでしょうか。
意外なことに陸上摂餌を行う魚は一部のグループで知られており、トビハゼやイールキャット(ナマズの仲間)などはその典型的な例です。前者は日本でも見られる魚で、ほとんどを陸上で過ごし同じ干潟に生息するカニなどを捕食しています。
ウナギも陸へ上がる?
これら陸上摂食を行う魚のうち、いくつかのグループは細長い体こそ、陸上での捕食を実現する上で重要であると考えられています。
しかし、典型的な細長い体を持つウナギ属において、陸上摂餌が可能か否かは不明だったようです。
また、近年の研究でニホンウナギがムカデなどの陸上生物を捕食していることが明らかになっていたものの、どのように捕食しているのかは謎に包まれていました。
オオウナギを対象に研究
ウナギ属における陸上摂食の実態が不明とされる中、東京大学大気海洋研究所の脇谷量子郎特任准教授と国立環境研究所福島地域協働研究拠点の境優主任研究員らによる研究チームは、この謎を解明すべく研究を開始しました。
研究の対象となったのはオオウナギ。本種はニホンウナギより南方性の高い種で、名前の通り大きくなるウナギ属魚類です。
研究では、奄美大島の河川から採集されたオオウナギ10個体が用いられています。
上陸が複数回観察される
まず、採集されたオオウナギを陸場を設けた水槽へ入れられ実験が行われました。
実験・観察の結果ではすべてのオオウナギが水から陸へ飛び出し、陸上のコオロギを自発的に捕食するといった行動が見られています。
この実験では合計3000回以上の陸上行動が観察され、そのうちの42回で陸上での捕食に成功していたそうです。
上流の個体ほど陸上餌の割合増
今回の研究ではオオウナギの胃内容物のチェックも行われています。
奄美大島の3河川から採集された57個体について胃内容物の分析を行った結果では、陸上生物が見つかっており、特に上流域の個体では陸上餌の割合が高くなる傾向が示されました。
水槽内での実験に加え、胃内容物の分析の結果からオオウナギが陸上捕食能力を有することが示唆されたのです。
陸上捕食能力で様々な餌を利用
今回の研究によりオオウナギが水中だけでなく陸上で餌を捕食することが明らかになりました。
この能力はオオウナギが様々な環境の餌を利用できるといったメリットをもたらしているほか、摂餌戦略の多様性や進化史における水から陸への進出において重要な知見とされています。
また、オオウナギやトビハゼ、イールキャットなどの他にも、陸上捕食が可能な魚がいるのかどうかも気になるところです。今後も、魚における陸上捕食についての知見が蓄積されていくのが楽しみですね。
(サカナト編集部)