訪問介護において外国人ヘルパーは活躍できるのか?|事前に知っておきたい懸念点やメリットを紹介!
訪問介護における外国人介護人材の受入、事業所の視点で解説します!
訪問系サービスは、利用者と介護職員が1:1の状態で業務を行うことが基本となっているため、指導体制の整備や、権利保護等の観点から外国人介護人材の受け入れは認められていません。
一方で、国全体として介護職員の処遇改善や離職防止、生産性向上等の取り組みを行ってきたにもかかわらず、介護業界の人材不足は終わりが見えない状態です。なかでも、訪問介護員の不足感は年々高まっています。
そこで、厚生労働省は2024年6月の「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」で訪問介護事業所においても、外国人介護人材の受入を条件付きで認めるといった考えの中間まとめを提示しました。※
居宅に訪問し、利用者さんの生活を支える訪問介護は、今後もなくすことができない重要な事業であるため、人材不足は重要な課題です。一方で、文化や言語が異なる外国人介護人材に訪問介護を行ってもらいつつ、利用者さんに対しては安全面やケアの質を担保したまま提供しなければならないというのも難しさや不安の声があがっており、事業所の意見は賛否分かれています。
この記事では、実際に訪問介護事業に携わる牧野先生に、訪問介護事業所の視点で考えられるメリットや懸念点、外国人介護人材の受け入れに向けて行える準備事項を解説していただきます!
※出典:厚生労働省外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会 中間まとめ
執筆者/専門家
牧野 裕美
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/24
事業所もヘルパーも利用者も受け入れの準備、意識改革が必要
訪問系サービスにも外国人人材解禁が現実的になってきました。
厚生労働省は受け入れ事業所向けのガイドラインを整備しており、ガイドラインには、研修や一定期間のOJT、キャリアアップ計画の作成、ハラスメント対策、困りごとに対する相談体制やICTの活用等の環境作り要件などがあげられています。
ガイドラインの要件項目を見てみると、訪問介護事業所の管理者やサービス提供責任者(以下、サ責)が、すでに事業所の体制づくりとして行っていることと比較し、大きな違いは見られません。しかし、新しい訪問介護員(以下、ヘルパー)として迎える外国人介護人材は、文化や風習の違い、言語も異なることから、そもそも「伝える」ということに時間を要すると考えられるでしょう。
介護技術だけでなく、文化の違いも理解しあう必要がある
まず、研修について「介護技術」はもちろんですが、それ以前に、「郷に入れば郷に従え」から伝えることになります。もちろん、すべての文化を否定する必要はありませんが、利用者さんに安心していただくという点で、受け入れていただかなければならない文化もあります。特に、訪問介護では「時間」に対する価値観が重要です。
まず、訪問介護においては、居宅サービス計画書に位置づけられた「時間」を守ることから始まります。「時間」に関する価値観は文化の違いの影響を大きく受けます。また、移動時の交通手段や交通標識も日本とは異なる点があるため、注意喚起が必要です。さらに「守秘義務」として対応することのなかった近隣への気遣いも必要となります。
そして、何より訪問介護は、1対1で利用者さんのお城の中で支援を行うため、ヘルパーへの安心感や信頼度は、訪問をする利用者さんの心情にも大きく関わります。
例えば、 ヘルパーは買い物援助の際に利用者さんのお金を預かります。利用者さんが外国人ヘルパーに対し、不安を抱いたままだと、このフローがスムーズに進まない可能性があります。
サービス提供責任者の負担増加は懸念点
訪問介護に就業できる介護職は、有資格者に限られていて、専門性の高い介護業務とされています。また、1対1で制度に則った支援を行うことは、利用者さんと言語や文化が同じ日本人の介護職でも難しい仕事です。
外国人ヘルパーと利用者さんの信頼関係構築はかなりの時間が必要となります。そのため、独り立ちするまでの期間、サービス提供責任者の業務負担は計り知れないでしょう。
利用者さんだけでなく、地域住民の理解も重要となる
また、需要があるにもかかわらず、人材不足が要因で倒産する事業所も多くあります。このような社会において、訪問介護人材の確保は急務でありますが、外国人介護職を受け入れることが、その事業所がサービスを提供する地域に馴染むのかというのもどうしても検討課題として挙げられます。
特に、地域の繋がりが重要視される地方においては、今までの繋がりを大切にしたり、車での移動がある訪問介護において外国の方が増えることに対する不安などもあがることが予想できます。
利用者さんやそのご家族だけでなく、地域の住民などの心情も踏まえつつ、外国人介護人材を受け入れていくことが必要です。
外国の文化に触れられるというメリットもある
一方で、外国人介護人材を受け入れることは懸念点だけではありません。
若い利用者さんが、デイサービスの利用を開始した際に話していた忘れられない一言があります。外国人介護職とコミュニケーションをとったあと、「久しぶりに英語を話せたわ」と英語でのコミュニケーションに対して、喜びを感じていました。
また、筆者も外国人の身体介護を担当していたとき、片言の英語でしか会話ができなくても、利用者に寄り添ったサービスを考え提供することで思いが伝わることを経験しました。
このように言語や文化の違いは、利用者さんにとって、昔は外国に足を運び経験できていたことを再び体験することができたり、職員側も介護における思いの大切さを再認識できたりとメリットも多くあるのです。
最後に:利用者さんに最適な介護を届けることを軸に事業所全体で考えましょう!
ここまで、訪問介護における外国人介護職員の受入についてメリットや懸念点を解説してきました。
全体を通して、やはり「文化や言語の違い」とどう向き合うかが課題となってくるのです。その際に、相手の文化を完全否定する必要はありませんし、むしろ来ていただいている外国介護職員に対し敬意を払いたいところです。
しかし、外国人介護職員のことを受け止めすぎるがあまり、利用者さんが不安な気持ちになっては元も子もありません。最初は、日本人介護職員と2名体制でまわるようにし、利用者さんへの理解や信頼を高めていきましょう。短期的には負担が大きいかもしれませんが、長期的に見ると人材不足という課題解消に繋がり、1人1人の負担を減らすことに繋がるのです。
また、サービス提供責任者にのみ負担を強いるのではなく、現場の人も含めて事業所全体で受け入れの体制を整えていきましょう。
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