不登校息子は小5で大荒れのピークに!中学からは特別支援学級?悩んだ末決意した「私立中学受験」への挑戦
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
大暴れのピーク!魔の(?)小学5年生
小5になるとコチ丸は家で過ごすことが多くなっていたのですが、それでもたまに学校に行くと、何かしら事件を起こしては呼び出されました。私としては家にいてくれたほうが安心なくらいでしたが(笑)、コチ丸もどこかでは外と繋がっていなくてはという意識があったのか、完全に不登校になるということはなかったので、私もコチ丸の自由登校を尊重していました。
以前のコラムに書いた、卒業式をすっかり自分のものにしてしまった事件、学校で先生が集めた葉っぱに火をつけて起こしたボヤ騒ぎ、掃除をしないコチ丸に注意した女の子に怪我をさせたことなどはほぼこの頃に起こしたものです。
ボヤ騒ぎの時には「子どものいたずらでは済みませんよ」と学校から言われ、真剣に頭を悩ませました。なんと家でもお仏壇に置かれているマッチに火をつけて遊んでいて焦ったと祖父も証言しており(!)、当時は家中の火をつける物を隠しまくっていました。
女の子に怪我をさせたと聞いた時にはさすがにコチ丸を強く叱り、女の子のお家にも謝罪の電話をしてなんとか許していただけました。
私自身が逃げ出したくなるようなことが日々起こり、頭を下げまくることばかりでしたが、「どんな時でも馬鹿正直な姿をコチ丸に見せよう、そうしたらコチ丸には大事なことはいつか伝わる」と自分の中で決めていたのと、母子家庭だったので社会で通じる姿を父親代わりに見せていかなくてはという気持ちで乗り越えてこられました。
まさかの単三電池を丸呑み事件
小6のはじめに、コチ丸が「ドラムをやりたい」と言い出しました。音楽の先生に「打楽器の才能があるのでは?」と言われてその気になったようでした。(おそらく)根拠もなくちょっとした話の流れで言われただけのことだったのだと思いますが、私も若い頃にバンドをやっていて音楽が好きだったこともあり、本人が言い出したことならとドラムを習うことにしました。
忘れもしない、体験レッスンを申し込んでいた前々日の夜。コチ丸が不意に私に「電池って飲んだらどうなる?」と聞くので「いや、死ぬんじゃないの?」とテレビを見ながら安易に回答をしたところ、コチ丸が「電池飲んじゃった」と言い出すではないですかー(大汗)。それも単3電池、うっかり飲み込むには結構な大きさです。
慌てて緊急外来に車を走らせました。最初、医師ですら半信半疑で、「一応レントゲン撮ってみますけど……」という感じでしたが、レントゲンを撮ってみると体内にしっかりと電池が入っておりました。
急いで内視鏡で取り出す処置をとることになりましたが、その日は食後すぐだったこともあり、食べたもので喉を詰まらせる可能性もあるため、取り出しを断念し、入院することに。そこで丸2日飲まず食わずで胃が空っぽになった状態で再度内視鏡を試してみて、ダメだった時は開腹手術を行うことになりました。
体の中に電池が入っているなんて……とコチ丸の絶食期間中は生きた心地がしませんでした。それから2日間、状況が急変するということもなく、少しだけ落ち着きを取り戻してきたとき、「そういえばドラムの体験レッスンの日だった!」と思い出しました。電話でレッスン延期をお願いするはずが、なぜか私が体験レッスンを受けることになり、息子が病室で絶食生活に苦しんでいる中、私は自分が習う予定でもないドラムを叩くというカオスな体験をしました。
電池は2回目の内視鏡で無事に取ることができました。「ご飯食べられるよ、良かったね」と言った私に、麻酔が切れてまだ呂律が回らない中、コチ丸の第一声が「はくはい(白米)?」だったのを聞いて、よっぽどお腹が減っていたんだなと思いました(笑)。
コチ丸は小6になってもなんでも口に入れる癖があって、当時よく注意をしていたのですが聞く耳持たずでした……が、流石にこの件で口に物を入れることはなくなりました。ものすごいリスクを伴いましたが、やはり「身をもって知る」って大事なんだなとしみじみ思いました……。
また、この緊急事態に私になぜかドラムを叩かせてくれたちょっと天然(?)なドラムの先生は、コチ丸とウマがあい、コチ丸は高校進学で地元を離れるまでドラムを習い続けました。とても穏やかで、できないことを無理にやらせるようなことはしない先生で、「やりたいことをトコトンやらせる」というわが家の方針に近かったような気がします。良い先生に巡り会えたことに感謝です。
中学・高校生活で、ドラムはコチ丸の特技になり、武器になりました。バンドをやりたい時には大体ドラムが足りないため(笑)、重宝されているようです。ドラムを通して「誰かに必要とされること」に喜びを感じたようで、自信と自分の居場所を持つことができました。
私立中学を受験!決め手をくれた奇跡的な縁
同じく小6のはじめ頃、担任の先生との面談で「学習面もだいぶ遅れているし、授業も受けられないので中学からは特別支援学級に入ってほしい」と言われました。
そこから私のコチ丸の居場所探しが始まりました。私は、中学校の特別支援学級はコチ丸には合わないだろうと考えていました。そして、コチ丸は自分に合った場所に行けば必ず化けるはず、という根拠のない自信(笑)がありました。しかし、今の時代に果たしてそんな選択肢は存在するのか……?日々ネットで民間のフリースクールや学習施設などを探していました。
私はどれだけ費用がかかっても良いから、コチ丸がいつか高校や大学に行きたいと思った時にその道に戻れるよう、中学を卒業したという証明がもらえる学校が良いなと思っていました。私立中学校も早い段階から検討はしましたが、担任が言うように、学習面は小3くらいで止まっているので、なかなか難しいことも承知していました。
その中で見つけたのが不登校特例校(現在は「学びの多様化学校」と呼ばれています)に指定された、ある私立中学校でした。しかし初めて聞く「不登校特例校」という言葉や、私が知っている一般的な私立中学校とはどこか違う雰囲気が伝わってくるWebサイトを見て、「ここで良いのか?」という思いがぬぐえませんでした。
悩んでいたところに、私の会社のスタッフの知り合いで、小学校の元校長で不登校児の支援活動をされている方に偶然出会い、相談をさせていただく機会がありました。さらに偶然は続き、その方は、私が進学先として悩んでいた不登校特例校の校長先生とお知り合いでした。その方の後押しもあり、コチ丸と私はすぐに学校見学を申し込み、コチ丸も興味を持ったので毎月のように体験入学に通いました。
年末、コチ丸本人にも現状を正直に伝えました。
「学校の先生からは地元の中学校の特別支援学級への進学を勧められている」「中学受験は失敗する可能性もある」という話と、それぞれのメリットデメリット、そしてもし私立へ行くなら、ひとり親の家計にはとても苦しい選択だから、コチ丸も責任を持って通ってほしいということ……。
コチ丸に自覚を持ってほしくてそんなふうに伝えましたが、私の中では、もし合格して通ってみてダメだったとしても、それは受け止めようという覚悟もしていました。最終的にコチ丸は、中学受験を自分で選びました。
試験は、小4程度の国語・算数の学力テストと親子面談でした。コチ丸は市販のドリルを使って小4までの勉強はなんとか学び、面接の練習も行い、コロナが始まりつつあった年、希望した私立中学校に合格を決めました。
そして迎えた小学校の卒業式。コチ丸の通っていた小学校は進学する中学校の制服を着て卒業式に出るのですが、一人違う制服を着たコチ丸がいました。周りの友達と楽しそうに写真を撮っているコチ丸を見て、彼なりの距離感で、この小学校でも自分の居場所をつくって生活していたのだなと感じました。
大変な小学校時代でしたが、振り返ると頑張ったな、戦ったな(笑)、と思っています。コチ丸もまた、この時期があったからこそ、今自分がいる場所の大切さを知り、「もうあの頃には後戻りしない」と、学校に通い続ける強さを手に入れたのかもしれません。
執筆/あき
(監修:井上先生より)
小学校時代のコチ丸さんのさまざまなトラブルから、親御さんもかなり悩まれて、コチ丸さんにあった中学の進路を決断されたのだと思います。お聞かせいただいたエピソードから、学力的な部分だけでなく、コチ丸さんの得意なこと(ドラムなど)があったことも、本人の自信や集団の中での積極性、学校に通い続ける強さなどに影響したのだと感じました。子育ての中では子どもの苦手なことについ注目しがちですが、あきさんが意識されていたように、強みの部分を伸ばしていくことが、良い結果に繋がっているように思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。