県営住宅を選手がDIY!ザスパ群馬の選手寮移転プロジェクトの裏側に密着!
公営住宅の課題も解決し、クラブの地域密着推進、そして若手選手育成にもつなげる。そんなプロジェクトをJリーグ・ザスパ群馬が立ち上げました。
若手選手の育成環境を整備するために、現在の選手寮を2024年完成した練習施設『GCCザスパーク』近くの県営住宅に移転するこのプロジェクト。ホームセンター、リフォーム会社の協力を得て入居前のリフォームや選手によるDIYも計画するなど、さまざまな仕掛けが考えられています。
プロジェクト発足までの裏側、そしてそれぞれがどのような課題を抱え、このプロジェクトによってどのような相乗効果を得られるのか?ザスパ群馬・田村氏(以下、田村)、群馬県県土整備部住宅政策課住宅管理係・山崎氏(以下、山崎)に話を聞きました。
選手寮移転プロジェクトのきっかけ
ーー選手寮移転プロジェクトを始めたきっかけを教えてください。
田村)今回の選手寮移転プロジェクトは、現在前橋駅近くにある選手寮を『GCCザスパーク』の近くに移転させるためのものになります。以前は、前橋市の下増田運動場を中心に練習を行っていましたが、夏のインターハイ予選など、群馬県サッカー協会関連の試合が多く行われる都合で毎年6月から8月末ぐらいまでグラウンドが使えず、他のグラウンドを転々としていました。そうした移動の必要性を考えて選手寮を移動に便利な前橋駅近くに置いていたのですが、昨年5月に専用グラウンド『GCCザスパーク』が開業し、その必要性がなくなりました。また、今の選手寮もかなり劣化しているため、『GCCザスパーク』の近くに選手寮を設けたいと考えました。今回、群馬県へ相談し、お話を進めていくことになりました。
ーー群馬県側で今回のプロジェクトの窓口である山崎さんがこの寮の話を最初に聞いたときの印象を教えてください。
山崎)私が住宅政策課住宅管理係長になったのは1年前なのですが、前任からは「ザスパが若手選手用の寮として使用する民間の賃貸住宅を探したものの適地がなく、そこで国道17号に隣接した県所有の県営住宅が候補に上がっている」という話で、引継ぎを受けました。
異動したばかりの私は、「県営住宅は住宅に困窮する方にお貸しするために整備された住宅であって、ザスパ群馬が使うことが可能なのか?」という、もしかしたらこのプロジェクトのことを見た皆さんと同じように感じた疑問があったかと思います。
ーー田村さんが“県営住宅”に着目したきっかけはなんですか?
田村)神奈川大学サッカー部の事例で、県営住宅に選手が住み地域の高齢者と交流している『竹山団地プロジェクト』や、スポーツ以外でも県内では群馬県住宅供給公社の公社賃貸住宅を大学生がリノベーションするプロジェクトを知り、「同じような形でできないか?」と考えました。
群馬県との話の中で、公営住宅をザスパの寮として利用する場合は、“目的外利用”に当たりますが、群馬県が前向きに検討いただき「目的外利用でも進めていこう」という形を作っていただけたことで、今回のプロジェクトをスタートさせることができました。
県営住宅外観
群馬県が抱える課題
ーー県としても、こうした手続きなどは少し面倒に感じてしまうものなのではないかと感じてしまいます。なぜ前向きにこのプロジェクトに協力しているのでしょうか?
山崎)現在、県営を含め公営住宅が抱える課題としては、少子高齢化による入居率の低下や「団地や地域に活気がない」といった問題、建物自体の老朽化といった課題があります。全国でも目的外利用による公営住宅活用の事例が出始めていますが、おもにこうした地域的な課題の解決につながることを期待していることが理由となっています。
住宅の維持管理は入居者皆さんの家賃収入から賄われているのですが、入居率が下がると家賃収入が減り修繕費を捻出することが難しくなってきてまして、群馬県の県営住宅もそういった状況に置かれています。そんな前提の中で、ザスパ群馬さんから「選手寮として使わせてくれないか?」と相談をいただいたのですが、お貸しできる空き住戸はあったものの、私たちとしても「入居するにも修繕が必要になってしまう」ということをザスパ群馬に相談せざるを得ない状況でした。
ーー県からの要望に対して、どのように解決へと進んだのでしょうか?
田村)目的外で使わせていただくにあたり、何かしらの協力をという気概は持っていましたが、修繕にかかる費用の大きさは正直かなり大きなものでした。リフォーム会社のカインズ365さんとも相談しながら、今回はクラウドファンディングという形でその資金を集めることになりました。修繕の見積をそろえる部分など、時間もかかってしまいましたがなんとか実現可能な形まで持ってくることができています。
解決できそうな課題や相乗効果
ーーこの座組ができることで、どのような課題が解決できそうでしょうか。
田村)もともと使われていた部屋の修繕やクリーニング作業をカインズ365さんに担当していただき、入居に関して必要最低限の状態にしていただいたところを、選手がホームセンター等の資材を使ってDIYする、というような役割分担をしています。
シーズン中ということもあり、高いクオリティのDIYや作業量は選手に求められないですが、“1日でオシャレに仕上げる”ようなDIYを施すことで、他の企業や入居者にもDIY活用のよいイメージが波及するようなことも狙いとして持っています。
山崎)県営住宅のうち、空き部屋が目立つのはとくにエレベーターがない建物の上層階で、高齢者や子育て世帯へのニーズが低い状況です。そういった使われづらい部屋に対し、若い世代の方々が自ら直して入居いただくことによって、団地・地域の活性化を期待することができ今後の県営住宅活用として大きく繋がるものと思っています。
また、県としては、空き家問題や既存ストックの活用を考えるうえで、DIYやリフォームは大変重要なことであると考えており、普及していきたいと思っています。どんな方でもやりやすい、今回は選手によるDIYがどのようなものになるのか、とても楽しみですね。
選手寮が地域に近いところにある意義
ーー住居問題の解決に向けたPRとしても親和性を感じますね。県営住宅に入ることで、選手が地域とオープンな関係になることについてどう感じていますか?
田村)高校卒業の新加入選手は3年間など選手によって異なりますが、いずれにしても新社会人の選手には寮生活を送って社会人としての基礎を築いてもらいたいと考えています。選手には「みんなに応援されて自分の活動が成立している」こと自覚をしてもらいたいと考えており、選手寮がある意味で住民の近くになることで、地域の一員としての自覚も生まれ、人間形成にも非常に良いインパクトがあるのではないかと期待しています。
さらに、これまで一番の課題だった移動距離が解決することは、単純に通勤時間が短くなるだけではなく、事故に遭うリスクも低減することができます。
ーー県民にとってのメリットはどのような点にあると思いますか?
山崎)実は、今回の県営住宅の目的外利用が認められた理由の一つして、“入居する選手が地域貢献をすること”になっています。入居するだけでなく、プロスポーツ選手ならではの地域貢献にはとても期待しています。
例えば、地域のイベントへの参加や月1回の清掃活動ですね。地域の人々との触れ合いを通じて、選手が練習行くときに「頑張って!」と地域の人から声がかけられるようになってくれば、選手たちも誇りを持つことができるだろうと考えています。地域や社会の一員として、プロのスポーツ選手として大きく成長してもらえれば幸いです。そういったことを田村さんがおっしゃているとおり、ザスパ群馬はとても大事にしているクラブですので、県としても応援したいです。
ーー改めて今後への期待をお聞かせください。
田村)昨年開業した『GCCザスパーク』は、地域に根差していくための施設でもあります。選手寮を同じ地域に移転させることで、言行一致でそれを実践していきたいです。そして、選手それぞれが地域社会と接点を持って地域のみんなに支えられていることを自覚していくことを期待しています。
山崎)群馬県は『移住希望地のアンケート2024』で全国1位に選ばれています。生活と仕事としての部分で「良いところに来たと」思ってもらいたいですし、相乗効果で県営住宅の入居率も上がっていくなど、地域の活性化に繋がることを期待しています。
ーーありがとうございました。
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