『デザインフェスタギャラリー原宿』には何がある? デザフェスと魂を同じくする、創造と発見のゆりかご
デザインフェスタギャラリー、略してDFG
原宿を歩いているとどうしようもなく目を引かれる、ペイント感溢れるカラフルな建物。アパートのような、学校の校舎のような、どこか懐かしい佇まい。それがデザインフェスタギャラリー(以下DFG)だ。ギャラリーってことはアートが置いてあるのかな? だけど中がどうなっているかよく分からないし、怪しいかもしれない? ……でも気になる! そんな戸惑いと期待でハートを揺らすあなたへ、この記事ではDFGがどんなギャラリーなのかをレポートする。
DFGはデザインフェスタ有限会社が1998年にオープンしたレンタルギャラリーで、もともと集合住宅だった3階建ての「EAST」「WEST」の2棟から成る。さらに、その間にはグループ会社が運営する「DFカフェ(ガーデン、スタンド&テラス)」、「さくら亭(アートなお好み焼き屋さん)」があり、ふたつの棟を繋ぐ架け橋のようになっている。
デザインフェスタ ギャラリー原宿には2つのカフェが併設されており、都心ではなかなか感じれられない自然に囲まれた癒しの空間を楽しむことができる。「DFカフェ(ガーデン)」は22時まで営業しており、夜はバーに様変わり。仕事帰りに一息つくことも可能だ。
敷地内は来場者や在廊中のアーティストで賑わい、外国人観光客の姿も多い。神宮前3丁目のこの一角が、ちょっとしたアートスクエアのようだ。
まずはEASTへ潜入
ギャラリーのコンセプトは「表現している全ての人のための開かれた場所をつくる」。展示スペースは2棟合わせて70以上あり、大小の展示空間にジャンルレスな作品が並んでいる。
ここではオリジナル作品であれば国籍・年齢を問わず、プロ・アマの線引きも無い。それはとても気高い志だと思う。ともすると忘れそうになるが、確かに、本来それは誰にも決められることではない。強いていうなら自分だけがそう決められることなのである。
ギャラリーとは、一般的にはギャラリスト(美術商)が目利きしたアーティストの作品を展示して、作品が売れた暁には販売手数料をいくらか頂戴するものである。ところが、DFGは販売手数料も取らない。スペースのレンタル料のみで、アーティストが作品を自由に展示・販売できるようにしているのだ。スタッフさんに話を聞いてみると「こういうとアレですが、他のところと比べてレンタル料の設定もかなり手頃だと思います(笑)」とのこと。
そんなわけでこのDFGでは、すでに人気のあるアーティストが個展を開催することもあれば(そういうときは、しばしば長蛇の列ができるらしい)、美術学校の学生たちや、趣味でハンドメイド作品を販売する社会人、シニアのグループなどが、はじめの一歩として展覧会を開催することもある。さまざまな属性・ステージの表現者が、同じ屋根のもとでアートを並べあっているのだ。
取材時には、2階のふた部屋を使って多摩美術大学写真部による写真展が開催されていた。展示スペースは基本的にホワイトで統一されているが、ひとつだけブラックキューブもあるそう。デザフェスの「暗いブース」みたいである。
ピックアップ『神の住む山 大台ヶ原』
EAST1階で、はっとするような展示に遭遇! 仕事を忘れて吸い込まれてしまった。写真家・三橋直人の個展『神の住む山 大台ヶ原』だ。
ちょうど在廊中だった作家に話を聞くと、人生をかけて撮り続けると決めたという奈良県の山「大台ヶ原」について、溢れんばかりの知識と愛を語ってくれた。2020年に撮影のために山麓の小さな村に移住して以来、毎週山に入っては撮影を続けているという三橋氏。そのカメラが捉えた、光と自然の織りなす奇跡的な風景は、確かに神の存在を感じさせるようだ。
関東圏ではこれが初の個展とのこと。別件で上京した際にたまたまこのギャラリーを見つけ、原宿というアクセスの良さもあって、東京進出の第一歩としてここを選んだという。
ギャラリーのスタッフさんは「何か目当てがあって来場する方もいますが、それよりも“ここに行けば何か面白いものに出会えるかも”って来てくれるお客さんが多いような気がします」と語る。まさしく、こういう突然の出会いがあるからギャラリーのパトロールはやめられないのだ。帰路で早速SNSをフォロー。そっと応援しているアーティストが増えるというのは嬉しいものである。
こんなところにもアートが
来場の際には、トイレもぜひ見逃さないでほしい。緊張と弛緩がせめぎ合う閉ざされた空間で色彩に囲まれるのは、ある意味でいま流行りのイマーシブ(没入)体験だと思う。
今度はWESTに潜入
続いて、ピンクの外壁が可愛いWESTへ。エントランスのドアは常に開け放たれ、「FREE ENTRY」の文字が記されている。そう、実はDFGは全館入場無料なのだ。気軽に入るしかない!
WESTは比較的小ぶりなスペースが多く、展示エリアどうしの間も近い。デザフェスのブースを見て回っている感覚と似ていて、より気楽に回遊できるのが特徴だ。アート作品だけでなく、オリジナル雑貨の販売も盛んに行われていた。
蛇足かもしれないが、スペースに入るときに「こんにちは」、出るときには「ありがとう」でもなんでも、できるだけ在廊の人に声をかけるのがいいと思う。おそらくその人が作家である可能性が高いからである。出展者と来場者の直接的な交流ができるのもDFGの魅力のひとつ。表現したい人とそれを受け取りたい人の幸せな出会いの場なのだから、そこには微笑みがあって然るべきだと個人的には思う。
ラウンジへ行ってみよう!
WESTの3階部分は、ラウンジとデザインフェスタの運営事務局になっている。ラウンジは来場者や出展者が自由に利用できて、お茶もいただけるという憩いの場だ。
鮮やかなウォールペイントで覆われたラウンジ。卓上には自由に書けるメッセージ帳の「DFGノート」が用意されているので、ひと休みしながらコメントを残していってみては。すぐ隣が事務局なので、デザフェス出展に関する問い合わせなどもできるそう。
フリーでいただける東北産の野草茶(!)。野草を飲んだのは初めてだったけれど、意外とクセがなくスッキリした味だった。
変わっていくものと変わらないもの
そしてラウンジの片隅には、図書館風にアルバムが並べられている。およそ30年にわたるこれまでのデザインフェスタの記録写真が、昔懐かしいアルバムの形で残されているのだ。
アルバムをめくると、長きにわたる歴史が詰まっていた。よく見れば規模や人の服装などもちろん違うのだろうけど、たちのぼるテンションは今も昔もあまり変わっていないように思う。時代がどれだけ変わっても、「この手で何かをつくりたい」という作り手の衝動と、「コレは世界でたったひとり、私のために作られたものかもしれない……!」という受け手の興奮、その共鳴はきっといつまでも変わらずにあり続けるのだろう。
なお、ここ原宿だけでなく、パリにもギャラリーを構えているというから驚きだ。「Design Festa Gallery Paris」はノートルダム⼤聖堂やサント・シャペルがあるパリ発祥の地「シテ島」に位置し、徒歩10分圏内にルーヴル美術館など数多くの観光名所が⽴ち並ぶエリアにある。建物は19世紀に建てられた建築物の⼀部で、街路に⾯した⽴地にあるため多くの⼈の⽬に留まりやすいのが特徴なのだそう。日本のアーティストや企業が海外へ作品・商品を発信する場として活用できるとのこと、海外進出を考えているアーティストは、ぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。
終わらない祝祭
デザインフェスタは年に2度のお祭りだが、魂を同じくするここDFGは、つねに原宿で来場者を待っている。エントランスにいたスタッフさんは「年末年始以外はずっと毎日やってるので。仕事帰りの方がちょっと立ち寄れるように、時間も20時まで、長めにやってます」と嬉しそうに語ってくれた。
すべての表現者に発表のチャンスを提供する場所、そしてすべての来場者に未知との遭遇を届ける場所が都心のど真ん中にあって、いつでも両手を広げている。それはどれだけラッキーなことだろうか。せっかくのこの“アートの自由”は、前のめりに満喫しなければもったいない!
文=小杉 美香 写真=大橋 祐希、小杉 美香