そこに看板があればハマり続ける。らんちゃんに伺う“顔出し看板の裏側”の世界
旅先などで見つけると、ついつい顔をはめたくなってしまう、顔出し看板。時に思いがけない場所に顔出し用の穴が開いており、無理な体勢ではまらなければならないことも。らんちゃんは、そんな顔出し看板にハマる自分の後ろ姿を写真に撮り続けている「顔出しパネル愛好家」だ。
らんちゃん
顔出しパネル愛好家。ハマったパネルは4000枚以上。パネルの裏から自身の顔ハメ姿も撮り続けている(自称:裏パネの人)。北海道から沖縄まで、時には海外へも、そこに顔ハメがある限り、旅は続く……。
旅人の到着を待ち構える看板たち
「もともと旅行好き。よく観光地の空港や駅などに『ようこそ、◯◯へ』って書かれた顔出しパネルが置いてありますよね。
旅先にやっと到着した一番テンションの高い時に顔出しパネルがあれば、そりゃあ撮るよねっていう感情に素直に従って、看板にハマって写真を撮るようになりました」
「自分の顔ハメ姿を後ろから撮るようになったのは、10年ほど前です。
看板と壁の距離が近すぎたりしゃがまないといけない場所に穴があったりと、顔出し看板の裏側は意外と足場が悪いことがあるんです。
障害物を避けながら看板にハマる自分の姿が滑稽だなと思って、友だちに撮ってもらったのがきっかけです」
一生懸命ハマる後ろ姿の哀愁
これまで数千枚もの顔出し看板にはまり、自分の顔ハメ姿を撮り続けてきたらんちゃん。撮影は、基本的に一人で行う。
「ポケモンを探すように『まだ見ぬ顔出し看板に早く出合いたい』という、一種の収集癖なんだと思います。
『ここにあった』という情報をもとに現地へ行くこともありますが、うれしいのはやはり、偶然出合えた看板。
旅先で偶然見つけたパネルは『ラッキー顔ハメ』って呼んでいます」
当初は辛そうな姿を撮りたかったので、自分の顔ハメ姿を中心に撮っていたのだが、撮り続けているうちに、映り込む背景が面白くさせていると思うように。
最近は、背景を含めて引きで撮っています。一人で三脚を立てて正面から撮るのも恥ずかしいし、後ろから撮るのも不審者。少しでも早くその場から立ち去りたいので、基本的にはワンテイクです。
撮影中、周りの人たちは見て見ぬふりですが、たまに親切な方が『よかったら撮りますよ』って、正面から撮ってくださることもありますね(笑)」
難しい格好で看板にハマり続けていると、体幹や柔軟性も鍛えられそうだ。
「壁と看板が近いのにしゃがまないとハマれない位置に穴がある時は、大変ですね。
中腰でお尻を突き出すわけにいかないので、バレエの『プリエ』というポーズのように、両膝を曲げたちょっと恥ずかしい格好を強いられます。
たまにジムに行ってスクワットをするんですが、顔ハメの体勢に似ているなと思いますね。しゃがむ時に使う太ももの筋肉も、自然と鍛えられている気がします。誰かに撮ってもらう際に手間取って時間がかかったとしても、涼しい顔で待っていられます(笑)」
裏側だからこそ見えるもの
手描きのものから立体的なもの、印刷されたもの。地域の名産や施設の特徴などを盛り込んだ千差万別なデザインも、顔出し看板の魅力の一つだ。裏側から撮るからこそ、見えてくるものもある。
「個人商店や子供向けの施設などでは、職員さんや店員さんが独自に作った看板が多いですね。手作りのぬくもりを感じます。最近は印刷技術が発達しているので、手描きのものは少しずつ減ってきているようにも思います。
「同じパネルなのに表と裏では世界観が違うところも、裏側から撮る面白さですね。
子供向けに踏み台を設置していたり、手をかける場所を用意してくれていたりと、裏側だからこそ見える設置者の心遣いにも、おもてなしの心を感じます」
なんと顔ハメ姿の撮影で47都道府県を制覇したらんちゃん。北海道から沖縄まで、全国各地で顔ハメしてきた姿を『シン・ハメる女』というZINEにまとめた。
「ZINEにまとめたことで一つの目標を達成できました。これからは、顔ハメ姿のレパートリーが少ない地域をのんびり巡りたいなあなんて考えています」
取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべてらんちゃんさん提供
『散歩の達人』2025年6月号より
村田 あやこ
路上園芸鑑賞家/ライター
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。