親は知らない…子どものSNS「プライバシーがほぼない」理由とは?精神保健師・鴻巣麻里香さんインタビュー
子どものSNS・ネット利用、親はどう向き合う?「自分と他人を区別する心の境界線」であるバウンダリーをテーマに、学校などで講演活動をしている、精神保健福祉士・スクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さんにインタビュー。
【写真】精神保健師・スクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さん「いつまでもスマホを見てしまう」、「グループLINEの付き合いが大変」
悩みがつきない、スマホ・SNS・ネットとの適切な付き合い方。いったい、どうしたらよいのでしょう?
SNSでのコミュニケーションに悩む若い人や、思春期のお子さんを育てている親御さんに向けたアドバイスを、精神保健福祉士・スクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香(こうのす・まりか)さんに伺いました。
具体的な事例や、学校などで講演している内容をもとに、心の境界線「バウンダリー」を守ることについて教えていただきます。
(※バウンダリーとは、心理学や精神医療の分野で「自分と他者を区別する心の境界線」を意味する言葉)
悩みが尽きない、SNSでのコミュニケーション
友達や仲間うちでのやりとりに便利なのが、グループLINEやチャットです。
しかし、課題や悩みも尽きません。特に、子どもはコミュニケーション力が未完成。友達同士のやりとりで、時には無理をしすぎたり、遠慮をしすぎたり、とバランスがうまくとれないことも。
ましてや、お互いの顔が見えないネット上でのやりとりとなると、尚更にコミュニケーションが円滑に進まないケースもあります。
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Aさんは最近、学校の友達が参加しているグループLINEの通知がくると、いつも憂鬱でした。
「ねむい!」
「英語の宿題ってどこだっけ?」
「わかんない」
「教科書持って帰るの忘れたやばい」
「写真送ろうか?」
「助かる!ありがと」
「風呂入ってくるわ」
「今前髪切ってきたの」
「えー気になる!見せて!」
と、一度始まると取り止めもない会話は延々と続きます。
最初のころはやりとりが楽しく、常に返信し続けていたAさんですが、次第に、「今日はひとりで過ごしたいな」「宿題したいな」と思う日が増えていきました。
しかし、少しでも目を離すと新着通知がどんどんたまっていき、未読のメッセージがたっぷり。
通知を見るたびに、何の話をしているのか気になって、結局、溜まっているメッセージのやりとりを見続けることになります。そして気づけば、あっという間に寝る時間。自由時間はほとんどありません。
勇気を出して「ごめん、しばらくグループLINEを離れるわ」と言うべきなのか。でも友達と気まずくなったり、「ぼっち」になるのは嫌……。
そんなことを考えていたある夜、いつものようにグループLINEの通知音が鳴りました。
見れば、Bさんから「ひとりの時間を大事にしたいからグループLINEを抜けるね。せっかく誘ってくれたのにごめん。何かあるときはひとりずつちゃんと連絡するね」とメッセージが。次の瞬間、BさんはグループLINEを退出していました。
Aさんは驚いたのと同時に、こう思いました。
「私もこんなふうに自分を通せたらどんなに楽だろう。でも、グループLINEのおかげで元気になることもあるから、離れたくない気持ちもあるし……。退出するまではしたくない。ああ、バランスをとるって本当に難しい」
目立ちたくない。波風立てたくない。そんな不安の間で、いつまでも揺れることになりました。
「常に外部とつながっている」というストレス
Aさんのような「グループを抜けたいのに抜けられない」というケース。子どもはもちろん、大人も悩む人はいますよね。
SNSでのコミュニケーションは便利なはずなのに、なぜこんなにも悩みが尽きないのでしょうか?
SNSやスマートフォンとの付き合い方は、大人でも本当に難しいもの。
鴻巣さんは「オンライン上のコミュニケーションで子どもが苦しめられている状況は、『バウンダリー(心の境界線)の侵害』にあたります」と説明してくれました。
ネット上で、「いつでもどこでも」コミュニケーションを取ることのできる現代社会。家に帰っても、おかまいなしに通知が届きます。
このように、SNSなどを通じて、社会・集団から離れて一人になれるはずの家や部屋の中にまで「外のつながり」が踏み込んでくる環境は、自分と外界を区別する「バウンダリー」が保たれていない状態なのです。
「今の大人が子どものころは、SNSやスマートフォン、携帯電話が未発達でしたよね。だからこうした問題は起きませんでした。おうちに帰れば、学校や友達とはいったん切り離されて、自分一人ですごす時間ができる。こうやって、子ども同士の関係にもある程度バウンダリーは引かれていたのです」
「もちろん、昔も『家で友達と長電話する』などのコミュニケーションはありましたが、それも限定的なものでしたよね。しかし今は、SNSなどをとおして、家の中にいても、学校や外での人間関係が、常に、そして不用意に入ってきます」
「今の子どもたちの生活は、家・部屋というパーソナルな空間で、自分だけのために持つはずの時間に、外の関係が割り込んでくる状態なのです」
親世代が経験してこなかった困難さに、令和の子どもたちは直面しています。
鴻巣さんは「大人である私たちの子ども時代と違い、今の子どもたちは『ほぼプライバシーがない状態におかれている』ということを理解するのが大切」と話します。
▲SNSなどを通じて、常に外の世界と繫がっている生活は、ほぼプライバシーがない状態。それはバウンダリーが侵害されている状況だと解説する鴻巣さん。
「家に一人でいるのに、友達とのグループLINEがポンポン通知されている。その状況を大人が理解して、『線引き』をする必要があります。たとえ子どもたちにとって、その状況が当たり前になってしまっていたとしてもです」
「というのも、そういう状況を当然として続けていると、やがて自分のバウンダリーがあいまいになってしまうからです。プライバシーがないということは、バウンダリーが侵害されているということ。この状況を、大人がはっきりと理解し、子どもにもきちんと説明し、バウンダリーを引き直す必要があります」
「インスタライブやストーリーズでの発信なども、気をつけたいポイントです。一人でいても、SNSを通じて、わざわざ外に向かって発信する。それって、一人だけれどもひとりじゃない、という状況ですよね」「大人の見えないところで『子どものプライベートな時間』が、常に、外とのつながりのために消費されている。こういう状況を放っておくと、逸脱的な行動が起きやすくなり、トラブルに発展する場合もあります」
「たとえば、SNS上での発信から、住んでいる場所、誰といるのか、どこにいるのかなどの個人情報が流出しやすいのも問題です」
「トラブルが起きた時ときや、危険なことが起きたときにはじめて対処するのではなく、こうしたリスクがあることを、まずは大人がよく理解した上で、子どもに教え、線引きする必要があります」
大人の責任・悩みへの寄り添い方
こうした問題は、子どもたちだけでなく、社会や大人の問題でもあります。
「スマートフォンなどのツールを買い与えるのは大人です。大人が承認して、それらを家に持ち込んだ時点で、その子のプライバシーの境界線(バウンダリー)が揺らぐ。そのことを、大人はきちんと自覚をしておきましょう」「そういった理解も説明も無いままに買い与えたとして、いざ大きなトラブルが起きたときには子どもを責めたり𠮟ったりする、それは無責任なことです」
「子どもからすれば、スマホやSNSがバウンダリーに与えるリスクを事前に説明されることなく、困ったことが起きたときにいきなり責められたら納得いかないですよね。『もっとちゃんと知っていれば、違ったのかもしれないのに』と思うわけです」
スマートフォンやSNSに関しては、他のコミュニケーションと異なり「自分で決めて選ぶ」が通用しないものだと鴻巣さんは説明します。それって、どういうことでしょうか?
「“スマホを見なければいい”、“SNSをやめればいい”と単純に済む問題ではないのです。ネット上のコミュニケーションをめぐる仕組みは、ユーザーの興味や関心を常に惹きつけるようなシステムで出来ていますよね。『もうやめなければ』とわかっているのに、ついのめり込んで画面を見続けてしまう、ということもよく起きるわけです」「大人でさえ、それらと適切な距離を取ることは難しい。子どもなら尚更です。ですから、上手に距離をとるために、子どもにとって負荷の少ない、心地よいポジションを探す手伝い・ルール作りを、大人が率先して行ってほしいです」
鴻巣さんは、子どもたちに対して「自身のプライバシーを守る大切さ」を伝える活動もしています。
「講演会で『いつも誰かとつながり続けるのではなく、おうちで一人の時間を大事にするのは必要なこと』と、子どもたちに伝えています」「今の時代、スマホを持っていれば、ニュースやSNSで発信される情報や人とのつながりが絶えません。実はそのことを『苦しい』と感じていないだろうか? と自分の気持ちを確認することが大事。ときにはスマホから距離を置いて、一人で過ごす時間を作るよう、意識することが必要です」
「ですから、子どもたちには『大人になったときに、一人で過ごす時間をちゃんと自分のために使える人になってほしいな。それが心の健康を支えてくれるんだよ』と訴えています」「すると、『やっぱり一人の時間を大事にしたいと思います』、『自分にとって大事にしたかった時間やものが何か、ということに気づけました』など、ポジティブな反応が返ってくるんです。子どもたちは、自分の時間に他者が介入してきていることに、無意識のうちに疲れや苦しみを感じているのだと思います」
「大人は、『子どもが一人の時間を得ることができなくて、苦しんでいるかもしれない』と想像し、子どもたちをケアしてあげてほしいです。また、子どもだけでなく大人自身も、SNSやスマホとの向き合い方を意識して、自分のプライバシーが守られる時間を大切にしてほしいですね」
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「バウンダリー」について鴻巣麻里香さんに伺う連載は全3回。「心を守るバウンダリーの重要性」について伺った第1回に続き、今回の第2回では、「インターネットを通して常に他者や外の世界と繋がっている状況がバウンダリーに影響を与えていること」を解説いただきつつ、「大人自身がSNSやスマホとの向き合い方を理解し、そのリ適切な距離を子どもに伝えるのが大切」だと教えていただきました。
次回の、連載最後となる第3回では、性的同意の重要性、デートDVなど、深刻なバウンダリー侵害の問題について解説します。
撮影/安田光優