わからないからキャラクターたちに任せる――第2期でより広がっていく|『薬屋のひとりごと』の世界観を筆坂明規監督が作り上げる【インタビュー】
大人気後宮謎解きエンターテインメント『薬屋のひとりごと』。2025年1月10日よりTVアニメ第2期が放送中! 第1期から続く未解決の謎が後宮を不穏な空気に包む中、猫猫と壬氏の前に新たな難事件が立ちふさがります。
今回、第2期から監督を務める筆坂明規さんにインタビュー! 第1期の制作エピソードや第2期で監督を務めるにあたっての挑戦、第2期前半を振り返ったお話などを伺っています。
【写真】『薬屋のひとりごと』第2期インタビュー:筆坂明規監督
そこに生きているキャラクターたちにカメラを向ける
──原作をご覧になった際の感想をお聞かせください。
筆坂:とにかく話が面白いです。アニメを作りながら、ますますその面白さに驚いています。話だけでなく、キャラクターもひとりひとりとても魅力的ですよね。このふたつが主軸になっている作品だと思います。
しのとうこ先生のキャラクターデザインも魅力的です。そのキャラクターたちが複雑に絡み合うことによって、話がさらに面白くなっているんですよね。そこに謎解きや人間ドラマ、薬や医学の知識なども合わさってさらに世界観が広がっていて。
──筆坂監督は第1期で副監督を担当されていました。副監督としてはどんなことを?
筆坂:監督の仕事は“どういうアニメーションにするのか”という道筋を引いて、そこを目指して旗をふっていくことです。アニメーション作りはもちろん一人ではできず、多くの人たちの手によってつくられています。いろいろなスタッフに頑張って演出の意図を伝えるものの、こぼれてしまう部分があるんですよね。ほかにも、監督の手が届かない部分があったり、ひとりでは気付けないことがあったり、そもそも物量的に手が回らなかったり。
そんな中、副監督は監督のやりたいこと、意思、目指す地点を全て正確に聞いたうえで足りないものを補填していくことが役割なんじゃないかなと思っています。「目指すところがあそこなら、今はここがこぼれているから全部後から拾って固定して」という風に、より完成形に近づける仕事ですね。
──時に監督に意見や提案をしたり?
筆坂:意見というより確認ですね。「今こんな状況なんですけど、これ、どうしますか?」みたいに、監督の考えを聞いて、それに従って修正しています。やはり最終決定権は監督にありますから。
──第2期は長沼(範裕)監督から監督を引き継ぐこととなりました。
筆坂:第2期は監督ということで、より絵作りとして挑戦できることが増えるので、喜んでやらせていただきますと引き受けました。
この作品は原作ファン、アニメから好きになった方もたくさん見てくださっているので、その人たちがちゃんと喜んでくれるものを作ろうという気持ちは変わらずです。そのうえで、“日向夏先生からお預かりした原作を正確にアニメ化する”という部分もブレずにやろうと。
──第2期で長沼総監督とはどんなやり取りを?
筆坂:長沼さんは、シリーズ構成や脚本制作、あとは共同で音響まわりをみてくださっています。本読みで話し合いをして、現場に関しては筆坂さんよろしく、みたいに任せてもらっています。
──第2期で新たに挑戦したことであったり、監督ならではのエッセンスを加えたりはしたのでしょうか?
筆坂:これは僕自身が演出をするときにいつも心がけている部分なのですが、キャラクターたちが実際にそこにいて、僕らが見ていないところでもちゃんと生きているように表現したいと思っています。そこにカメラを置いて、彼らの物語を撮らせてもらうような感覚といいますか。
そして、その場所にいる人たちが怒っているのか、泣いているのかを考え、泣いているのであればどれくらい悲しんでいるのか、どのくらい怒っているのかを見ている人に正確に伝える。やはり共感してもらうことがアニメーションの演出なので、この作品でもしっかり表現できたらなと思っています。
──物語の裏側で、あのキャラクターはこんなことをしていたのでは?と検証されていると。
筆坂:検証というより、ただ僕が妄想しているだけです(笑)。僕が見ていないところであったであろうやり取りとか、猫猫と小蘭が楽しそうにしている様子とかを勝手に考えていますね。
──キャラクターの営みを感じさせる作品だからこそという部分も大きそうですね。
筆坂:そうですね。僕としても楽しませていただいています(笑)。
──キャストの演技をご覧になっていかがでしたか?
筆坂:僕が申し上げるのはおこがましいことではありますが、この作品のキャストの皆さんはお上手なんですよね。アフレコをするにあたっても、みなさん繊細な演技プランを立てていただいていて、毎回驚くばかりです。
アフレコの段階ではまだ絵を作っている最中なので、最終的にどんな絵になるのか、どういうプランでこの話数は始まるのかという部分は僕がお伝えして、その部分の微調整を相談させていただくことはあります。
──役者さんのイメージを具現化するような?
筆坂:そのシーンのキャラクターの距離感や感情を詳細に説明させていただいたりですね。
ディテールをよりはっきりさせることで、上手くいくのではないかなと思っています。
キャラクターたちに任せる
──第2期の第1話(第25話)は物語の新たな始まりでもありましたが、内容的には第1期から直接続くような形でした。
筆坂:第2期の第1話は第25話でもある通り、第1期とのブリッジなんですよね。だけど第2期の第1話でもあるので、その両方の要素を満たさないといけませんでした。悩みましたが、最終的にはキャラクターたちに任せることにしました。最初に梅梅が出てくる緑青館のシーンとか、猫猫と壬氏が絡むシーンなどを見せながら、新たな風が吹き込んできた感じが表現できればと。
そのうえで、梅梅だったら鳳仙(猫猫の母)の部屋を掃除しているときはどんな気持ちなんだろう、みたいに、どういう風に未来を目指せば良いのかをキャラクター毎に相談してシーンを作っていきました。第1話はキャラクター紹介という側面もありましたが、ただ紹介するのではなく、この時点でのそれぞれの心境や関係性も改めて描けたら良いのかなと。
第2話(第26話)は明確です。第2期はこれまでの舞台だった後宮の外に出ていく話でもあるので、茘(リー)の国の外にも世界が広がっていくことが伝わるようにと。そして、ようやく第3話(第27話)で謎解きになりますね。本当におまたせしました。僕としてもようやくたどり着いたという気持ちでしたね(笑)。
──個人的に、第2期は音楽の力を感じるシーンが多いように感じます。
筆坂:第2話のキャラバンのシーンなんかはそうですよね。音楽チームは第1期から引き続き参加していただいているので、僕としても安心しておまかせしています。
──お話にもありましたが、異国が絡んでくるということで、これまでとはテイストの異なるキャラクターたちが登場しています。
筆坂:そうですね。茘の国の人のデザインにおいても、だいたいこのくらいの年代みたいな基本的なモチーフがあって。しかし、あくまでもファンタジー作品なので、リアルに見えたほうが良いのか、見えないほうが良いのか、という取捨選択をしています。
そして今回、話が外に広がることでまた同じことが起きていて。設定制作さん、背景さん、あるいは色彩設計さんといった、それぞれの担当部署の方々と相談しながら選択をしています。
スタッフ:監督はキャラバンのシーンの参考にするために、シルクロード展に行かれたそうですね。
筆坂:行きました。仙台でやっていると聞いて、これはみんなで見に行くしかないなと。それぞれ写真を撮ったり、メモをしたりしたんですけど、撮りすぎて容量が足りなくなってしまって(笑)。
──今後も楽しみにしています。ありがとうございました。
[文・MoA]