「現代人は戦争についてあまりに無知ではないか」リドスコ監督が『グラディエーターII』を語る!3作目の構想も?
リドリー・スコットが『グラディエーターII』を語る!
第73回アカデミー賞作品賞受賞作『グラディエーター』(2000年)は、古代ローマを舞台にした剣闘士の凄絶を極めるアクション、そして主人公の劇的な運命で、多くの人の心を震わせた。リドリー・スコット監督の代表作のひとつとなり、早くから続編への期待の声が挙がっていたが、じつに24年ぶりにその期待に応える新作が完成した。
古代ローマの大観衆が見守るコロセウム(円形競技場)で、奴隷の立場へ追い落とされた最強の軍人マキシマスが、剣闘士=グラディエーターとして英雄となった前作。今回の『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は、そのマキシマスの息子ルシアスが主人公となる。
アフリカ北部のヌミディアで大人になった彼が、捕虜としてローマへ連れて来られ、復讐心も胸にコロセウムに立つ。そこに皇帝の座を巡って、文字どおり血で血を洗うドラマも展開。2時間28分、全編がハイテンションで突き進む力作を、間もなく87歳になるリドリー・スコットが満を持して世に送り出した印象だ。
「つねに周囲から“いちばん好きな映画です”という声を聞いていた」
『グラディエーター』続編の構想は早くからあったが、一度は製作がストップ。当初の脚本では、マキシマスが天国へ行くという、やや非現実的な設定も含まれていたとされ、映画化に至らなかった。しかしリドリー自身は、新たなアイデアを模索していたことを次のように語る。
たしかにあの脚本はチャレンジングだった。しかしプロジェクトが止まって脚本を寝かせた2年間で、私の頭の中に新たな設定がひらめいたんだ。それは、マキシマスの息子が生きていて、皇帝の血族であることから命を狙われる危険があり、母親がその子を遠くへ逃すというもの。そこを起点に新たな脚本に取り組んだわけだ。
『グラディエーター』に関しては、つねに周囲から「いちばん好きな映画です」という声を聞いていたので「それなら続編をやれなくもない」と、ずっと心に留めていたのさ。
今回の主人公ルシアスを演じたのは、『aftersun/アフターサン』(2022年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた若き実力派のポール・メスカル。前作でマキシマスを演じたラッセル・クロウはアカデミー賞主演男優賞を受賞したが、そのラッセルに劣らないほどのカリスマ的な演技をみせている。父と息子という設定なので、声のトーンなど共通点も見出せるだろう。しかしリドリーは、そこまで2人が似ているとは感じなかったという。
ポールを抜擢したのは、その実力はもちろんだが、前作でルシアスの祖父にあたるマルクス・アウレリアスを演じたリチャード・ハリスの面影を感じたからだ。ラッセルもポールも舞台俳優としてスタートしたので、コロセウムのアリーナで大観衆に語りかける芝居がうまい。そこから似ていると感じる人もいるのだろうね。
ポール・メスカルのキャスティングについて、リドリーは「TVシリーズ『ふつうの人々』(2020年)で気に留めていた」と話すが、それ以前にパラマウントの幹部がロンドンの舞台「欲望という名の電車」に主演していたポールの肉体美に観客が熱狂しているのを目撃し、リドリーに推薦していたとプロデューサーのルーシー・フィッシャーは告白する。
「すべて撮ってから編集していたら2年はかかる。待ってられないね(笑)」
前作『グラディエーター』を観た人に強烈なインパクトを与えたのは、コロセウムでのマキシマスとトラの闘いだった。この続編では、さらに多くの野獣が剣闘士たちの相手として登場。度肝を抜くシーンが倍増したと言っていい。この新たな敵のセレクトも自分のアイデアだったとリドリーは語る。
もちろん脚本家との綿密な打ち合わせの結果だが、ヒヒ(サル)やサイ、サメのアイデアを出したのは私だ。これらの敵とどんな風に闘うのか。その映像化に自信があったからだ。私は自分で本格的なスケッチを描けるので、撮影前に分厚いストーリーボードを完成させる。それを各部門で共有することで、どんな映像にするべきかがスタッフすべてに浸透する。
ただし、俳優たちが撮影で本物の野獣と闘うわけではない。CGIも多用されているが、ルシアス役のポール・メスカルは演じるうえで、まったく苦労がなかったことを次のように振り返る。
ヒヒとのシーンでは、その動きを完璧にこなすスタントマンと実際に闘ったんです。サイは3Dプリンターで作ったかのような本物そっくりのモデルが使われ、しかもまばたきをする機能までありました。リドリーのそうした配慮によって、僕ら俳優は余計な想像力をはたらかせず、本能のままで動くことができた気がします。
イタリアのマルタ島に巨大なセットを建造し、古代ローマのコロセウムを再現するなど、スケール感は前作以上。アクションシーンも大量に注ぎ込まれ、撮影も長期間にわたったかと思いきや、プロデューサーのダグラス・ウィックは「撮影日数は約50日。リドリーは基本的に8台のカメラで一気に撮影するので、ものすごいスピードで進む」と打ち明ける。その意図についてリドリーは、このように説明する。
シーンによっては11台のカメラを使っている。アクションだけではなく会話のシーンもマルチカメラで撮る方が、俳優が自由に演じられるからだ。本作では本物の猿も使ったが、当然私の指示に従わないので、猿専用のカメラを4台用意して、あらゆる方向から追いかけさせた。
こうして撮った素材を撮影初日から編集者に渡し、毎週末につないだ映像を確認する。私の作品では撮影終了時に半分の編集が終わっているんじゃないかな。すべて撮ってから編集にかかっていたら、1本の映画に2年はかかるだろう。私は待ってられないね(笑)。
このスタイルは俳優にも好影響を与えているようで、双子皇帝の一人、カラカラ帝を演じたフレッド・ヘッキンジャーは、俳優として特別な感覚を味わったという。
リドリーは360度を取り囲むセットをデザインし、実際に作ってしまうんです。完成された世界で僕ら俳優は役に没入し、日常を生きているように演じられる。8台のカメラも演じていて気になりません。カメラマンが衣装のマントを被っていたり、エキストラに紛れているからです。ものすごいスピードで進む撮影は、俳優にも緊張感を与え、良い効果だと実感しました。
陰謀を企むマクリヌス役のデンゼル・ワシントンや、前作に続いて出演を果たしたルッシラ役のコニー・ニールセンは、セットのコロセウムの観客席からルシアスら剣闘士が闘う光景を実際に観ながら、演技をしていた。通常の映画では別撮りになるシーンも、このようにリドリーの現場は一気に撮り、俳優からリアルな反応を引き出すのだ。
「現代人のほとんどは戦争について、あまりに無知ではないか?」
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は、タイトルにあるようにルシアスがローマ市民の英雄へと登り詰めるドラマを軸に、双子皇帝が横暴をはたらく政治、他国への侵略など、ローマ帝国末期の混乱が生々しく迫ってくる。2024年の世界と重ねながら観てしまう人もいるかもしれないが、そこをリドリー・スコット監督は意識したのだろうか?
私は歴史モノが大好きだ。衣装や武器を再現することに喜びを感じるし、「人間は歴史から学ばない」というテーマを込められるからだ。私は第二次世界大戦勃発前に生まれ、戦後の1947年と1952年は、陸軍の高官だった父の仕事でドイツに暮らした。父は敗戦国のドイツ復興事業、いわゆるマーシャル・プランに関わっていたんだ。
そんな父を通して私は戦争を少しばかり学んだが、現代人のほとんどは戦争についてあまりに無知ではないか? だから宗教や、あえて名前は出さないが、独裁者が今でも戦争の火付け役になってしまうのだろう。
ルッシラ役のコニー・ニールセンは、今回のオファーがあった際に「リドリーの年齢を考えたら、おそらく実現は不可能だろう」と感じたという。しかし撮影前にリドリーと面会した彼女は、「24年前の1作目の時と、リドリーは話し方、立ち姿、歩く様子もまったく変わっていなかった。それを目にして、私もやらなければ」と正式にオファーを受けたそうだ。
この2作目に満足したリドリー・スコットは、3作目の構想もあることを公言した。今後も他の監督作の予定がぎっしり詰まっているが、『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』を観れば、映画作家の引退はまだ当分先だと実感するはずで、3作目への期待も高まってしまう!
取材・文:斉藤博昭
『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』は2024年11月15日(金)より全国公開