ばいきんまんがほぼ主役!? 過去最高のスタートダッシュを切っている『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアンパンマンの新作映画とキッズアニメ映画についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
過去最高のスタートダッシュを切っている!
現在上映中の『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』では、ばいきんまんがほぼ主役を張っています。ばいきんまんが見つけた絵本の中からルルンという妖精が助けを求めてきて、ばいきんまんが絵本の中に入っていくというお話です。要はばいきんまんの“異世界転生もの”で、もちろん終盤にはアンパンマンとばいきんまんが協力するシーンもありますよ。
「すいとるゾウ」という悪いゾウが、森のエネルギーを吸ってしまっているから何とかしてほしいというのがルルンのお願い。ばいきんまんが立ち向かうのですが、自分の基地は現実の世界にあるから、武器など戦えるものが手元には何もないわけです。
そこでばいきんまんは廃墟になったお城の金属製品を溶かして道具を作り、木を切り出してパーツにして「だだんだん」というばいきんまんのロボットを木製で作ります。これがウッドだだんだん、です。工具から鋳造するという細かなディティールも面白いし、木材で材料を切り出す過程も丁寧です。アクションシーンも見応えがあって、ウッドだだんだんとすいとるゾウのバトルもとても迫力があります。
というのも、今作で監督を務めているのが、アンパンマンの映画は5本目になる川越淳監督です。『真(チェンジ!)ゲッターロボ 世界最後の日』(1998年)の監督もされていて、ほかに『真ゲッターロボ対ネオゲッターロボ』『鋼鉄神ジーグ』などが代表作。なので、今回もアクションが見どころになっています。
川越監督は、『それいけ!アンパンマン だだんだんとふたごの星』(2009年)で初めて映画『アンパンマン』の監督をしています。これもタイトルにだだんだんが入っている通り、結構ロボアニメ感が強いんですよ。だだんだんが歩いていると地割れが起きて子どもたちが大変なことになるという導入で。監督ご本人も後で、「ギラついた画面が多くて、品がないと思われたのかもしれない」とやなせたかし先生から強い意見をもらったというエピソードをインタビューで話されています。今回の映画はそういう意味では怖すぎないけれども、アクションとしてはアニメファンも楽しめる見どころがありました。ばいきんまんの頑張りが目立ちましたし、もちろんアンパンマンもいい具合に活躍しますよ。
キッズ向けアニメは低年齢層をターゲットに
ここ10年ぐらいキッズ向けアニメ映画はブルーオーシャンとしてで、いろいろ注目されています。そのきっかけになったのは2013年の「しまじろう」の映画。しまじろうは、通信教育教材「こどもちゃれんじ」発の人気キャラクターですが、しまじろうの冒険ストーリーで、ファーストシネマ(幼児が初めて見る映画)というコンセプトで企画されたものでした。
それまで映画館に行くのは小学校に上がってからというのが通説でした。暗いし時間も長いし、退屈するかもしれないですから。ところが今では、3~4歳くらいからデビューすることが増えているので、そこをターゲットにして「しまじろう」の映画を作りましょうとなったわけです。
ストーリーの間に歌と踊りがあるとか、映画館を暗くしないとか、音量も子どもが聞いても怖くないレベルにするとか、工夫がたくさんなされていました。内容も途中に歌や踊りなどが入って、コーナーがどんどん変わっていく感じです。映画というよりも、家で子ども向け番組を見ているような雰囲気なんですよね。そういう方針を定めて、小さい子でも大丈夫ですよ、声を出しても大丈夫ですよというのをやったことで、お客さんが増えたんですよね。
そのゾーンでいうと、他にも『おかあさんといっしょ』の映画版や、テレビ東京で放送されていた「シナぷしゅ」というキャラクターの映画版も作られたりしていますね。数年前に調べたとき、0~5歳の人口は500数十万人ほどありました。0歳は難しくても2~3歳くらいになれば映画に行けるようになるので、市場は200数十万人くらい。手付かずだったところが今はターゲットになっているわけですね。映画『アンパンマン』も同様に、暗くしない、音が怖くない、冒頭には必ず一緒に楽しめるお遊戯のシーンを入れるという工夫をするようになっています。
以上『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』、それからキッズ向けアニメ映画の現状についてお話をさせていただきました。