不登校だった息子が中学受験!「学びの多様化学校」で好きと自信を伸ばした結果…
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
縁がないと思っていた不登校息子に突然やってきた「中学受験」!
コチ丸は、小3の時にASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)と診断されました。当時の先生方には発達障害の特性についてあまり理解されていなかったこともあって、コチ丸は徐々に学校に行かなくなり、小5になる頃にはほぼ不登校になりました。
そんなコチ丸が私立中学の「学びの多様化学校」受験を決めたのは、小6の夏休み前後だったと思います。中学以降の居場所に悩む中で見つけた学校でしたが、勉強が好きでも得意でもない(笑)コチ丸が、「中学受験」を思わぬ形で経験することになりました。
受験を決意してからは、学校にいる自分を小学校のうちからイメージしてくれたらいいなと考え、体験入学には毎回通いました。試験は小4レベルの算数と国語の筆記テスト、親子別々での面談に加え、体験入学での様子を先生方がチェックした結果などを総合して合否が決まる感じでした。
以前のコラムでも書いたように、コチ丸はワーキングメモリが低く、板書ができない・漢字は全く書けない・算数も九九で止まっている……という状況だったのですが、受験をすると決めてからは、市販の問題集にも真剣に取り組んでいました。
とはいえ、相変わらずコチ丸の気力が持つ時間は限られており、私からしたら「受験勉強ってこんな短くていいんだっけ(大汗)?」と心配になるような短時間でしたが……。それでもまぁ合格したので結果オーライということで……。
ちなみに、コチ丸の通った中学校は、学費は年間70万円ほど。それとは別に課外授業などで細かいお金がかかったり、田舎から通学していたため交通費もそこそこかかりました(涙)。
小学校では難しいと言われた支援も、学びの多様化学校なら「通常仕様」なことがたくさん!
当時、小学校では使うことを許してもらえなかったタブレットも、学びの多様化学校では入学当初から当たり前のように1人1台ずつ配られました。
ちょうどコロナ禍で、公立の小中学校がタブレットを普及させる対応に追われている中、コチ丸の中学校はすでにタブレットを使った授業を取り入れていたため、オンライン授業への移行もスムーズでした。さらにコロナ禍が終わった後も、学校に行きたくない日にはオンラインで授業を受けることができ、欠席にもならなかったのでとてもありがたかったです。
また、ノートとタブレットの両方が使えたため、コチ丸もタブレットなら難なく使え、提出物も出せるようになってきました。提出物が出せるようになると、点数や成績として評価がつき始めるので、本人もやれることはやろうと思うようになるのか、授業も得意な教科であれば受けられるようになりました。出席日数も少しずつ増えていき、テストも点数が上がってくるので、小学校に比べると多少は(笑)勉強もするようになってきました。
小学校の頃は「こうしたら学校生活がうまくいくんじゃないか」という案を私が学校に出しても、「ほかの子と違うことはさせられない」とことごとく断られてきましたが、学びの多様化学校で、自分の苦手(コチ丸の場合は板書)が1つ解消されたところから、まるでからまった糸が解けるように、ほかの苦手だったこと、やらなかったこと、やれなかったことも取り組めるようになってきました。
私もこのタイミングでコチ丸のモチベーションを落としてはいけないと、一般的に良いか悪いかは別として(笑)、「ここまで頑張ったらこれを買ってあげる」という、成果報酬型のご褒美作戦に打って出ました。これが功を奏し、点数も上がる・願いは叶うと、コチ丸にとっては幸せの相乗効果がさらに成果を伸ばしました。
みんなと同じ型にハマらなくてもOK!好きなことをとことん極められる環境がどんどん自信に!
学びの多様化学校の授業は、教科書に必ずしも沿った内容ではなく、その子の好きなことを見つけ出して、徹底的にやらせてくれるというものでした。
例えば、社会の授業で「自分の好きな歴史について、なんでも良いから調べて新聞にしてきなさい」という課題が出された時、戦艦が大好きなコチ丸は、紙にびっちりと細かく戦艦について調べたことを書いていて驚かされました。「文字……書けるやん」と内心呟いてしまいました(笑)。
そう、好きなら集中して(し過ぎて?)嫌いな文字も書けるんだ、ということを親の私もこの時まで知らなかったのですが、多分コチ丸本人も初めて気がついたと思います。
ほかにも特徴的だったのは、中学でも「ゼミ」があったことでした。コチ丸は模型をつくるゼミに入り、部屋は月2回×3年間のゼミでつくった戦艦の模型で埋め尽くされていました(笑)。そこからジオラマづくりにハマりましたが、リアルな風景をつくるのにはなかなか技術が必要だったようで、いくつも失敗しながら、文化祭に出す作品を根気よくつくり続けていました。
部活では軽音部に入り、先輩たちとセッションするためにドラムの難しい技を1人でスタジオを借りて練習したり……。今振り返ると、模型・ドラム・PCゲームにアニメに漫画、歴史の本……中学の時のコチ丸の毎日は大好きなもので埋め尽くされていたなぁと思います。
反面、悩んだのはその後の進学に向けての学習でした。以前にも書かせていただいたのですが、学びの多様化学校は、何らかの理由で不登校になったお子さんたちを対象とした学校なので、一般的な公立中学と比べると、求められる学習の内容も量も、緩やかに設定されています。教科書に沿って授業を行わない教科もあるので、高校・大学進学を希望する場合には、受験に向けて家での個人学習や塾に通うことは必要になってきます(わが家はほとんどやりませんでしたが……)。
ただ、この「好きなことをトコトン極めることができる」環境で、コチ丸は間違いなく大きく成長しました。好きなことを続ける中で、自分の理想に到達するためには「越えないといけない苦手なことと向き合う」とか「今の自分より少し上のレベルの場所に行く」必要があって、それを真正面から超えるのか、違う方法を探すのか……自分から模索して行う方法を教え、チャンスをつくってくれたのが学びの多様化学校だったと思います。
小学校では積むことができなかった成功体験を、学びの多様化学校ではどんどん積み上げることができ、自信をつけたコチ丸はメンタルが安定してきたのが目に見えて分かるほどでした。当時はまだ数少なかった学びの多様化学校を選択したことは、不安もありつつの決断でしたが、私たち親子にとってはいい意味で大きな転換点となりました。
執筆/あき
※このエピソードは2020年当時の体験を基にしています
(監修:初川先生より)
コチ丸くんが中学校で学びの多様化学校に通った際の変化や感想等のシェアをありがとうございます。学びの多様化学校は今、私立学校のみならず、公立でも増えてきているので、検討しているご家庭も多いことと思います。
コチ丸くんが学びの多様化学校に在籍していたのはちょうどコロナ禍で、また私立の学校であったということは今回のシェアを読む際に念頭に置きたいところではあります。コロナ禍を経て、公立小中学校でもタブレット配布がなされたことや、ゼミ形式であったり、部活動であったり、学びの多様化学校全般の特徴というよりも、その学校の特徴である面もあると思います。ただ、何であれ、コチ丸くんにとって、“学びやすい学び方での学習が提供・保障された”ことはとても良かったと感じます。書字に苦手があると、科目を超えて学習全般に苦手意識を持つことが多かろうと思いますが、そのあたりをタブレット使用が許可され、書かずともOK(打つのでOK)という枠組みになったことで、単元の内容に注力できたこと、あるいは、学び方の時点で心を折られるような事態が減り、安心して過ごすことができたこと。そうしたことがコチ丸くんにとって励み・弾みとなったことと思います。あきさんがそのタイミングで“ご褒美”を設定されたのも、ちょうどよかったように思います(動き出していないものに対してご褒美を設定して動き出すところからサポートするよりも、動き出しているものに弾みをつけるほうがご褒美が奏功しやすい面があっただろうと想像します)。
戦艦好きのコチ丸くんが手書きの新聞を作成して驚いた話がありましたが、こうした話は書字の苦手さのある方々からよくうかがうことがあります。好きなことなら苦手な書字が気にならなかった。あるいは、それまでに本人の苦手さが受け入れられていると感じる状況があると苦手なことにも取り組めた等。そういう意味で、書字は苦手だから、もう今後一切書かせないとしてしまうのはやや早計で、その時々の本人のコンディション・成長や周りとの関係性によってもそのあたりが変わってくることがあるのは周囲の大人の皆さまにはぜひ頭の片隅に置いておいてほしいと感じます。
コロナが5類化されたことに伴い、オンライン授業の扱いも校種(小学校か中学校か)、各学校の方針や自治体によってもだいぶさまざまになったように感じますが、学び方の多様化学校ではそのあたりも寛容な場合が多いように感じます。
コチ丸くんにとって、学び方の多様化学校での3年間が意欲的に挑戦したくなる環境で、かつ、安心できる環境であったこと。それによって「好きでも得意でもない」学習もぐんと成長したこと。何よりだと感じました。充実した3年間だったのですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。