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【医師の偏在】「地域」「診療科」の2つで偏在。静岡県は「医師少数県」で特に小児科は深刻。若手医師の美容医療への流出も課題だ

アットエス

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「医師の偏在」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年11月12日放送)

(山田)お医者さんが増えているのに、配置が偏っているって、いったいどういうことなんですか。

(川内)国内の医師数が増え続ける一方で、大都市圏への集中や労働負荷、医療リスクが少ない診療科の従事者増が目立つなど、医師の偏在が生じているということなんです。つまり、「地域」と「診療科」の2つで偏在が起きています。

どこに住んでいても、望む医療を確実に受けられるよう、国と地方、官と民が連携し適正配置に向けた抜本的な対策に取り組む必要があります。

(山田)医師はなぜ増えているのでしょうか。
 
(川内)医師数は偏在解消に向けた政府の施策である医学部の「地域枠」設定に伴う定員増などによって増加が続きます。1990年末に約21万人だったのが、2022年末に約34万人になりました。それでも偏在が十分解消されない現状を直視し、洗い出した問題点に的確に対応してほしいです。人口減や高齢化が進む状況から、国は早ければ医師の需給が2029年ごろに均衡すると推計しています。

(山田)増えすぎると困ることがあるのかな。

(川内)供給過多で個々の医師の生活基盤が不安定になれば、不適切な過剰医療を引き起こしかねません。そうなった場合、国民負担の増大にもつながります。大都市部では「過剰」となり、地方では「過少」という状況がさらに進む懸念があります。

医師偏在の実態     

(山田)地域によってどれほど違いがあるのかを知りたいです。

(川内)国は地域ごとの医療ニーズや人口構成、医師の性年齢構成などを踏まえた「医師偏在指標」を公表しています。偏在の状況を相対的に表した数値で、それによると、最新の状況で医師が最も多い東京都と最少の岩手県では約1.9倍の差があります。総じて、東北地方で不足傾向が強いです。

(山田)診療科はどんな状況なんですか。

(川内)診療科の偏在も深刻です。診療科別の医師数の推移を見ると、総数の増加率に対して内科、小児科、産科・産婦人科などはいずれも増加割合が下回っています。特に外科は顕著です。上回っているのは皮膚科や精神科など。時間外勤務など負担が大きい診療科が敬遠され、小児科や産科、産婦人科については少子化で患者自体が減少するという判断もあるとみられます。

(山田)そうか。仕事が大変だったり、将来的に患者さんが少なくなりそうだったりというのが関係しているんだ。

(川内)産科ゼロの自治体も拡大しています。4月から始まった時間外労働などを制限する「医師の働き方改革」も外科や産婦人科、救急診療科などの不足に拍車を掛けているとみられます。従来のように長時間労働に頼るわけにはいきません。現場の責任感や使命感で地方の医療は支えられてきましたが、それにも限界があります。

国の偏在是正に向けた動きは

(川内)厚生労働省が8月末に公表した偏在是正のための新たな施策の骨子案には、重点的な支援対象地域の選定や処遇改善のための経済的優遇措置などが盛り込まれました。年末までに総合対策のパッケージを策定する予定で、開業医の多い地域で新規の開業を抑制したり、院長になる条件に医師不足地域での勤務経験を義務付けたりするなど、規制的手法を取り入れるかどうかが焦点です。

(山田)規制的手法か。なんか厳しそうだな。     

(川内)9月30日の厚労省の検討会では、賛否両論が出ました。「医師養成には多額の公費が投入され、医療費の多くは公的な保険料で賄われているので規制的手法は理解されるのでは」、「憲法で保障する『営業の自由』に抵触し、規制的手法はまったくなじまない」、「そもそも若手医師は病院管理者への就任に消極的で逆効果」などです。

診療科や働く場が自由に選べるのが原則とはいえ、医師の社会的責任は重大です。医師の選択に一定の制限を設けることは避けられないのではないのでしょうか。総合対策のパッケージは実効性がある内容にしなければなりません。

(山田)医師の社会的責任の重さは理解できる。

静岡県は「医師少数県」、医療圏ごとの偏りも

(川内)静岡県の医師偏在指標は全国47都道府県中、39位と相対的な医師少数県です。県内8つの二次医療圏別に見ると、西部と静岡は多数区域ですが、志太榛原、駿東田方、熱海伊東は中位、中東遠、富士、賀茂は少数で、多数や中位区域の中にも「少数スポット」の市区町が存在します。

(山田)静岡県独自の施策があると聞きました。

(川内)2007年度から県が始めた奨学金制度を利用した県内の勤務医師数は4月時点で703人となりました。県内の病院で一定期間働くことを条件に奨学金の返還を免除する独自の制度で、これまでに1620人が利用し、一定の成果を上げていると言えます。

しかし、703人の勤務先の地域別では西部371人、中部218人、東部114人と、その差は大きいです。静岡県は診療科別の偏在指標では小児科が全国46位と特に少ない。出産の受け入れを中止する病院も県内で相次いでいます。

(山田)出産しやすい環境や小児科の状況は、少子化にも関係しそうだ。

美容医療への若手医師の流出

(川内)診療科の偏在では自由診療で高収入が見込める美容医療に、若手医師が流出する傾向もあります。「直美」(ちょくび)」という言葉をご存じでしょうか。医学部を卒業し医師国家試験に合格した人が、2年間の総合的な臨床研修を終えてから専門研修に進まず、すぐに美容医療に入ることを指すようです。

社会的な価値観の変化で美容医療が一般的になり、医師の求人サイトでは高額報酬をうたう医療機関もあります。当直業務がないなど労働負荷が少なく、勤務場所は大都市圏が多いのも魅力と受け止められているようです。

(山田)そんな現象が起きているんですね。

(川内)美容外科に従事する医師は2022年に2008年に比べて約3倍になり、20~30歳代が半数以上を占めます。医学部生1人を一人前の医師にするまでのコストは多額で、先ほど言ったように公費も投入されています。美容医療への流出という点も含め、市場原理任せではない、政治による踏み込んだ施策が不可欠ではないでしょうか。

(山田)当たり前の医療を、当たり前に受けられる環境をどう維持するのか。供給する側も受ける側もどう考えればいいのか。課題の大きさが分かりました。今日の勉強はこれでおしまい!

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