世界初公開の特別展示も! 『ひつじのショーン展 with ウォレスとグルミット』レポート
イギリスのアードマン・アニメーションズによる名作クレイ・アニメーション「ひつじのショーン」。2025年は、その主人公である “ショーン” の生誕30周年にあたるアニバーサリーイヤーだ。
この記事では、東京アニメセンター(渋谷)にて2025年6月29日(日)まで開催中の展覧会『ひつじのショーン展 with ウォレスとグルミット』のみどころをレポートし、ふわふわもこもこのニクい奴、おそらく世界で一番愛されているひつじ・ショーンの魅力に迫る。
「ひつじのショーン」もこもこほっこり30年
展覧会冒頭では、アードマン・アニメーションズのこれまでの歩みを総覧することができる。ストップモーション技術を用いたクレイ・アニメーションの長い伝統を持ち、数多くの名作を生み出してきた同社。ひつじのショーンというキャラクターが初めて登場したのは、1995年のクリスマス・イブに公開された「ウォレスとグルミット」シリーズの映画『ウォレスとグルミット 危機一髪!』だった。実はショーン、はじめは脇役だったのである。その後、主役に抜擢されて2007年にTVシリーズ「ひつじのショーン」がスタート。やはり単なるモブという役割には収まりきらない、ショーンのスター性……ということだろうか。
「ウォレスとグルミット」より、貴重な資料を多数公開!
本展は「ウォレスとグルミット」の展示パートと「ひつじのショーン」の展示パートのふたつに分かれている。まずは青い壁の「ウォレスとグルミット」エリアだ。「ウォレスとグルミット」は発明家・ウォレスとしっかり者の忠犬・グルミットによるドタバタコメディ。ショーンしか知らない、という人もどうぞご安心を。丁寧なキャラクター紹介があり、展示を見ていけばきっとすぐ彼らのことが好きになるはずだ。
「ウォレスとグルミット」登場時の、セーターを着たショーン。そもそも “ショーン” という名前は「shorn(毛を刈られた)」という意味なのだそう。毛刈りされたひつじが、その毛でできたセーターを着ているという地産地消ぶりが可笑しい。
『ウォレスとグルミット 危機一髪!』作中の印象的なアイテム、モーターバイクとサイドカーも実際の造形を見ることができる。隣には、内部機構まで精緻に描かれた設計図が併せて展示されているので注目だ。
展示はパペット(人形)やセット、小道具といった立体造形のほか、キャラクタースケッチやコンセプトアートなどのイラストレーションもある。ニック・パーク監督によるスケッチは映画のアイデアがぎゅっと凝縮されているようで、じっと隅々まで眺めたくなる貴重な資料である。
映画で見たあのシーンも……
「監獄のグルミット」は、『ウォレスとグルミット 危機一髪!』の撮影に実際に使用されたアニメーションセットだ。壁や床、古びた椅子など、細部の質感までじっくり堪能したい。
このセットでは、無実の罪で投獄された忠犬グルミットを、ショーンが助けに来るというワンシーンが繰り広げられる。併せて放映されている映画の該当シーンを見るとわかるのだが、このようにグルミットが本(ちなみに「罪と罰」)を読んでいる時点では、まだショーンは登場していない。……のだが、本展では特別に、右手の鉄格子のはまった窓の向こうにショーンを配置しての展示となっている。アードマン・アニメーションズによる日本のファンのための粋な計らいを、ぜひ会場で確認してみてほしい。
2025年公開の最新作『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』に登場した船のセットは、日本お披露目となる逸品。シリーズ16年ぶりの長編映画となる同作は現在Netflixにて配信中だ。
「ひつじのショーン」の世界へダイブ!
壁がみどり色になったら、ここから先は「ひつじのショーン」のエリアだ。まず目をひくのは、「野菜畑のショーンと牧場主」と題された立体作品である。こちらは日本のファンのために制作されたもので、360度どの方向から見ても楽しめる贅沢なジオラマとなっている。
ニンジンを引き抜こうとする牧場主と、そのお尻を後ろからパチンコで狙っているショーン。ウールのセーター、ブリキのジョーロ、キャベツの葉っぱ、そして土……ひとつひとつのモチーフが息を呑むほどリアルに表現されている。近くに顔を寄せて見つめていると、まるで自分もショーンたちの世界に入り込んだような感覚になり、ニヤニヤしてしまう。面白いのは、地面の下の世界が茶目っ気たっぷりに創造されているところだ。ニンジンを抜かせまいと引っ張るモグラや、埋蔵金の宝箱、骨、などなど。ぜひぐるりと一周して、隅々まで堪能したい作品である。
さらに進むと、ひつじたちがまったりくつろぐ納屋のジオラマも。ピンクのブランケットにくるまるこひつじのティミーが可愛い。
立体作品のほか、壁には「ひつじのショーン」の名エピソードのストーリーボードが展示されている。言葉を話さないアニメなので、ストーリーボードにも文字はない。それでも微妙な表情変化や構図でコミカルな空気が伝わってくるから不思議である。これぞ、世界170カ国で本作が愛されている秘訣なのかもしれない。
「見たことある!」だけじゃない。まさかの「見たことない!」も……
奥には、『映画 ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』のセットやイラストボードを展示したコーナーが広がっている。
鑑賞者たちを作品世界に没入させてくれる再現セットやジオラマは、本展の大きな見どころだ。しかもその数は一つや二つではなく、TVシリーズ・劇場作品からそれぞれ数多くの作品が展示されている。作品の多くは、元々それが梱包されていたと思われるアードマン社の木箱に乗せて展示されており、“小さな世界” が英国からはるばる海を渡ってやって来たことを感じさせてくれる。
数ある展示の中で個人的なお気に入りは、こちらのカフェを楽しむショーン。劇中では一瞬しか映らなかったそうだが、美味しそうなペストリー、レジのクレジット決済端末、壁のメニューボードまで細やかに作り込まれている。
なんと、日本未公開の最新TVシリーズ『ひつじのショーン シリーズ7』からも、再現セットが世界初公開となっている。麦わらを積み上げて作った牧場主の顔(?)を眺め、チェアで一休みするショーンとビッツァー(牧羊犬)。一体どんな物語なのか想像しながら、放映を楽しみに待ちたい。
ショーンたちはこうして生まれる
「ひつじのショーン」のキャラクターたちはどうやって生み出されているのか、気になる裏側に迫るセクションも。ここでは赤ちゃんひつじティミーのパペットを例に、ボディの型や表情パーツなどを見ることができる。クリエイターたちによるモデルメイキングの様子を収めた短編映像も必見である。デスクの散らかりぶりがなんとも生々しい。
映像を作るためには同じキャラクターのパペットを何体も制作し、パーツを変化させて使用しているという。ティミーの発している音と口の動きを違和感なくリンクさせるため、各母音ごとに専用の口パーツが用意されているのだそうだ。途方もない時間と労力をかけて、アードマン社のいきいきとしたキャラクターは生み出されているのだ。
見立てアーティストとのコラボレーションにニンマリ
最後の展示エリアでは、『ひつじのショーン ~クリスマスの冒険~』の華やかな再現セットがお出迎え。そして奥には……
ショーンが、お寿司に! ミニチュア写真家・見立て作家の田中達也氏とのコラボレーション作品のコーナーだ。立体2作品のほか、パネルではこれまでのコラボ作品画像がまとめて展示されている。身のまわりの様々なモノをショーンに見立てたシリーズは、可愛くて可笑しくて、多くの場合は美味しそうである。せいろに入ったショーンはまさか……“ショーン籠包”?
本展のために制作された完全新作「ボールとショーン」。牧場の仲間たちがゴルフボールに(確かにボールの凹凸がひつじのもこもこに見えてくる!)、巨漢のシャーリーは野球ボール、こひつじティミーはピンポンボールに見立てられている。右手でバットなどを持ったショーンがバッターだ。キャプションを見たところ、タイトルの下にタグがつけられていた。
「#ボール #ひつじ #Ball #Sheep #ビッツァーがピッチャー」
なるほど、ビッツァーがピッチャーだったのか……と、見えないところにまで拡張された洒落っ気に脱帽である。30周年の節目を迎えたショーンなら、きっとこの先へ向けて大きくかっ飛ばしてくれるに違いない。
ショーン、うちにも来てほしい。
展覧会のラストにあるフォトスポットでは、登場人物になりきってショーンと一緒に記念撮影ができる。ちなみに、このショーンは併設のショップで「座れるひつじのショーン」(税込8,800円)として販売しており、購入することも可能だ(※売切れの場合もございますのでご了承ください)。
ショップでは会場限定のオリジナルグッズをはじめ、ショーンとウォレスとグルミットのグッズが多数販売される。もこもこのぬいぐるみや各種雑貨、田中達也氏とのコラボレーション作品のグッズもラインナップされており、展示室のみならずショップの見応えもたっぷりである。
展覧会『ひつじのショーン展 with ウォレスとグルミット』は、2025年6月29日(日)まで、東京・渋谷「東京アニメセンター」にて開催中。冷房冷えが気になり出すこの季節、ウール100%の展覧会で、心をほかほかに温めてみては。
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文・写真=小杉 美香