デザイナーズチェアが揃う珍しい図書館。不朽の名作がさりげなく置かれた、くつろぎの活字空間を【インテリアコーディネーターコラム】
こんにちは。
インテリアコーディネーターのアダチツヨシです。
あなたが普段何気なく行く場所。
「何となく素敵な空間だなあ。」なんて思っていたら、実はそこには名作家具が。
今回は山陰にあるそんな場所をご紹介します。
取材したのは、島根県安来市。
有名なデザイナーズチェアが並ぶ「安来市立図書館」。
その魅力を知ると、きっとあなたにとってより特別な場所に感じられることでしょう。
地域に根ざした“くつろぎの活字空間”がある図書館
島根県安来市安来町にある安来市立図書館は、2004年5月に現在地に移転しました。
開館から20周年を迎えた現在、蔵書数は約165,000冊(2023年のデータ)です。
安来市の人口は35,000人程。人口あたりの蔵書数をみると、山陰の市立図書館の中でもトップクラスです。
2004年10月には、1市2町の合併により誕生した新安来市の市立図書館となりました。
今から遡ること20年程前、そんな憩いの場所が誕生した背景には、より理想に近い図書館像を追い求めた人たちのこだわりと情熱がありました。
市立図書館といえば、誰もが気軽に利用できる象徴的な場所。
図書館の新設にあたって、ひとりでも多くの人に利用してもらうにはどんな場所にすべきか、関わる人たちがそれぞれの立場から本音で意見をぶつけ合ったそうです。
紆余曲折ありながら、想いがかたちとなった安来市立図書館。
開館時からの変わらないコンセプト「ようこそ、くつろぎの活字空間へ」には、誰にとっても居心地の良い“滞在型”の場所にしたいという想いが込められています。
名作椅子がある理由
館内を進むとあちこちで目に飛び込んでくるのが、デザイナーズチェアの数々。
国内外問わずミックスされたセレクトが、遊び心ある空間の魅力を一層際立たせます。
特に庭園に面した窓ガラスに向かって椅子が並ぶ光景は圧巻で、窓ガラスがあけられている日には、樹木の香りや自然の風を感じながら読書することもできます。
まるで我が家で過ごしているかのような、ゆったりとした時間が流れるひととき。
視線の先にある広葉樹の木々は、季節の移ろいゆく景色を見せてくれます。
そんな名作椅子が並んだ理由について、当時椅子のセレクトを担当された方にお話をお伺いすることができました。
「椅子が暮らしの中心にある現代の暮らしの中で、自分に合う1脚で本を読んでもらいたい。」
そんな想いが根底にあったそうです。
また、「この図書館を利用し育った学生が県外など社会に出たとき、CMや雑誌で目にする素敵な家具によって故郷の図書館を思い出してもらい、帰省したときには再び訪れたくなる場所をつくりたい。」という希望も込められたといいます。
誰もがくつろげる空間を目指した図書館には実際に、「自分もこんな心地よい椅子が欲しい」という投書や、「自分が知っている名作椅子が図書館に置いてあることに感動した」という声なども届いたことがあるそうです。
図書館をよく利用される方の中には、マイチェアのように座る椅子が決まっている方もいらっしゃるのだとか。
私が選ぶ「この椅子に座るべき!」勝手にベスト
LCW(ラウンジチェアウッド)/ チャールズ&レイ・イームズ / アメリカ
1940〜60年代頃の“ミッドセンチュリー”と呼ばれた家具黄金期、その時代を代表するデザイナーが生んだ名作「LCW」。当時の最先端の技術で製作された逸品を、さらっと置いているセンスが素敵。
バタフライスツール / 柳宗理 / 日本
日本が海外に誇るプロダクトデザイナー、柳宗理の代表作であり、MOMA(ニューヨーク近代美術館)にも収蔵される不朽の名品。ちょっとした腰掛けとしてのさりげない置き方に、空間の細部まで行き渡ったこだわりが窺える。
アームチェア 406 / アルヴァ・アアルト / フィンランド
フィンランドの名建築家がデザインしたこの椅子は、「カンチレバー式」と言われる脚の構造から程よい“しなり”が生まれ、まるで宙に浮いているかのような座り心地。こちらは、女性の意見も取り入れて図書館に採用したとのこと。
イドチェア / ハリー・ベルトイア / アメリカ
ミッドセンチュリー期を代表するデザインの一つ。木製の温かみのある家具だけではなく、こういったスチール製家具も採用していることで、空間に深みが増している。筆者としては、この椅子のセレクトに心掴まれた。
スツール / ハンス J.ウェグナー / デンマーク
デンマーク家具デザイナーの巨匠、ハンス J.ウェグナーの作品も採用されている。有名なYチェア(CH24)ではなく、CH53をセレクトした玄人好みのセンスも光る。ペーパーコード座面が座り心地のバリエーション増にも貢献。こちらも館内に複数台設置してある。
まだまだ紹介しきれない名作椅子が並ぶこちらの図書館。
今回はデザイナーズチェア視点から切り取りましたが、他にもこだわりの空間づくりがあちこちに見られます。
例えば、見事な無垢材で製作されたテーブルが設置されたスポット。
来館者の間でも人気があり、滞在型図書館の象徴的な場所の一つといえます。
歴史的な逸品に気軽に触れることのできる意義
実は市場に流通しているデザイナーズ家具には、模倣品が多く出回っているのも事実です。
かつてのデザイナーが長い年月を掛けて生み出したデザインの価値、それを腕利きの職人が丹精込めて製作した価値、真の価値を知る上で、“本物”に触れることってすごく大切なんです。
特に椅子は、自分にとってのベストな相性を見つけることのできる家具。
図書館という空間は、長時間気兼ねなく座り心地を体感できる絶好の場所でもあるのです。
こちらの写真の椅子は、図書館へ寄贈したいという声があってやってきたもの。
名作椅子が並ぶ環境だからこそ、こうして集まってきた椅子もあります。
椅子と深く結びつく安来市立図書館は、知る人ぞ知る、山陰が誇る場所のひとつです。
開館から20年が経ち、今や日常として定着した名作家具と過ごす読書空間ですが、こんな理想的な場所って実は珍しい。
「自分にとっての居心地の良さ」を見つけるきっかけに、ぜひ訪れてみてもらいたい場所です。
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