【クリスマスに現れる恐怖の悪魔】クランプスとは ~ヨーロッパ各地で復活する恐怖の行事
街がイルミネーションで輝く12月。
店頭にはクリスマスツリーや赤い衣装のサンタクロース、トナカイが引くソリなど、華やかなクリスマスの装飾が並びます。さらに、多くの商業施設ではヨーロッパのようなクリスマスマーケットが開催され、多くの人々で賑わっています。
そもそもクリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝う宗教的な行事ですが、日本では恋人や友人、家族と一緒に美味しいディナーやケーキを楽しみ、プレゼントを交換するイベントとして広く親しまれています。
一方で、中欧のオーストリアやドイツなどの地域では、クリスマスが近づくと「クランプス」という恐ろしい形相をした怪物が街に現れることで知られています。
このクランプスは、悪魔のような姿を持ち、善良なサンタクロースとは正反対のキャラクターです。
今回は、サンタクロースとは正反対のルックスで、最近注目を集めているクランプスについて紹介いたします。
半分ヤギで半分悪魔
最近は、徐々に日本でも知られるようになってきたクリスマスシーズンの悪魔「クランプス(Krampus)」は、ヨーロッパ中部の伝説の怪物です。
主に、オーストリア中部・東部、ドイツ東南部のバイエルン州、ハンガリー、ルーマニア北部のトランシルヴァニア地方、スロヴェニア・クロアチア北西部などでは、クリスマスシーズンになると、聖ニコラウス(※)と怪物クランプスが、一緒に街を練り歩く伝統的な行事が行われます。
※聖ニコラウス:270年ごろ現在のトルコ共和国に位置する小アジア(アナトリア半島)で生まれ、ミラという町の司教となった人物。サンタクロースは、この聖ニコラウスがモデルといわれる。
聖ニコラウスの姿とは対照的な風貌のクランプスは、日本の民話や伝説などに登場する鬼や妖怪とは桁違いの、恐ろしげなルックスをしています。
クランプスは、半分は山羊で半分は悪魔で、名前はドイツ語の「Krampen(鉤爪)」に由来しているそうです。
ボサボサの髪の毛が生えている頭部には、大きな曲がった角が2本生え、耳は尖り、体は体毛に覆われ、爪が鋭く尖った恐ろしい姿をしているのです。
「悪い子」を見付けては鞭を打ち、地獄に引きずり込む
ドイツなどでは、12月初旬から始まるクリスマスのお祝い(特に12月6日の聖ニコラウスの日の前夜)の行事として、聖ニコラウスとクランプスが街を練り歩きます。
聖ニコラウスは、良い子にしていた子どもたちにお菓子を配る存在として親しまれています。
一方、クランプスは手に鎖と鐘を持ち、悪い子どもを見つけると束ねたカバノキの枝でお仕置きをしながら、地獄へ引きずり込むとされています。
12月6日になると、ドイツの子どもたちは前夜のうちにドアの外に出しておいたブーツや靴の中に「よい子へのご褒美」が入っているか「悪い子への罰としての木の枝の鞭」が入っているのか、確かめるのが恒例となっています。
さらに、ドイツ・ハンガリー・オーストリア・チェコなどでは、いろいろな姿をしたクランプスが参加する「クランプスラウフ(Krampuslauf)クランプス行列)」が行われます。
たとえば、ドイツのミュンヘンでは、クリスマスマーケットが広がる中で個性豊かなクランプスたちが行列を作ります。
彼らは立派な角がついた恐ろしげな面をかぶり、威圧感のある装いをしていますが、なかにはモコモコのファーのようなものを着込んだちょっと可愛いクランプスがいて、個性もさまざまです。
日本のナマハゲを彷彿させる役割
悪い子にお仕置きをする役割を担うクランプス役は、主に体格の良い身長の高い男性が担当します。
恐ろしいお面を身に着けて近づいてくる姿には圧倒的な威圧感があり、大人でも恐怖を感じるほどです。そのため、泣き出してしまう子どもも少なくありません。
「親の言うことを聞かないとクランプスに地獄に連れて行かれるよ」という風習は、「怠け者はいねがー 悪い子はいねがー」で知られる秋田県の「ナマハゲ」文化を彷彿させます。
日本でも、2018年には「クランプス旋風を巻き起こして日本中を元気にしたい!」という思いのもと立ち上げられた「クランプスジャパンプロジェクト」があり、過去には商店街やイベントなどでパレードも行なっています。
クランプスジャパンプロジェクト
https://krampus-japan.com/project.html
ヨーロッパでは、ドイツやオーストリア各地から37もの市民団体を誘致して大規模なクランプスイベントが開催されるなど、地域を挙げて盛り上がる様子が見られます。
しかし、その反面、怖すぎる扮装や鞭で打つようなパフォーマンスが過激で、子どもにトラウマを与えるといった批判があるほか、クランプスのグッズが次々と商品化されることで「商業化が過ぎる」といった意見も上がっています。
クランプスの起源と今
クランプスの行事は、500年ほど前に始まったとされる伝統的な風習です。
しかし、第二次世界大戦前、ファシズム体制下のオーストリア政府によって禁じられ、一時は表舞台から姿を消していました。その後、農村部でひっそりと受け継がれてきたと言われています。
近年、クランプスは再び注目を集めています。米国では、クランプスを主人公にしたホラー映画が話題となり、その恐ろしいキャラクターが広く知られるきっかけとなりました。
また、従来のクリスマス以外の体験を求める人や、「普通のクリスマスでは物足りない」と考える層が増えたことも、クランプスの復活に寄与していると考えられています。
このような背景から、クランプスの行事が各地で復活し、再び賑わいを見せつつあるのです。
アルプス地方では「ペルヒテン(Perchten)」と呼ばれる存在もおり、クランプスと同様に非常に恐ろしい形相をしています。
クリスマスの時期になると、ペルヒテンは各家を訪れ、良い子には靴の中に銀貨を入れてくれるとされています。しかし、悪い子に対しては、悪夢を見せたり、内臓を切り開いて石を詰め込み、井戸に沈めるといった恐ろしい存在とされています。
こうした描写を見ると、日本のナマハゲが非常に優しい存在に思えてきます。
ヨーロッパでも日本でも、「いい子はご褒美、悪い子はおしおき」という子どもへの教育方法が共通しているのは興味深いところです。
参考:『クランプス ジャパン』『ザルツブルグ市 クランプスとペルヒテン』他
文 / 桃配伝子 校正 / 草の実堂編集部