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書き写した企業の数は2000社超え。四季報写経ウーマンに学ぶ「インプットの鉄則」

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私たちは日頃の仕事で、議事録やプレゼン資料、体制図をはじめ、さまざまな「資料」と出会います。そうした資料を読み込み、深い気づきを得ることは、仕事の質を上げるために欠かせません。

一方で、読み込み、つまりインプットの効果を最大化するためには、適切な技術や視点が必要です。

そして、こうしたインプット力を伸ばすのに効果的とされているのが、『会社四季報(以下、四季報)』の内容をひたすら書き写していく「四季報写経」という営みです。

四季報写経を通じて、どのようなインプットスキルが磨かれるのでしょうか。

今回は、2000社以上の四季報写経を達成した通称「四季報写経ウーマン」さんに、四季報写経の魅力とともに、広くビジネス資料のインプット手法を教えていただきました。

四季報写経ウーマンさん。大学生。「全上場企業のコンプリート」を目指して、日々四季報写経に励んでいる。四季報写経の方法論を伝えるコンサルティング会社、(株)四季報写経を起業し、現在は代表取締役。起業したい人を支援するコミュニティ「爆速起業ラボ」を2025年にリリース。

ビジネスアイデアが湧き出てくる。四季報書き写しの「驚くべきメリット」

──四季報は知っていても、「四季報写経」は耳馴染みがない人も多いように思います。具体的にどのようなアクションなのでしょうか。

四季報写経ウーマン(以下、ウーマン):四季報に掲載されている各企業の財務情報・事業情報をテンプレートに沿ってExcelに転記することです。書き写すところが写経と似ているので、分かりやすく“四季報写経”と表現しています。

《画像:「写経」した四季報の一部。「上場年」「時価総額」「連結事業」など、約25項目の情報を埋めていく》

──そもそも、四季報を書き写す目的は何なのでしょうか。

ウーマン:企業の成り立ちや事業内容、ビジネスモデルの知識を深めることです。ビジネスパーソンの方々とスムーズに会話できるだけでなく、社内・外を問わず、自分が何かしらの事業やビジネスを始める際に「アイデアの幅」が広がります

私自身もそうでしたが、日常生活においてビジネスモデルのバリエーションを知る機会はそう多くありません。「モノを売ってその代金を支払ってもらう」しか思いつかない方も少なくないと思います。

でも、実際はもっと多様です。例えば、無料で閲覧できるメディアはその集客力を武器にスポンサー企業の広告費で稼いでいたりするし、プリンターは本体価格を下げる代わりに専用のインクを販売して(ユーザーがプリンターを使い続ける限り)継続的に売上が立つ仕組みを作っていたりします。

私の場合、ひとつの製品の背後に数多くのプレーヤーがいることが見えてきました。例えば、iPhoneにしても、実に多種多様な部品メーカーが関わり、つくられています。そういった、普段意識しない企業の存在を知ることでビジネスに対する解像度が上がっていきます

──なるほど。四季報を読むと、新規事業や副業のアイデアを考えるのにも役立ちそうですね。

ウーマン:そう思います。実際、清掃会社を経営されていた方が、四季報写経に取り組まれるなかで、低価格なフィットネスジムの利益率の高さを知って、新事業として立ち上げた例があります。低価格ジムは定期的な清掃さえすれば無人運営できるので、運営コストがおさえられるんですね。ということは、清掃事業とシナジーがあるわけです。

──実にクレバーなひらめきですね。ビジネスモデルを思いつくうえで、まずはビジネス書を探して読みがちですが、四季報写経をやってみるのも有効な気がしました。

ウーマン:書籍は、知名度の高い企業や分かりやすい事例に限定されてしまう側面があります。その点、四季報は上場していても知名度の低いBtoB企業の情報が網羅されているので、書籍では出会えない企業のビジネスアイデアと出会える可能性があります。この意外性がひらめきに結びつきます。

それに、書籍やIR資料と比べて情報の内容や掲載フォーマットが固定されているので書き写しやすいのも利点です。

大事なのは記憶じゃなく「仮説を立てる」こと。四季報写経の本質とは

──先ほど、写経することでビジネスアイデアをひらめきやすくなる、とおっしゃっていましたが、であれば写経の本質は「企業の情報をただひたすら記憶する」というよりは「ビジネスアイデアを考える」ことにあったりするのですか?

ウーマン:おっしゃる通りです。写経では、個々の数字や情報の背景についての「仮説」を立てることが何より大事です。書き写す過程で「なぜ売上高が伸びているのか」「なぜ利益率が下がっているのか」と積極的に疑問を出すようにして、IR資料をさらに調べたり、生成AIを活用したりして深掘りしながら仮説に落とし込んでいきます。

そもそも四季報写経は、大量のインプットを通じて仮説を立てるためのアクションです。

四季報写経を最初に提唱されていたビジネスプロデューサーの山川隆義さんが、以前「大量のインプットからしか仮説は生まれない」「大量のインプットに最適な媒体が四季報だ」とおっしゃっていて、その考え方に強く影響を受けました。

実際、山川さんも若い頃、四季報写経を通して仮説の精度を高め、どんどんビジネスアイデアを作っておられたようです。

《画像:取材用に四季報の紙版を持参いただいたが、実際に「写経」で使っているのはオンライン版( https://shikiho.toyokeizai.net/ )だそう。「オンライン版は紙幅の制限を受けないので、紙版より詳しい情報が載っているんです」(四季報写経ウーマンさん)。》

──仮説を立てるためにはインプットが必要ということですね。

ウーマン:はい。生成AIも同じですが、情報をインプットすればするほど分析や仮説の精度が上がっていきますし、逆にインプットしないままでは、いくら分析のフレームワークを使ってもオリジナルな仮説やアイデアは浮かんできません。

──英語を覚えるには文法よりもまずは単語を覚えよう、という教訓に近いところがありそうですね。とはいえ、四季報を書き写すだけで大量の情報をインプットできるものなのでしょうか。

ウーマン:もちろん、一度写経しただけですべてを覚えられるわけではありません。新聞や雑誌などで関連企業の情報に触れるたびに、もう一度四季報を見返したり、コミュニティでアウトプットしたりすることで、知識を定着させていきます。

私が運営する四季報写経のコミュニティには、現在100人くらいのメンバーが参加してくれていて、そこでは毎日、四季報写経から得られた気づきがアウトプットされたり、誰かの投稿に反応が集まったりしています。私自身、そうやってアウトプットした会社の情報は、アウトプットしていない会社に比べて10倍くらい覚えている実感があります。

知っている人と知らない人では大きな差が……ビジネス資料のインプットに欠かせない「3つの視点」

──ここからは、四季報写経で培われるスキルや視点がビジネス資料の読み解きにどう役立つのかを深掘りしていきます。例えばプレゼン資料や議事録はただ読み流すのではなく、読みながら仮説を立てたり、洞察したりすると自分の仕事の質も上がっていく、という印象です。このインプットの過程で意識すべきことはあるでしょうか。

ウーマン:やはり、最初に目的や問いを立てることだと思います。目的を設けて、そのためにどのような情報がほしいのかを考えるダラダラと目的なく情報収集をしない、ということですね。

例えば、SNSアカウントのコンセプトを作ることが目的なら、まず「どんな投稿をすれば反応を伸ばせるか」という問いを立て、この問いの答えを見つけるために競合のアカウントを調べる。すると「反応が伸びている投稿と伸びていない投稿の違いを探す」といった視点が得られ、より短時間で、目的に対してより精度の高い情報を得られるようになります。

人間の脳は意識したものしか目に入ってこない傾向があるので、インプットの前に問いを立てるようにすると、インプットする情報の質も格段に変わると思いますよ。

これは仕事に関する本を読むときも同じです。読む前と読んだ後でどう変わりたいのか、どんな示唆を得たいのかを意識しないと、単に自己満足で終わってしまいがちです。

──耳が痛いですね……。他に情報をインプットする際に重要なことはありますか。

ウーマン:「問いを立てる」ことと近いのですが、アウトプットの内容を想像しながらインプットすることです。現在、起業支援を行う「爆速起業ラボ」というコミュニティを運営していて、会員の方にアドバイスを行うために事業の進捗をチェックする機会が多いのですが、会員の方が提出した資料を「各人の困りごとや不安に対してどんなアドバイスができるか」という視点でインプットしています。フィードバックやアドバイスの内容を考えながら読むと、資料の内容を解像度高く理解できるからです。

それから、作業効率の観点で重要なのは、「インプットして考える時間」と「アウトプットする時間」を分けることです。たとえばプレゼン資料などを作る際は、作りながら考えたり、考えながら作ったりしがちですよね。でも、それだと頭がぐちゃぐちゃになってしまいますし、効率も悪い。だから、調べる、要点を考えながら体裁を気にせずバーっと書き出す、考えをまとめる、資料を作り込む、と作業内容を分解したほうがスムーズに進められます。

あくまで私の肌感覚ですが、プレゼン資料は体裁を整えるより「何を書くかを考える」ほうが大変です。それに、たとえ綺麗な資料でも内容が薄かったりすると全然響かないし、逆に白地に黒字のテキストしか書いてない資料でも人の心を動かすことがある。インプットや考えることに集中するうえでも、この作業を分ける視点が大事です。

コツコツこそが「最強の参入障壁」である。2000社以上の写経で気付いた真理

──すでに2000社以上「写経」されていると伺いました。地道な作業をここまで続けることができた理由は何だと思いますか?

ウーマン:山川さんの著書『瞬考 メカニズムを捉え、仮説を一瞬ではじき出す』(2023年、かんき出版)に書かれていた「四季報写経をし始めた当初は仕事に役に立っている感じがしなかったが、その後コンサルタントになってからはさまざまな仕事で活用できるようになり、結局自分のキャリアを支える習慣となった」というエピソードに影響を受けたからです。山川さんのようなすごい方でもそんなに時間がかかるなら、私が1〜2カ月やったところで劇的に変わることはないんだなと。

何かを始める際、多くの人は短い期間で変わることを期待しがちですが、現実的に1日で人生を変えるのは不可能に近い。でも、仮に1日に1社写経したら1年で365社、10年続けたら3650社に詳しい人になれるわけじゃないですか。1日では変化が感じられないことでも、10年続けると別次元になれる。いわば筋トレのようなものですね。

結局、「コツコツやる」が最強なんです。3年間積み重ねてきたものって、人が追いつくのに3年かかるけど、10日でできることって、やっぱり他の人も10日でできてしまうんですよ。だから、コツコツやるしかない。「コツコツこそが最強の参入障壁」なんです

とはいえ、そんな長期のスパンを見据えてがんばるのはツラいですよね。だから私は「昨日より今日、1社多く知っている人になれた」という成長実感をモチベーションにしていました。毎日一段ずつ階段を上っている自分を褒めてやりながら、同時に「上り続けたらどこへ到達できるんだろう」という長期的な視点で考えるのが、続けるためのコツです。

四季報写経って、明確なゴールがある分、むしろ「続けるハードルが低い」と思っていて。だって、4000社写経すれば終わりますからね(編注:2025年5月時点の上場企業数は約3960社)。個人的には、「ビジネススキルを高める」みたいに、ゴールのない目標に立ち向かうほうが大変だと思います。

──案外そうかもしれませんね。四季報写経ウーマンさんの話を伺って、インプットというアクションの解像度が上がっただけでなく、何かをコツコツ続けていくことの大事さにも改めて気付かされました。ありがとうございました。


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( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )

取材・文:山田井ユウキ
写真:関口佳代
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

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