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伊藤銀次とウルフルズ ⑥ 過酷なレコーディング!心を鬼にして臨んだプロデュース方法は?

Re:minder

1994年08月31日 ウルフルズのセカンドアルバム「すっとばす」発売日

当時のウルフルズは、みんな暴れ放題のやんちゃなプレイ


たっぷりと時間をかけた入念な曲作りとリハーサルを終えて、いよいよウルフルズの「すっとばす」のレコーディングは1994年5月1日から、新宿御苑にあるバズーカスタジオで始まった。

なんとか下準備は整ったが、いよいよ本番となって解決しなければならない大きな問題があった。それは、派手でインパクトのある演奏を売りとしているウルフルズだが、残念ながら、全員のグルーヴに一体感のないことだった。それが彼らのライブを観た時に僕が感じた一番気になること。

案の定、リズム録りが始まるや、スタジオのスピーカーから流れてくる彼らのアンサンブルは、勢いはあってもとてもOKなど出せない僕の耳からするとバラついてるとしか言えない演奏だった。普通ならば、どんなバンドでも “バンドの指揮者” とも言えるドラマーにノリを合わせて演奏するはずが、この当時のウルフルズは、みんな暴れ放題のやんちゃなプレイで、どちらかというとドラムのノリをちゃんと体で感じてないような状態。不思議に思ってドラムのサンコンJr. に尋ねてみると、困った顔で “そうなんです、誰も僕に合わせてくれないんです” と。

目指すは、トータス松本のリズム感ばっちりなボーカルを生かしたサウンド


よく仲良しバンドや友達バンドにありがちなことだが、バンド内最年少で一番最後に参加してきたことで、サンコンは遠慮してそれを他のメンバーに言えずにいたようなのだった。僕が関わるまでのウルフルズは確かにその後のウルフルズとはちょっと趣の異なる、荒削りなパンクバンド風なところがあったから、それでもよかったのかもしれない。

しかし僕の直感では、サム・クックやウイルソン・ピケットを思わせるちょっと日本人離れしたトータス松本のリズム感ばっちりなヴォーカルを活かしてサウンドを作っていくとしたら、むしろ荒々しさの中に心地よいソウルフルなグルーヴ感のあるバンドになっていくべきじゃないかと思っていた。ちょうどその頃人気が出てきていたレニー・クラヴィッツのような。

そこでリズムトラックのレコーディングには、クリック(いわゆるドンカマ)を使い、全員で “せ~の” で演奏するけれど、メインの目的は、ドラムのOKテイクを目指すこと。そのやりかたはなかなか過酷なもので、メンバー4人での演奏が終わると、ドラム以外の楽器を聴かずに、サンコンと僕で、ドラムだけを聴いて全容をチェックする。これをなかなかシビアな作業で僕たちは “地獄聴き” と呼んでいたよ。

この場合のOKの基準は、クリックにピッタリ合っているということではなく、ドラムプレイとしてかっこいいかどうか。クリックはあくまで目安にしか過ぎない。慣れないやりかたへのとまどいと、僕がなかなかOKを出さないので、サンコンは最初はかなり緊張してたようだけど、泣き言も言わずに何度もトライしてくれた。大変だったけれど、だんだんふっきれて次々とミラクルなテイクが録れるようになってきた。もともと明るく躍動感のある、生き生きとした歌い方のドラマー。やっと彼の魅力を引き出すことができたのだった。

心を鬼にして頑張った過酷なレコーディング


そしてサンコンのテイクにOKが出たら次にジョンBのベースをダビングして、そしてギターをというように、まるで打ち込みで作業してるかのような辛抱強いやりかたで進めていくことにしたのだった。

僕がハードルの高さを上げたもんだから、これまでにない過酷なレコーディングになってることがどう伝わったのかはわからないが、この時の所属レコード会社、東芝EMIのスタッフのあいだでは、なんとこのセッションが “銀次ヨットスクール” と呼ばれていたようだが、もちろん僕はそんな非人道的なやり方はした覚えはまったくない。ただもう妥協せず彼らとかっこいいものを創りたいっていう思いから、心を鬼にして頑張っただけ。どちらかというと野村克也さんの “野村再生工場” に近いやりかただったと僕は思っていた。

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