「騙されて日本で娼婦に」歌手を夢見た台湾人女性の生き様を実話ベースで描く壮絶ドラマ『娼生(しょうふ)』
国際映画祭で脚光を浴びた台湾映画『娼生』
鋭い題材で話題を呼んでいた台湾映画『娼生(しょうふ)』が、5月23日(金)よりシネマート新宿ほかにて全国順次公開中。まだ台湾で児童売春や人身売買が横行していた時代、娼館で働く人々の現実を描いた本作は第43回ハワイ国際映画祭でNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)、新人監督賞にノミネートされるなど脚光を浴びた。
郊外の村で育ったフォンは、歌手になる夢を叶えるため、祖母の反対を無視して台北へと向かう。しかし騙されて、娼婦として日本に売り飛ばされてしまう。
数年後、台湾に戻った彼女は、年老いた祖母が認知症を患っているのを発見する。罪悪感に苛まれ、フォンは家に戻らずに娼婦として仕事を再開。そして密かに仕送りをして贖罪に励み、しばらくはこの生活を続けることを決心する。
一方、フォンの弟ユーミンは警察官となり、台北でフォンを探していた。そして「売れっ子歌手の姉 」と会えると思っていたユーミンは、娼婦になった姉と再会する。止まった姉弟の”時”が、再び、動き出す――。
「見た目や表面的な情報だけで人を判断しないで」
本作の監督はロサンゼルスを拠点として活躍し、本作が初の長編作品となるブルース・チウ。過去作も国内外の映画祭で評価を受けているチウ監督は、なぜ売春禁止法制定前後の台湾を舞台に実話ベースの物語を描いたのだろうか?
この映画は、台湾において数少ない「性労働者の視点から語られる物語」の一つです。ただ彼女たちの経験を共有するだけでなく、その現実を照らし出したかった。真に理解することを通してのみ、私たちは偏見やレッテル貼りを越えることができます。性労働はひとつの側面に過ぎません。この物語は、性的指向、肌の色、民族、年齢、職業、社会階級などが自分とは異なる、すべての人に通じる話です。
多くの人は他者を理解しようとせず、自らの価値観や視点を押しつけて定義しようとします。性労働者は「汚れている」「堕落している」と見なされ、貧しい人は「努力が足りない」と責められます。「苦しいのは自業自得だ」と言う人もいます。殺人犯は救いようがなく、その家族も道徳的に責任を問われる。こうした偏見は至る所にあります。私は、周囲の多くの人が「理解しようとしない」という理由で他者を切り捨てているのを見てきました。この想像力の欠如が、憎しみと分断を生むのだと思います。
さらに監督は、「フォンの物語を通して、観客に“見た目や表面的な情報だけで人を判断しないで”と伝えたい」と訴える。過酷な状況にも自らの力で再び立ち上がり、ましてや同じような境遇の人々に救いの手を差し伸べる女性主人公には、「彼女たちの“強さ”を描きたかった」というチウ監督の想いが詰まっている。
「台湾ドラマの女神」ジーン・カオの体当たり演技
そんな主人公フォンを演じたのが、「台湾ドラマの女神」と呼ばれるジーン・カオ。日本でも大きな話題となった台湾ホラー映画『呪葬』などへの出演で知られるジーンが映画初主演を務め、セックスワーカーという役柄に体当たりで挑戦。プロデューサーを兼任し、さらに主題歌「鳳凰」の歌唱も担当している。
また、姉フォンを探す生き別れた弟としてダブル主演を務めたのは、金鐘賞受賞歴のあるホアン・グァンジー。主演最新作『Silent Sparks(英題)』が第75回ベルリン映画祭パノラマ部門に選出された、注目の若手演技派だ。
90年代の台湾をはじめ国内外の性産業に関するドキュメンタリーを観たという監督は、性サービスを提供する店も一部ある台湾の茶芸館などのリサーチを重ねた。さらに現役の性労働者へのインタビューも行ったが、多くの人が過去の経験を語ることに消極的だったそうで、「性労働者にとって、過去と向き合うことがどれほど難しいか、そして社会の中にある根深い偏見や差別がどれほど彼女たちを縛っているかを、この過程で実感しました」と、その経験も重要なリサーチの一部になったという。
『娼生(しょうふ)』は5月23日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開中