プラレールの時代の転換点!「旧動力」と「新動力」の間にある過渡期の箱と製品にクローズアップ!
text & photo:なゆほ
60年以上の歴史があるプラレールの製品・歴史・情報をまとめ、自身のホームページ「プラレール資料館」で公開しているプラレールコレクター なゆほさん の鉄ホビ連載!長い歴史を持つプラレールというおもちゃをコアな目線から語っていただきます!今回はプラレールの歴史の中でも「箱」に注目。動力の転換機であった1980年代後半、プラレールの「スカイライナー」で見られた過渡期らしい特徴とその経緯について触れていきます。(編集部)
【写真】初代「スカイライナー」でプラレールの箱の歴史を振り返る!画像はこちら
1961年、発売当初は手転がしの鉄道玩具だったプラレールに、初めて電動車が登場しました。それから64年、時代に合わせて電動車の構造も変化してきました。1961年の登場当初は台車の前面下部にスイッチがあり、1965年頃の「電動プラ電車」「電動超特急ひかり号」の初期製品が屋根上にスイッチで登場したのを除けば、1987年の動力更新まで「下スイッチ」の状態が維持されていました。
動力更新の際、全ての製品を一斉に切り替えるのはもちろん困難なため、徐々に切り替えていく手法が採られましたが、その過程で少し不思議な製品が誕生しました。
▲1987年に流通していた「EC08 スカイライナー」。1985年に発売された新塗装版だが、箱をよく見ると…?
その不思議な製品というのが、1987年に生産された「EC08 スカイライナー」です。1978年に当時の実車が纏っていたクリーム地にブラウン帯の姿で製品化され、実車の塗装変更を受けて車体を改修の上、1985年に新塗装版が発売されたという、同一の製品ながら生産中に姿が変わった珍しい経歴を持つ製品です。このスカイライナーは1987年の動力更新を跨ぎ1991年までラインナップに載っていましたが、とある事情により他のどの車両よりも早く「新動力」を搭載したという事はあまり知られていません。
動力更新は1987年の春頃に店頭に並び始めた出荷分から始まり、年内に「新動力」になってからの新製品である「伊豆急リゾート21」「近郊電車(オレンジライン)」がラインナップに加わりました。この時発売された「伊豆急リゾート21」が、「スカイライナー」の過渡期仕様に大きく関わっています。
「伊豆急リゾート21」は動力更新に合わせて1987年6月25日に発売された当時の新製品です。旧動力時代には存在しなかった新規設計ですが、実はスカイライナーをベースに作られています。
台車は共通、中間車は屋根の構造を流用し側面を変更、先頭・後尾は新規設計ですが前面窓と前照灯をクリアブルーのパーツで表現する手法がスカイライナーと共通しており、既存の製品から新たな製品を生み出すという当時のメーカーの開発力が伺える造型となっています。
▲箱を開けると、中身は「新動力」のスカイライナーが現れる。
新動力を持つ「伊豆急リゾート21」を開発するにあたり、スカイライナーの台車を流用するとなると、まずは旧動力として作られている先頭車の台車を改修しなければなりません。
前面下部にあるスイッチ用の切り欠きを埋め、端子の固定方法を変更、動力ユニットも載せ替え、ユニットから車輪に直接伝達されていた動力が車軸のギアと噛み合わせることで動かす方式になったことから、車軸受けの改修も必要になります。
こうして「伊豆急リゾート21」用の台車が作られましたが、元となった「スカイライナー」も継続してラインナップに載ります。そこで、一足先に「スカイライナー」も新動力仕様となりました。
他の車両に先んじて新動力仕様の新しい箱、世代順で数えると6代目にあたるため通称「6代目箱」に更新してもよかったはずですが、当時のメーカーとしては新機構の動力と6代目箱を紐づけて展開したかったと思われ、旧動力時代の箱のまま、少しレイアウトを変更した過渡期の箱が誕生します。従来の箱は「EC〇〇」という付番があったことから通称「EC箱」と呼ばれ、先頭車の形状とスイッチ位置の違いにより「乾電池の入れ方」を箱前面に表示していました。スカイライナーは車体の固定フックが前寄りにある前面スイッチの車両ということで、乾電池の入れ方は「A-a」の組み合わせとなっています。フックが車体中央にある場合は「B」、先頭部にある場合は「C」、スイッチが台車側面にある場合は「b」、台車右斜前にある場合は「c」のように区分されています。
しかし、新動力車は全て一律で屋根上にスイッチが付くようになったため、フック・スイッチ位置による区別が不要となりました。このため新動力仕様のEC箱からは「乾電池の入れ方」が削除され、代わりに箱裏面に先頭車の扱い方が図示されるようになりました。
また、長らく実在の車両をモデルとしてきたものの実車の説明が無かったことから、各車両についての簡単な解説文も記載されるようになり、これが2025年現在生産されている「10代目箱」まで引き継がれています。
これらの操作方法と解説文は従来のフォーマットを置き換えて記載されていたため少々窮屈に感じられる配置となっていましたが、6代目箱では更にブラッシュアップされています。新動力仕様のEC箱裏面は次世代の箱のレイアウトを検討したプロトタイプとも言えそうです。
なお、箱裏面の図は「伊豆急リゾート21」が描かれており、スカイライナーと共通の構造をしていることが分かる内容になっているのが興味深いところです。もちろんこの仕様は一時的なもので、1987年前半にはスカイライナーも6代目箱へ更新されています。
しかし、スライライナー以外の製品は一斉に新動力化・6代目箱化されたのかと言うとそうでもなく、旧動力仕様のEC箱に新動力車が入ったもの、6代目箱に旧動力仕様の新動力車が入ったものがあるという、まさに過渡期らしい製品も存在しています。
前者は「電車(青・黄・緑)」、後者は「東海型急行電車」「おどり子号」が該当します。これらの車両は新動力化と同時に屋根へ塗装が施され、若干ながらリアルさが増したという経緯があります。旧動力時代は未塗装でしたが、新動力化の際に屋根を塗装すべきところ、従来の工程で生産されて出荷されてしまったという、いわばミスロットということになります。
プラレールの進化を示したいメーカー側と、生産工程の変更が行き届かなかった製造側という、ちょっとした行き違いが見られるのがこの動力更新があった時期の特徴と言えます。ちなみに「C-12」「D-51」「往復EF-66」は6代目箱への転換後も引き続き旧動力のまま生産され続け、概ね1992~1995年頃にやっと切り替わっています。
このように時期によって開発・生産の裏側が見えてくるのも、ロングセラー玩具であるプラレールならではと言えるでしょう。