冨岡 愛 「これからも自分の心の中に生まれた“叫び”を“音楽”という形に昇華したい」――初のアジアツアー最終日、横浜公演レポート
TOMIOKA AI ASIA TOUR 2025 "愛‘sCream"
2025.11.12 KT Zepp Yokohama
10月17日(金)に開催された台北・Legacy Taipei公演を皮切りに、ソウル、上海を巡った『TOMIOKA AI ASIA TOUR 2025 "愛‘sCream"』。冨岡 愛にとって初のアジアツアーは、11月12日(水)・神奈川・KT Zepp Yokohama公演でファイナルを迎えた。「グッバイバイ」がSpotifyアジア6ヶ国でバイラルチャート入りを果たし、「恋する惑星「アナタ」」はSNS総再生数8億回を突破。着々と活躍の場を広げている彼女の歌声が日本のファンも温かく包んだ。同日にリリースされた1stフルアルバム『愛‘sCream』の収録曲もたっぷり披露されたこの公演の模様をレポートする。
バンドメンバーたちの演奏がステージを温めてから登場した冨岡 愛。アコースティックギターを手にした彼女が「横浜ー!」と観客に呼びかけて「あなたは懐メロ」がスタート。一斉に立ち上がった観客の手拍子が歌声を彩った。続いて「アイワナ」「愛 need your love」「デジャヴ」も披露されてから迎えた最初のMC。
「ツアーファイナル、あっという間でしたね。初のZeppです。叫ぶなり、ジャンプするなり、歌うなり、最後まで楽しんでいってくれたらなと思っています」という彼女の言葉に完璧に応えた空間が、その後も作り上げられた。ダンサブルなビートを躍動させた「delulu」を経て「HEART BEAT」に突入すると、ますます開放的に身体を揺らした観客。ソファが置かれていて、数個の室内灯が橙色の光を放っているステージ上は、穏やかなリビングルームのような雰囲気を醸し出している。ハンドマイクでステージ上を自由に巡り、時にはソファに座りながら歌った彼女は、「New Style」「劣り」「ジェラシー」も次々披露した。
バンドメンバー各々のソロプレイも交えて盛り上げたバンドセッションを経て突入した「かろやかに」は、爽やかに疾走するサウンドが観客の手拍子の勢いを高めた。そして「beat up」と「missing you」も届けられてから迎えたMCタイム。彼女のライブでは遠方から来た観客を探すのが恒例となっている。「浅草」「香港」「インドネシア」「岩手」「沖縄」など、海外を含む様々な地名が客席内で上がった中、特に注目を集めたのは「オーストラリア! シドニーです」という声。幼少期から中学を卒業するまでをオーストラリアで過ごした冨岡は大喜びしていた。
観客とのコミュニケーションを楽しんだ後、「Apple Musicさんの企画で昨日配信されたから、聴いてくれている人もいると思うんだけど、私の初のクリスマスカバー。11月なのでちょっと早いんだけど、ちょい早なクリスマス気分を楽しんでください」という言葉を添えて歌い始めた「We Wish You a Merry Christmas」。お馴染みのメロディが、彼女の歌声によって一際穏やかに響き渡った。そして、観客の間から大合唱が沸き起こった「グッバイバイ」の後、バンドメンバーたちはステージ裏で一休み。ステージに残った冨岡は、ソファに座ってアコースティックギターを手にした。「家で弾き語りしているみたいじゃない?」と言い、リラックスした表情を浮かべた彼女は、オーストラリアで暮らしていた頃の親友について語った。日本の高校に入学したタイミングで離ればなれになり、寂しくて仕方のない日々を過ごしたのだという。「ふと携帯電話を見たら日付が12月20日。親友の誕生日だったんです。“向こうにいたら直接お祝いできたのになあ”とかいう想いが頭の中に溢れて……。遠く離れている友人に向けて17歳の時に書いた曲です」――エピソードを語ってから披露された「Star空(Acoustic ver.)」。爪弾くギターに合せて響かせる歌声が優しくて穏やか。彼女の頭上で数個の電飾が星のように輝くのを見つめながら、観客は静かに耳を傾けていた。その次に歌った「MAYBE」もアコースティックギターによる弾き語り。歌声の温もりとじっくり向き合える贅沢なひと時であった。
「聴きながらみんなの心の中にいる大切な人を少しでも思い出してくれたら嬉しいなと思って書いた曲。これが今のところ冨岡 愛の最大限のアイラブユーを綴っている曲じゃないかなと思います」という言葉が添えられた「831」。スポットライトを浴びながらスタンドマイクに向かい、一心に響かせる歌声が瑞々しく、凛々しかった。続いて届けられた「Psycho」では歌いながらステージ上を左右に巡り、あらゆるエリアの観客の手拍子を誘った。そして再び迎えたMCタイム。
「“愛ってなんなんだろう?”という疑問は、私の音楽の永遠のテーマになっていくんじゃないかなと思っています。自分の叫び、愛の叫び……私の名前も愛なので、“愛の叫び”として『愛‘sCream』というタイトルにしました」――この日にリリースされた1stアルバムのタイトル、今回のツアータイトルでもある『愛‘sCream』について触れた後、音楽に対する想いも語った。「人って悲しいことがあると脳内に張り付いちゃって“嬉しい”という感情に鈍感になってしまう。私はこれからも自分の心の中に生まれた“叫び”を“音楽”という形に昇華したいです。誰かの心の叫びを受け止められるような、“ちゃんとあなたの叫びは聞こえているよ”と寄り添えるような音になってくれたら嬉しいです」――そして披露された「愛‘sCream」。歌う直前に「きっと私が何歳になってもこの曲は大切に歌っていくんじゃないかなと思っています」と言っていたが、強い想いが歌声に込められているのを感じた。ピアノ伴奏と歌のみで幕開けて、ギター、ベース、ドラムが合流。壮大に高鳴ったバンドサウンドに包まれて歌う姿は、一心に祈るかのような清らかさを放っていた。
2026年5月9日(土)福岡BEAT STATION公演を皮切りに、6月6日(土)東京・LINE CUBE SHIBUYA公演まで、全国4ヶ所を巡る『TOMIOKA AI LIVE TOUR 2026』を開催する旨を発表。「またみんなとライブで元気に会えるのを心から楽しみにしています。盛り上がる準備はできてますか? まだ聴きたい曲、全部聴けてないんじゃない?」と呼びかけた後、「恋する惑星「アナタ」」がラストを飾った。スタートするや否や、客席の全エリアで沸き起こった手拍子。爽やかなビートを浴びた彼女が明るい笑顔を浮かべていたのが思い出される。そしてエンディングを迎えると歓声で包まれたステージ。手を振った彼女を大きな拍手が見送った。
取材・文=田中大 撮影=umihayato