思考の断捨離!脳科学でわかるタイプ別「整理できる脳」の作り方
明日までに企画書をまとめなければならないのに、思考がまとまらない。さらに顧客対応やプロジェクトの進捗管理など、あれこれ考えすぎて頭がパンク寸前……。
こうした「思考が整理できない」状態は、誰にでも起こります。頭の中がゴチャゴチャになってしまうのは能力の問題ではなく、脳の一時的なエラーが原因です。
今回はその理由と対処法を、タイプ別に紹介します。自分のタイプを知り、効果的な思考整理術で頭をすっきりさせましょう。
タイプ1.疲れすぎて考えられない
次のような悩みをもつ人は 「疲れすぎ」によって思考が停滞している可能性 があります。
考えようとしてもなかなか進まない いつの間にか違うことを考えている 優先順位がつけられず決められない
原因は「脳の疲労」
長時間走ると体が疲れるように、脳もたくさん使うことで疲弊します。
心療内科医の田中奏多さんによれば、脳には集中しているときに働くWMN(Working Memory Network)、無意識下で働くDMN(Default Mode Network)、そしてこれらを調整するSN(Salience Network)があるそうです。集中し続けるとSNがバランスを取ろうとしてDMNが過剰に働き、頭がぼーっとしてしまうと言います。*1
いわば脳疲労は、集中力の電池切れ状態のようなもの。脳がオフモードになっているために、集中しようとしても思考が整理できないのです。
おすすめの対処法は「考えない作業」
田中さんは、 脳が疲れているときには「無意識にできることをする」のが効果的 だと述べています。*1
たとえば、散歩・洗い物・シャワーを浴びる・音楽を聞くなどは、考えなくてもできる行動です。
実際、仕事に行き詰まって散歩をしたらアイデアが浮かんだ経験はないでしょうか。これは散歩によって脳疲労が回復し、WMNが復活した結果です。疲れているときこそ、あえて考えるのをやめることが思考整理につながります。
タイプ2.あれこれ考えてパンク状態
以下のような状態に陥るのは、 脳の「作業スペース(ワーキングメモリ)」がいっぱいになっている可能性 があります。タスクを抱えすぎたり、同時に複数のことを考えたりすると起こりがちです。
直前に考えていたことを忘れてしまう 何から考えるべきかわからない 話そうとしてもうまくまとまらない
原因は「脳のメモリ容量」
勉強法の専門家である宇都出雅巳さんによると、脳には情報を一時的に保持するワーキングメモリという領域があるそうです。「ワーキングメモリが貯蔵できる事象は、せいぜい7つ前後(7±2)」で、容量が大きいとは言えません。*2
宇都出さんは「覚えておかないといけない量が増えるほど、作業台が狭くなり(=注意を消費し)、複雑な情報の処理ができなくなります」と述べています。*2
たとえば、企画を練りながら資料を作り、後輩の相談に応じつつ成果物も確認する――といったように頭をフル回転させていると、情報処理の精度が落ち、思考の整理が追いつかなくなるのです。
おすすめの対処法は「全部書き出す」
思考を整理するには、まず脳の作業スペースを空けることが重要です。効果的な方法として、宇都出さんは「 メモに書き残せば、即座にワーキングメモリを解放 」できると言います。*2
「忘れそうで不安」と思うかもしれませんが、書き出せば忘れても問題ありません。手書きでもデジタルでもいいので、文字の美しさや順番も気にせず、浮かんだことをすべて外に出しましょう。実際に紙に書き出すと、以下のようになります。
筆者自身も、仕事・プライベートを問わず頭に浮かんだことをすべて書き出したところ、思考がクリアになり、目の前のタスクに集中できました。このメモを使って優先順位を整理したり、テーマごとにまとめ直したりといったアレンジもできそうです。思考がごちゃついていると感じたら、まずは一度「全部書き出す」ことから始めてみてください。
タイプ3.考えがまとまらず、判断できない
思考が堂々巡りしてしまう ネガティブ思考で冷静さを失いやすい 不安や心配事で頭ゴチャゴチャ
これらが当てはまる人は、 脳のクセによって思考が凝り固まっている可能性 があります。
原因は「脳のクセ(認知の歪み)」
メールを送ったのになかなか返事が来ず、「嫌われたのかな」「何か失礼があったのかも」と不安になった経験はないでしょうか。客観的に考えれば「返事が来ない=嫌われた」とはなりませんが、脳のクセによって思い込みが生まれる場合があります。
アメリカの医学博士ピーター・グリンスポンさんは、こうした脳の偏った思考パターンを「認知の歪み」と呼び、思考の停滞や不安の増幅につながると指摘しています。*3
脳が情報処理を省力化するために用いる“思考の近道”が、かえって誤解や過剰な不安を生み出してしまうと認知の歪みになります。以下は、グリンスポンさんの解説に基づく代表的な認知の歪みの例と、その思考パターンです。*3
白か黒か、全か無か :ミスした。もう信頼を完全に失った。 結論を急ぐ、人の心を読む :返信がない。きっと嫌われたんだ。 パーソナライゼーション(自責):プロジェクトの遅れは自分のせいだ。 ネガティブな面を拡大 :今月の目標を70%“しか”達成できていない。 ラベリング :最近の若手はやる気がない。
おすすめの対処法は「3つのコラム」
脳のクセは、誰もが無意識にもっているものです。 自覚するのは難しいため、書いて可視化するのが効果的 です。今回は、千葉大学大学院教授の清水栄司さんが推奨する「3つのコラム」を実践とともにご紹介します。やり方は次の通りです。
1.最近印象に残った「出来事」を客観的に書く
2.出来事に対して浮かんだ「考え」を書く
3.そのときの「感情」を書く
(*4を参考に筆者がまとめた)
3つのコラムを実践
コラム形式で書き出すことで、頭の中で混在しがちな「事実」「思考」「感情」を切り分けられ、どこに認知の歪みがあるのかも見えやすくなります。
筆者も試してみたところ、自責やネガティブな面の拡大といった思考の偏りに気づくことができました。さらに独自の試みとして「別の考え方はできないか?」という視点を赤ペンで追記したところ、より客観的に思考をまとめられました。
この「3つのコラム」は数分で書けるシンプルな方法ですが、思考がぐるぐるしはじめたとき、心を落ち着けるための強力なツールになります。考えがまとまらないと感じたときに、ぜひ試してみてください。
自分に合った対策を
思考が整理できない背景には、様々な原因が隠れています。能力不足と決めつけず、脳の休憩と整理のサインを理解することが重要です。自分の脳の状態を見極めて思考をクリアにし、あなたのパフォーマンスを最大限引き出すために、ぜひ思考整理術を試してみてください。
参考文献
*1 内野勝行,櫻澤博文ほか(2022),『5人の名医が脳神経を徹底的に研究してわかった 究極の疲れない脳』, アチーブメント出版.
*2 東洋経済オンライン|新人もベテランも「メモ」を取るべき科学的根拠
*3 Harvard Health Publishing|How to recognize and tame your cognitive distortions
*4 清水栄司(2023),『認知行動療法でつくる思考・感情・行動の好循環』, 法研.
文・写真:藤真唯