のどかな郊外の地域密着ベーカリー・清瀬『パンのみせアンヌアンネ』。もちもちジューシーなレーズンパンが生まれた意外な理由
池袋駅から西武池袋線の急行と各駅停車を乗り継いで20分。のどかな景色が広がる清瀬に、とびきりおいしいぶどうパンを出しているベーカリー『パンのみせアンヌアンネ』がある。
清瀬の野菜を使ったパンがおいしい!
『パンのみせアンヌアンネ』があるのは、西武池袋線の清瀬駅から歩いて10分ぐらいのところ。そんなに離れていないように思えるが、きれいに整備された駅前から5分ほど歩くとすぐに景色が変わって、畑があらわれる。ここが東京とは思えない、なんとものどかなところだ。
しかし、店に入ると目の覚めるような素晴らしい景色が広がっている。甘いものからリッチ系、ハード系から総菜パンからサンドまで、「ここにないパンはない」というぐらい、多種多様なパンがズラッと並んでいるのだ。興奮しながらはじから見ていくと、ついあれもこれもと買いすぎてしまいそう。
パンをじっくり見てみると、地元・清瀬の野菜を使ったパンがけっこうある。そのうちのひとつ、清瀬野菜のタルティーヌはブロッコリーがたっぷりのせられており、フレッシュな甘みがチーズコクと抜群に合う。土台のフランスパンは外側バリッで中はもっちり。風味もよくてこれまた旨い。
店頭には地元の野菜が売られていて、『アンヌアンネ』はかなりの清瀬推しだ。てっきり地元出身の人がやっているのかと思えば、店主の安井健介さんに聞くと「東京の江戸川橋の出身」だという。なんで都心出身の人が、わざわざ清瀬でお店を?
のどかな清瀬にひかれて
聞けば安井さんは『アンヌアンネ』以前、チェーンの『アンデルセン』でパン職人として10年働いていた。一時、飯能の店で働いていたことがあり、通勤に便利な清瀬に住んでいたのだが、そのときに緑が多くのどかな雰囲気にひかれたのだという。
そして独立し、2014年に清瀬で『アンヌアンネ』をオープン。もとから野菜が好きだった安井さんは、地元の農家が「清瀬ベジフルパーティー」という組合で野菜の“都産都消”に取り組んでいることを知り、彼らにコンタクトを取る。以来、清瀬野菜を使ったパンを作り続けているのだという。1年を通して使っている野菜は、水菜と小松菜。ほかはブロッコリーやトマト、ナスなど、その時期のものを使っている。季節ごとに使われる野菜が変わるのも、楽しみだ。
好きではなかったレーズンパン
さて、『アンヌアンネ』でおいしいのは野菜を使ったパンだけではない。
人気メニューのレーズンパンが、これまた素晴らしいのだ。レーズンは白ワインにじっくり漬け込んでいて、ドライフルーツなのにジューシー。生地も北海道産小麦を使い、加水多めのもっちり食感。普通のレーズンパンとはかなり違う、フルーティでリッチな味わいの、オリジナルなパンとなっている。
実は安井さんは、もともとレーズンパンがそんなに好きではなかった。それならば、自分が考えるおいしいレーズンパンを作ってみようと思いたち、このレーズンパンを開発したのだ。好きではないからこそ生まれた、おいしいレーズンパンなのである。
ちなみに安井さんは2012年にカリフォルニア・レーズン協会主催のコンテストで金賞を受賞。20年にも同協会の『選んでナットク!レーズンパン選手権』で金賞を受賞している。レーズン協会も認めた腕なのだ。
『アンヌアンネ』は多種多様なパンがありながら、どれを食べてもおいしい。手の込んだ具材もさることながら、パン自体がしっかりしているのだ。たとえば焼きそばパン。肉や野菜もたっぷりな焼きそばにはオニオンチップがあしらわれていて、けっこうな存在感。しかし、土台のパンも負けずに風味が良くてそれに負けていない。
安井さんにパン作りでふだん心がけていることを聞くと「まずは基本をしっかり」という答えが返ってきた。パン作りは発酵という過程があるため、ブレや変なアレンジは仇になることが多い。材料をきちんとはかる、発酵時間をちゃんと守る。基本をしっかりすることが、おいしいパンを作るために大事なのだ。多種多様でオリジナルなパンが揃う『アンヌアンネ』だが、その根底にはしっかりした基本があるのだ。
畑や緑の多い清瀬は最近、のびのび子育てできると、育児世代の若い世帯が多く移り住んできている。すでに人気店の『アンヌアンネ』だが、その人気はますます拡大しそうだ。
パンのみせアンヌアンネ
住所:東京都清瀬市上清戸1-15-19/営業時間:10:00~19:00/定休日:日・月/アクセス:西武鉄道池袋線清瀬駅から徒歩10分
取材・撮影・文=本橋隆司
本橋隆司
大衆食ライター
1971年東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て2008年にフリーへ。ニュースサイトの編集をしながら、主に立ち食いそば、町パンなど、戦後大衆食の研究、執筆を続けている。