悪役に憧れるのは危険「現実世界で悪党どもが好き放題やる時代だ」 ─ 「ブレイキング・バッド」クリエイターが警告「ウォルター・ホワイトは最高の悪役だが」
「ブレイキング・バッド」のウォルター・ホワイトといえば、海外ドラマ史に残る名アンチヒーローの一人だ。今でも視聴者に愛され続けているが、クリエイターのヴィンス・ギリガンは「憧れるべき存在ではない」と強調し、今こそ真の“ヒーロー”にスポットライトを当てるべきだと主張している。
「ブレイキング・バッド」(2008-2013)は、がんを宣告された化学教師のウォルター・ホワイトが、家族に金を残すことを決意し、元教え子と共に麻薬製造ビジネスに手を染める物語。最初は同情を誘うキャラクターだったが、次第に殺人すらためらわなくなり、真の悪人・ハイゼンベルグへと変貌していく。その圧倒的な知性、緻密なキャラクターアーク、ブライアン・クランストンによる名演技が相まって、ウォルターはドラマ界のカリスマ的存在となっている。
2025年2月15日に行われた全米脚本家組合賞(WGA)授賞式で、ギリガンは最高栄誉であるパディ・チャイエフスキー・ローレル賞を受賞。「私がここにいるのは、もちろん『ブレイキング・バッド』とウォルター・ホワイトのおかげです」とした上で、時代に重ねた悪役に対する考えを語った。
「ウォルター・ホワイトは、史上最高の悪役の一人です。しかし、もし同じ条件なら、私はもう少しインスピレーションを与えるキャラクターを作ったことで評価されたいと思っています。2025年の今こそ、はっきり言うべきです。なぜなら私たちは、現実世界の悪党どもが好き放題やる時代を生きているからです。自分勝手なルールを作り、何を言おうと自分の利益しか考えていない。誰のことを言っているかって?ここはハリウッドですから、察してください。」
ウォルターに限らず、フィクションにおいて悪人はしばしば魅力的に描かれ、“アンチヒーロー”として愛されている。ギリガンは、こうした描写が視聴者に誤ったメッセージを与えているのではないかと懸念しているようで、『ゴッドファーザー』『羊たちの沈黙』『スター・ウォーズ』、「ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア」のキャラクター名を挙げ、こう語った。
「マイケル・コルレオーネ、ハンニバル・レクター、ダース・ベイダー、トニー・ソプラノのような印象的なキャラクターを作ると、世界中の視聴者が注目します。“すごい、奴らは最高にイケてる。自分もあんな風になりたい” とね。そうなると、フィクションの悪人たちは本来の“警告”としての役割を失い、困ったことに憧れの対象になってしまう。だから今の世界に必要なのは、昔ながらの“最も偉大な世代”のような、受けるより与えるタイプの善人なのではないでしょうか。思いやりや寛容さ、そして自己犠牲を、“愚か者のすること”だと考えない人々です。」
(C) & TM Lucasfilm Ltd.
その後、米の取材で、「今こそヒーローを称賛し、善良な人々を評価すべきだと思う」と述べたギリガン。もともと「ブレイキング・バッド」は、彼が子供時代に観た “白帽子(正義)と黒帽子(悪)の対立” の物語を基に、グレーの帽子を題材にすれば「より現実を反映するものになるだろう」と考え、生まれた作品だという。しかし、「この数十年で、どこか本質を見失ったような作品がますます増えてしまった。悪者は、単に憧れの対象であるよりも、むしろ教訓となるべき存在です」と指摘し、「ウォルター・ホワイトを誇りに思う一方で、死が近づくにつれ、自分が墓碑に刻みたいのはどんな言葉だろうかと考えるようになった」と語った。
なお、次回作となるApple TV+の新シリーズでは、「ベター・コール・ソウル」キム役のレイ・シーホーンが主演を務め、まさに「善人」を描いた物語になるという。詳細は不明だが、「レイはとても善良な人なので、悪役として想像するのは難しい」と語っている。
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