“そば打ちの神様”高橋名人の味を継ぐ「無着庵」のもりそば|広島市佐伯区
年越しなど、さまざまな節目で食べる機会も多い「そば」。
広島市佐伯区にある「無着庵」では、“そば打ちの神様”と言われている高橋邦弘さんの元で学んだ店主・白石さんによる手打ちそばがいただけます。
今回は、そんな無着庵の「もりそば」と「鴨南蛮そば」の魅力と、作り方と想いを取材してきました。
まずは「もりそば」でシンプルに味わって欲しい
「うちのそばが初めてなら、まずはもりそばを食べて欲しい」と、店主の白石さんが話す通り、もりそばは、そば屋の顔となるメニューです。
つやっと光るそばは、口に入れるとほのかな甘みが広がります。コシがあり、噛むたびにそばの風味が感じられます。
無着庵は、“江戸前そば”と言われる、そば殻を剥いてキレイな実で作られる白っぽい麺なのが特徴。
10月を過ぎると新そばが出回る時期に入ってきて、11月初旬に取材で伺ったときは少しずつ新そばを混ぜて打っている時期でした。
新そばになると、より甘くて香りが高くなるそう。冬の新そばの時期を逃さないようにいただきたいですね。
自家製「からじる」も原材料の仕入れ先を厳選
もりそばをつけて食べるのは“辛汁(からじる)”と呼ばれるつゆです。からじるに使う出汁は、昆布、干ししいたけ、本枯本節。
出汁の材料も醤油などの調味料も、高橋名人から教わったメーカーに注文を出しています。
材料は高橋名人に教わったものと同じですが、実は作り方は変えているそう。
高橋名人は、薄く削った本枯本節をさっと煮だして和食に使うような出汁を取るのに対し、無着庵では本枯本節を厚削りにして40分煮込んでおり、うま味がしっかり出るように工夫しています。
素材の味を引き出した出汁を使ったからじるは、深いうま味で濃いのが特徴。何回もつぎ足す必要がなく、最後まで出汁のうま味を感じられます。
辛口なので、そばを全部つけず、少しつけて食べるのがおすすめとのこと。
白石さんの想いが詰まったからじるは、最後、そば湯で割って伸ばしていただきます。
「最後まで飲めるのがうちのからじるです。そば湯で割って伸ばしてもおいしいですよ」と、白石さんは話します。
冬は「鴨南蛮そば」がおいしい季節
鴨と白ネギがのった「鴨南蛮そば」は、これからの季節におすすめの一品です。
温かいそばは、もりそばと比べると柔らかさを感じられます。ずるずるとすすって食べたくなる鴨南蛮そばは、そばの甘みで口の中が満たされます。
温かいそばに使われるのは、“甘汁(あまじる)”と呼ばれるつゆ。
出汁は荒節のほか、本枯本節、サバ節、うるめいわし節の薄削りが加わります。ていねいに仕込んだつゆによって、口あたりがやさしくまろやかになるのだそう。
「西日本のそばは、薄口醤油で作られることが多いのですが、いわゆる江戸前そばを受け継いでいるので、濃い口醤油で作っています」と、白石さんは教えてくれました。
無着庵の鴨南蛮そばは、包丁を入れた生の鴨をつゆで煮込んで作ります。生の状態で煮込むことで、出汁にも鴨の味が出るのだそう。
「同じ達磨グループ(高橋名人に教わったお弟子さんたちのお店)でも、鴨の皮目を焼いてから煮込むお店もあります。そばは高橋名人に教わったまま作りますが、そば以外では個々の良さが出ると思いますよ」と、白石さんは語ります。
柚子こしょうで味を変えながら最後までおいしくいただく
柚子こしょうを入れると、また違った味で楽しめます。
柚子の香りが強く、ピリッとしたこしょうの辛さもある柚子こしょうは、店頭で購入できます。
白石さんいわく、「いろんな柚子こしょうを試したけど、香りや食感などが一番うちと合ったJAおおいたのものに行きついた」とのこと。
無着庵のメニュー
無着庵のルーツは高橋名人の「翁 達磨」の味
無着庵のそばの魅力と、高橋名人との関係性について、店主の白石さんにお話を伺いました。
広島で開催されたそば教室に参加したのがきっかけでそばの道へ
もともと和食料理店で修行をしていたという白石さん。
修行が終わってから目指したのは、なんと、和食ではなくそばへの道。
当時、高橋名人に弟子入りを志願したこともあったのですが、その際は弟子待ちの人が多く、実現しなかったそうです。
その後、白石さんの母が新聞を読んでいると、高橋名人が広島市でそば教室をするため生徒を募集するという新聞記事を発見!そばを学ぶことになりました。
当時白石さんの妻が営んでいた喫茶店でそばを打ちながら、1年間広島市の教室で学んだ白石さん。
その後、高橋名人のお店がある豊平町のお店の教室で半年学びを重ね、合計1年半そばに向き合います。
現在、無着庵でもそば教室を行っていますが、そのルーツとなっているのがこの高橋名人が開催していた教室だそうです。
実で仕入れて自家製粉を行う、てまひまかけるのが高橋名人に教わったそば
そばは酸化しやすいので実のまま保管し、使う分をその都度、自家製粉して作っている白石さん。そばの実の仕入れ先は厳選しています。
「そばの実は、高橋名人が契約していたそば農家さんから仕入れています。5つの農家さんから仕入れた実を混ぜて使っているんですが、多くのそば屋さんは最初に農家さん探しに苦労すると思うので、最初から恵まれていました」と、白石さんは話します。
11月に入ると、収穫が終わった農園から順に新そばが届きます。
今は北海道ですが、次は長野、そして茨城……と、どんどん南下していくのだそう。
殻を剥いたとき、鶯色しているのが新そばの特徴。甘く香りが高いそばの実は、生のまま食べられます。
日が経つにつれ茶色くなっていくそうで、鶯色のそばの実を使った新そばは、この時期にしか食べられません。
石臼で自家製粉して、熱によって香りが飛ばないようにするのも高橋名人の作り方を受け継いでいるそう。
ご飯ものを置かないのはそば好きを迎え入れるため
「ご飯ものを置きたい気持ちもあったけど、それだと全国のそば好きが来なくなります。そばと一緒にご飯を食べたくなると思うけど、あえて出していません」とのこと。
「もりそばだけではお腹いっぱいにならない人もいると思うけれど、定食屋さんとは違うから……。」というのが高橋名人の教えだそうです。
「無着庵という名前が浸透するまでは、ご飯ものを出さずそばだけでやっていくことに不安もありました」と、当時を振り返ります。
これからもおいしいそばを食べたい人に来てもらうために、日々そば作りに励んでいくそうです。
無着庵の基本情報とアクセス
広電「山陽女学園前」から国道2号線へ向かって進み、国道2号線に出たら北に進みます。
西隅の浜交差点を三筋橋へ向かって曲がると、右手に「無着庵」が見えます。
店の向かいにはBOOKOFF 広島隅の浜店があるので、目印にしてくださいね。
無着庵の基本情報
住所広島市佐伯区美の里2丁目1-44電話番号082-923-5551営業時間月・火・水 11:00~15:00
金・土・日 11:00~15:00 / 17:00~21:00(LO 20:30)定休日木曜 ※不定休あり駐車場店前2台
白石さんは取材中「そばを語ると止まらなくなるので(笑)」と、終始楽しそうにそばの魅力を語ってくれました。
そばを愛する気持ちと、高橋名人へのリスペクトが伝わってきて、無着庵がおいしい理由は、白石さんの日々の勉強と努力によるものだと納得。
なお、無着庵の天ぷらは和食料理で修行してきた経験を活かし、薄い衣で揚げるのだそう。こちらもぜひ食べてみてくださいね。
ライター/丸山希
※紹介している内容は2024年11月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。
※記事内で紹介している金額はすべて税込みです。