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立石俊樹×藤岡真威人「大切な人のために」その想いは今を生きる人たちにも響くはず――舞台『忠臣蔵』に描かれる一人ひとりの生き様

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左から 立石俊樹、藤岡真威人

俳優の上川隆也が大石内蔵助役で主演する舞台『忠臣蔵』が東京・明治座で2025年12月12日(金)~12月28日(日)に上演される。元禄時代に起きた史実をもとにした名作。赤穂浪士たちが繰り広げる義と葛藤と信念の物語で、浅野内匠頭と、小林平八郎の2役を務める俳優の立石俊樹と、堀部安兵衛を演じる俳優の藤岡真威人に見どころを聞いた。

――『忠臣蔵』は仇討ちを題材に映画やドラマ、歌舞伎などで繰り返し作品化されている名作です。出演依頼を受けた時の印象からお聞かせいただけますか。

立石:出演のお話しをいただいた時は、「忠臣蔵か!」と衝撃を受けました。内容につい詳しく学ぼうと、今年3月に歌舞伎座で上演された「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」に足を運びました。作品を見て改めて伝統的な何百年も語り継がれている作品に出演できるということで、とても光栄だと思いました。

――歌舞伎をご覧になっていかがでしたか。

立石:セリフの言い回しや、歌舞伎ならではの表現は僕らがやっているものとはまた少し違うことがありましたが、その表現の差を楽しむことができました。あと、幕間でお客さんがお弁当を買って客席で食べるじゃないですか。僕もそれを見て「ちょっとやってみよう」と一緒に食べたりしました。歌舞伎ならではの文化もすごく素敵だなと思いながら、楽しませてもらいました。

立石俊樹

――藤岡さんも出演依頼を受けた時の印象からお聞かせ下さい。

藤岡:『忠臣蔵』はこれまで色んな形で歴史的題材として上演されてきた作品。そういう作品に自分が出させていただけるなんて!と驚きました。しかも堀部安兵衛役と聞いて、これは挑戦的だなと感じました。

――挑戦ですか。

藤岡:はい。今の自分よりも、ちょっと背伸びしないとできないような役なので、すごくありがたいなと思いつつ、気を引き締めて取り組まないとできないなっていう覚悟がありました。本を買って内容を学び、その後に台本を読ませていただきました。台本に関しては、初めて読んだ時にすごく感動しました。

――どのような部分に感動されたのでしょうか。

藤岡:舞台は上演時間が多分3時間くらいだと思うんですけど、本を読んだとき、どう濃縮させるんだろうって気になっていたんです。でも台本を読んだら、本当に1人1人のキャラクターや、それぞれの思いがしっかり描かれていて、最後には心を1つにして吉良上野介を討つっていう。そこに47人が突き進んでいく姿にすごく感動しました。これをやるからには、自分も堀部安兵衛としてしっかり生き様を見せなくてはと思いました。全員がそれぞれの道を示していけば、見ている人の心に届くものになると思いました。

――この取材の時点で、幕開けまで3週間を切っていますね。お稽古はどのぐらいまで進んでいるのでしょうか。

藤岡:一応、粗通しなどができる段階になっています。全体の流れや形がついたところです。

――藤岡さんから見て、お稽古場での立石さんはどのように見えていますか。

藤岡:浅野内匠頭としては、いつも高貴なオーラを漂わせています。僕が演じる堀部安兵衛から見たら主君ですよね。舞台の上で一緒に立っていると「ついて行きたい!」と思う佇まいを常に出してくださるから、僕らもそれに「ついていこう!」と自然と思える、そういう頼もしさを感じています。

――立石さんは堀部安兵衛役の藤岡さんの姿をどのように感じていますか。

立石:浅野内匠頭のセリフにもあるのですが、「どの家臣も宝」です。誰が欠けてもいけない浅野家だと思います。安兵衛はほかの家臣よりもクールだけど、忠義に厚い。だからこの安兵衛をしっかり守ってあげなきゃいけないという思いが常にあります。藤岡さんは殺陣もですけど、向かっていくマインドがすごくかっこいい。殺気を漂わせています。

――藤岡さんはご自宅の道場で、お父様(藤岡弘、氏)から本格的な刀の指導を受けていると聞きました。木刀や模造刀などさまざまな日本刀があるそうですね。

藤岡:はい。所作などは以前から父に教わっていました。今は稽古場に毎日来ているので、こちらで稽古をしています。どのように刀を持てば安兵衛らしいか、その佇まいについては常に鏡の前などで練習しています。あと結構前から、夜に広い空き地や河原に行って人目がないことを確認してから、ひたすら木刀を振ってました。

――人物を演じるのではなく、その人物になるために、日常から気を配っているのですね。

藤岡:そうですね。どう役作りしようかなって思った時に、やっぱり日常的に刀を持ち慣れている感覚が僕自身にないとダメだなと思って、稽古が始まる1カ月ぐらい前から時間を見つけては木刀を振るようにしていました。稽古場ではみんな着物ですし、帯を締めると同時に気も引き締めています。

藤岡真威人

――立石さんは浅野内匠頭と小林平八郎の2役を務められます。

立石:そうなんです。2役なので、その演じ分けをどうしようかということは常々考えています。今回演出を務める堤(幸彦)さんともお話しして、浅野内匠頭については野心のある人物像を目指しています。上野介に立ち向かっていく、時代を変えていくんだという強い信念を持って演じています。小林平八郎は吉良側の家臣なので吉良に対して絶対的な忠誠心を持っているので、そこは熱く演じたいと思っています。

――特に挑戦と感じている部分はありますか?

立石:僕は今回、初めて歌がないストレートプレイの舞台に出演します。しっかりとした時代劇なので新しい立石の表現を見せられるのかなと思っています。

――藤岡さんは、これは挑戦と思われている部分はありますか?

藤岡:僕は2つあります。1つは堀部安兵衛は剣豪なので内面的にしっかりとした軸がある。心に燃えるものがあり、信念は曲げない人物なんです。これまでは等身大の役をやらせていただくことが多かったので、少し背伸びをしないと届かない安兵衛のような役は初めて。だからファンの方には新しい僕の姿を楽しんでいただきたいです。2つ目は武士の役なので殺陣を見ていただきたい。吉良側の剣豪・清水一学(近藤頌利)と一騎討ちする場面は、剣の道を極めた2人がどのように意思を剣をぶつけ合うのか見ていただきたい。セリフなどで内面についても届けられるよう意識しています。

――大石内蔵助役は上川さん、吉良上野介役は高橋克典さんが務めます。藤原紀香さんなど魅力的な出演者が多くいますが、稽古場で印象的だったことを教えてください。

立石:僕が演じる浅野内匠頭は江戸城の松の廊下で吉良上野介に斬りかかる『松の廊下事件』を起こし、即日切腹を命じられます。その後、小林平八郎として舞台に戻るのですが、内匠頭から平八郎に変わる時、克典さんの方から僕に「ここからは仲間です!」と握手をしにきてくれたんです。2役の切り替えが難しいところではあるのですが、克典さんの目の奥にある光が、内匠頭と平八郎に向けるものとでは全然違うので、優しい光を感じると「いまは家臣だな」って思える。克典さんの目の奥にある光の動きの変化を感じながら演じるのが、毎回すごく楽しいです。

――役者魂を感じるエピソードですね。

立石:僕も内匠頭として吉良を見る時と、平八郎として自分の殿を見る時と全然違うのでそこはすごく面白いです。二者は両極端な立場にいますからね。

――藤岡さんはお稽古中に驚いたことなどはありましたか。

藤岡:上川さんも高橋さんも稽古中に毎回違うアドリブが入るので、ビックリしています。作品は「仇討ち」がテーマで、笑いが起こる要素は一切なく展開していくのですが、上川さんが酒に酔う場面があるんです。敵を欺くためにしている〝演技〟でもあるのですが、そこで毎回違うアプローチで酔った芝居を見せてくれていて、いつも笑いが起きています。さすがだなぁって感じます。

――『忠臣蔵』の魅力について、若い読者にも分かりやすいオススメポイントを教えていただけますか。

藤岡:そうですね。浅野内匠頭の無念を晴らそうと、僕ら家臣は悔しさや怒り、悲しみといった気持ちを1年半も抱えて吉良に向かっていくんです。1年半も耐えて、我慢し続けるってすごいことですし、その時間はすごく長く感じられたと思うんです。吉良を討つまでの間には色々なことがあるんですけど、最後に47人の武士がしっかり仇討ちをする。みんなで長い年月、気持ちを1つにして、仇討ちをするその日を絶対に迎えるっていう純粋なかっこよさ、心意気を見てほしいです。家臣たちにそんな風に思ってもらえる浅野内匠頭の存在、その関係性も素敵だと思います。

立石:敵討ちをしたら自分たちも切腹をして死ななくてはいけないのに、それが分かっていても1人の殿様のために行動するって今では想像しがたい部分もあるかもしれない。でも侍としてはそれが誉れ。同じ日本人として「そういう人物たちがいたんだ」「そういう史実があったんだ」ということを若い世代に知ってほしいです。僕自身は命を懸けて行動する姿については、とてもかっこいいなって思いました。当時の価値観を理解できない部分があっても、〝大切な人のために行動する〟という思いの部分からは響く部分があるんじゃないかな。この作品にはそういう力があると思っています。

――最後に舞台を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

立石:僕自身、出演が決まってから歌舞伎を観に行くなど今まで触れてこなかった文化に触れたり、当時の出来事を深く学ぶ時間を設けました。その経験を通じて僕自身感じるところがあったので、史実を知ることができて良かったと思っています。舞台は今回だけ、この座組ならではの世界が広がっています。この年末、そして年明けも劇場で僕らの『忠臣蔵』を観て、何かを感じてもらえたらうれしいです。お待ちしております!

藤岡:仇討ちをするという目的は同じでも、物語が展開していくにつれて一人一人の人間性が見えてくるのも、この作品の大きな魅力です。それぞれの生き様が丁寧に描かれつつ、最後は一つになる流れがとても美しい。物語を知らない人でも前のめりになってくれるようなものにしたいと思っているので楽しみにしていてほしいです!僕自身は今までで1番挑戦的な役。頑張りますので、一個人としても見守っていただけたら、すごくすごく嬉しいです!!!

取材・文=翡翠 撮影=熊谷仁男

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