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看護師の人手不足の実態と対策。訪問看護領域の需要が増加するとともに、都市部での不足が深刻化

「みんなの介護」ニュース

阿部 洋輔

看護師の人手不足の現状

看護師不足の全体像と将来予測

医療の高度化や高齢化の進展により、看護師の需要は年々高まっています。厚生労働省の調査によると、2020年時点での看護職員の就業者数は173.4万人に達し、この30年間で約2倍に増加しました。

具体的な内訳を見ると、看護師が132万人と全体の約76%を占め、続いて准看護師が30.5万人(約18%)、保健師が6.7万人(約4%)、助産師が4.2万人(約2%)となっています。注目すべきは、2025年に向けた需要推計です。

厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」の試算では、2025年には180.1万人の看護職員が必要とされており、現状のままでは約6.7万人の需給ギャップが生じる見通しです。

この需給ギャップの背景には、以下のような構造的な要因があります。

医療の高度化による必要人員の増加 高度医療の普及により、より専門的な看護ケアが求められ、一人あたりの担当患者数を減らす必要性が出てきています 高齢化による医療ニーズの拡大 65歳以上人口の増加に伴い、慢性疾患や複数の疾患を抱える患者が増加し、看護需要が高まっています 看護師の職域拡大 病院や診療所に加え、在宅医療や介護施設など、看護師が必要とされる場が広がっています

特に深刻なのは、大都市圏における看護師不足です。次のセクションで詳しく見ていきますが、人口集中地域での医療需要の高まりに、看護師の供給が追いついていない状況が続いています。

都市部における看護師不足の実態

都市部における看護師不足は、全国平均を大きく上回る深刻な状況が続いています。2022年度の看護師の有効求人倍率は2.20倍と、全職種平均の1.19倍を大幅に上回っています。つまり、求職者1人に対して2.2件の求人があるという、極めて人手不足の状態が続いているのです。

特に深刻なのが首都圏と近畿圏です。厚生労働省の調査によると、神奈川県や大阪府、千葉県で特に顕著な人材不足が見られます。

都市部での看護師不足が深刻化する背景は、第一に医療機関の集中です。高度医療を提供する大規模病院や専門医療機関が都市部に集中しており、それに伴って看護師需要も高まっています。特に、三次救急医療機関や特定機能病院では、高度な医療に対応できる経験豊富な看護師の需要が極めて高くなっています。

第二に、都市部特有の労働環境の課題があります。通勤時間の長さや住居費の高騰といった都市部特有の生活コストが、看護師の就業選択に影響を与えています。また、都市部の医療機関では夜勤を含む変則勤務が多く、ワークライフバランスの確保が難しいという実態もあります。

さらに、医療機関の競争も激しくなっています。都市部では多くの医療機関が看護師の確保に努めており、その結果として看護師の流動性が高まり、安定的な人材確保が困難になっているのです。特に中小規模の医療機関では、大規模病院との待遇面での競争が難しく、慢性的な人手不足に陥りやすい状況となっています。

この状況に対し、都市部の医療機関では、給与水準の引き上げや福利厚生の充実、勤務シフトの柔軟化など、さまざまな対策を講じています。しかし、需要と供給の根本的なギャップは依然として解消されていない状況が続いています。

地域間格差の現状

看護師の需給状況は地域によって大きく異なり、その格差は年々顕在化しています。2020年の人口10万人当たりの看護職員数を見ると、全国平均が1,369人であるのに対し、地域によって大きな開きが生じています。特に注目すべきは、都市部と地方部での需給バランスの違いです。

看護師が充足している地域 佐賀県(充足率1.2228)宮崎県(充足率1.2213)島根県(充足率1.1701)看護師が不足している地域神奈川県(充足率0.8220)大阪府(充足率0.8297)千葉県(充足率0.8342)

この地域間格差が生じる背景には、構造的な要因があります。まず、医療機関の地域的な偏在です。高度医療を提供する大規模病院や専門医療機関が都市部に集中する一方で、地方では医療機関の統廃合が進んでいます。

これにより、都市部では看護師の需要が供給を上回り、地方では比較的安定した需給バランスが保たれているという状況が生まれています。

また、看護師の就業選択にも地域特性が影響を与えています。厚生労働省の調査によると、2020年時点で31の自治体では2025年の需要数を上回る供給が見込まれている一方で、16の自治体では深刻な不足が予測されています。

この背景には、若手看護師の都市部志向や、地方における看護師養成施設の定員充足率の低下といった要因があることが考えられます。

看護師の人手不足が深刻化する3つの領域と具体的な需要数

訪問看護における人材不足

訪問看護分野における看護師不足は、特に深刻な課題となっています。厚生労働省の調査によると、訪問看護に従事する看護職員数は2016年の4.7万人から2020年には6.8万人まで増加したものの、2025年には11.3万人の需要が見込まれており、現状のままでは人材不足が懸念されています。

この深刻な人材不足は、都道府県ナースセンターにおける求人倍率にも明確に表れています。訪問看護ステーションの求人倍率は3.22倍と、全領域の中で最も高い水準となっています。これは、一般病院の1.80倍、大規模病院の1.40倍と比較しても、突出して高い数値です。

なぜ、訪問看護分野でこれほどまでに人材不足が深刻化しているのでしょうか。主な要因として以下が挙げられます。

在宅医療ニーズの急増 高齢化の進展に伴い、在宅での医療・看護需要が急速に拡大しています。特に、医療依存度の高い在宅療養者の増加により、専門的な看護スキルを持つ人材への需要が高まっています。 訪問看護特有の業務特性 一人で利用者宅を訪問し、その場で適切な判断と対応が求められる責任の重さや、移動時間の負担、24時間対応の必要性など、訪問看護特有の業務負担が人材確保を困難にしています。 経験者ニーズの高さ 訪問看護では、病院等での臨床経験が重視されるため、即戦力となる経験豊富な看護師の採用競争が激化しています。

このような状況に対応するため、厚生労働省は「地域医療介護総合確保基金」を通じて、訪問看護の促進に向けた支援策を実施しています。具体的には、機能強化型訪問看護ステーションの設置支援や、訪問看護師の安全確保のためのセキュリティ対策支援など、環境整備を進めています。

また、新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、在宅医療の重要性が改めて認識され、訪問看護への期待は更に高まっています。この期待に応えるためにも、人材確保は喫緊の課題となっているのです。

病院における看護師不足の現状と対策

厚生労働省の統計によると、病院、有床診療所、精神病床、無床診療所を合わせた医療機関における看護職員数は2020年時点で136万人となっています。2025年の需要推計では136.5万人が必要とされており、不足が生じる可能性はありますが、訪問看護に比べると、充足に近いといえるでしょう。

都道府県ナースセンターの求人倍率を見ると、以下のような特徴的な傾向が見られます。

中小規模病院:求人倍率1.80倍と、大規模病院と比べて深刻な人材不足に直面 中規模病院:求人倍率1.40倍と、一定の人材確保の難しさが存在 大規模病院:求人倍率0.89倍と、比較的安定した採用環境を維持

このような状況に対し、厚生労働省の「地域医療介護総合確保基金」では、以下のような具体的な支援策が実施されています。

第一に、看護職員の勤務環境改善に向けた施設整備支援です。具体的には、ナースステーション、仮眠室、処置室、カンファレンスルーム等の拡張や新設により、働きやすい合理的な病棟づくりを推進しています。これにより、看護師の業務効率向上と身体的負担の軽減を図っています。

第二に、医療勤務環境改善支援センターの運営です。PDCAサイクルを活用した勤務環境改善に取り組む医療機関に対して、専門的な支援を提供しています。この支援には、労務管理面でのアドバイスから、具体的な改善策の提案まで含まれています。

第三に、ICTシステムの導入支援です。看護記録の電子化や業務の効率化を図るシステムの導入により、看護師の事務作業負担を軽減する取り組みが進められています。例えば、音声入力システムの導入や、タブレット端末を活用した記録システムの整備などが行われています。

これらの取り組みにより、一定の成果は出ているものの、依然として人材確保の課題は存在しています。特に、夜勤対応可能な看護師の確保や、専門性の高い分野での人材確保は、今後も継続的な課題となることが予想されます。

介護保険サービスにおける看護職員の需要増

介護保険サービスにおける看護職員の需要は、高齢化の進展とともに急速に拡大しています。厚生労働省の調査によると、介護保険サービス等に従事する看護職員数は2016年の15万人から2020年には17.3万人まで増加し、2025年には18.7万人まで需要が伸びると予測されています。

この需要増加の背景には、以下のような構造的な要因があります。

医療ニーズの高い要介護者の増加 在宅サービスの多様化・高度化 介護施設における医療的ケアの需要拡大 看取りケアへの対応強化の必要性

特に注目すべきは、介護保険サービスにおける看護職員の役割の変化です。従来の介護施設における健康管理や医療処置に加え、多職種連携のキーパーソンとしての役割や、認知症ケアにおける専門的な関与など、求められる機能が年々拡大しています。

このような状況に対し、介護保険サービス事業所での看護職員確保に向けた取り組みも進められています。例えば、都道府県ナースセンターのデータによると、介護老人福祉施設(特養)における看護職の求人倍率は1.13倍と倍率は低下してきているものの、採用は難しい状態が続いています。

看護師の人手不足解消に向けた具体的な取り組みと支援策

処遇改善とキャリアアップ支援

看護師の人手不足解消に向けた取り組みの中で、重要な柱となっているのが処遇改善とキャリアアップ支援です。

まず、処遇改善については、2022年10月から看護職員処遇改善評価料が導入され、2024年6月にはベースアップ評価料の導入も予定されています。これらの制度改革により、看護職員の基本給与の引き上げが進められています。

ほかには、地域医療介護総合確保基金による包括的な支援が実施されています。

まずは、看護師等養成所の施設・設備整備支援です。新築・増改築に係る施設整備や、開設に伴う初度設備整備、在宅看護自習室の新設に係る備品購入など、教育環境の整備を積極的に支援しています。

そして、看護師等養成所における教育内容の向上を図るための体制整備です。専任教員の配置や、実習経費など、看護師等養成所の運営に対する支援を行っています。

新人看護職員への支援も行っていきます。新人看護職員やその指導者向けの研修会・情報交換会の開催、中高生等に対する看護職の魅力PRや進路相談、さらには卒業後に県内医療機関や看護職員不足地域の医療機関で就業する看護学生への修学資金の貸与なども含まれます。

潜在看護師の復職支援策

看護師不足の解消に向けて、約69.5万人とされる潜在看護師の復職支援は重要な施策となっています。この支援の中心となっているのが、都道府県ナースセンターです。

ナースセンターでは無料職業紹介事業として、求職者と医療機関のマッチング、就職相談、職場見学の調整などを行うほか、最新の医療技術情報、勤務条件相談、職場環境に関する情報提供なども行っています。

看護技術の再習得支援、最新医療機器の操作研修といった研修プログラムの提供もあり、ナースセンターの職業紹介による就業者数は増加傾向にあります。

さらに、2024年度からは「デジタル改革関連法を踏まえた看護職の人材活用システム」の運用開始が予定されており、マイナポータルを活用したキャリア情報の一元管理や、より効率的なマッチングが期待されています。

働き方改革による定着促進

看護師の離職防止と定着促進に向けて、働き方改革を通じた勤務環境の改善が進められています。

事業者はまず、勤務形態の柔軟化も検討してみてください。短時間正規雇用など多様な勤務形態の導入や、総合相談窓口の設置、さらには看護業務の効率化や職場風土改善のための研修などが重要です。

これらの取り組みを支える仕組みとして、都道府県医療勤務環境改善支援センターの存在も重要です。センターでは以下のような支援を展開しています:

ICTシステムの導入支援 業務省力化・効率化に資するシステムの導入など 専門家による支援 専門アドバイザーによる助言指導、PDCAサイクルを活用した勤務環境改善の支援 院内保育所支援 保育所の整備・運営など、働きやすさ確保のための環境整備支援

これらの取り組みにより、看護職員の定着率向上と職場環境の改善が図られています。今後は、さらなる処遇改善や業務効率化を通じて、より魅力的な職場づくりが進められていく予定です。

看護師の人手不足は、医療提供体制の維持に関わる重要な課題です。特に、訪問看護分野における4.5万人の需要増や、都市部における深刻な人材不足など、領域や地域による偏在も顕在化しています。

しかし、地域医療介護総合確保基金を活用した包括的な支援策や、デジタル化による業務効率化、さらには潜在看護師の復職支援など、さまざまな取り組みが着実に進められています。

2025年に向けて看護職員の需要は更に高まることが予想されますが、これらの施策を効果的に組み合わせることで、持続可能な医療提供体制の構築が期待されています。

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