介護現場における働き方改革とは?実践方法や課題を紹介します!
本日のお悩み:介護現場で働き方改革は難しい?
近年、働き方改革が話題となっています。
他業界では、リモートワークの活用や週休3日制の導入などを行っていると思うのですが、介護業界においては、介護を必要とする方に直接介護を届けるためには、これらの実施はやや現実的ではないような気がします。
では、介護業界では働き方改革の実施は難しいのでしょうか。もし実施している場合は、どのようなことをやっているのかも教えてください。
働き方改革を改めて考えてみよう!
執筆者/専門家
脇 健仁
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/22
そもそも働き方改革とは?
働き方改革といっても企業や業界によって、様々な取り組みがあります。厚生労働省の働き方改革特設サイトによると、以下のように定められています。
「働き方改革」は、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。
ここでのポイントは、「多様な働き方を選択できるよう、労働環境を整えていきましょう」ということです。
※出典:厚生労働省働き方改革 特設サイト
中小企業における働き方改革の必要性
さらにこちらのサイトでは、日本国内雇用の約7割を占める中小企業の働き方改革の必要性について3つのポイントをあげています。
1.職場環境の改善などの「魅力ある職場づくり」が人手不足解消につながる。
2.事業規模的に意識の共有がされやすい。
3.「魅力ある職場づくり」が「人材確保」につながり、「業績の向上」となり「利益増」の好循環になる。
これら3つのポイントから、社会全体を支えていくためにも「国として働き方改革を推進しましょう」という方針になっています。
働き方改革に必要な5つのチェック項目
働き方改革に取り組むために、必要な対応ができているかのチェックとして5つのチェック項目があります。
項目は、以下の通りです。
働き方改革関連法による主な法改正
働き方改革関連法により、法改正が順次始まっています。重要なポイントとして、以下の3つがあります。
1.時間外労働の上限規制
2.年次有給休暇の取得義務化
3.同一労働同一賃金
※参照:厚生労働省 愛知労働局「働き方改革関連法」の概要
■1.時間外労働の上限規制
2018年までは、法律上の残業時間の上限はありませんでしたが、2019年以降は法律で残業時間の上限を定めることとなりました。
これに伴い、原則月45時間、年360時間以上の残業の禁止。特別な事情があって労使が同意した場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)をこえてはいけない。というルールが定められています。
また、原則である月45時間を超えることができるのも、年間6か月までと決められています。
■2.年次有給休暇の取得義務化
有給休暇についても、以前までは労働者が申し出なければ年休を取得することができませんでした。
しかし、この仕組みでは希望の申し出がしづらいというデメリットがあるため、2019年からは使用者が労働者の希望を聞き、希望を踏まえて時季を指定したうえで、年次有給休暇付与日数が10日以上のすべての労働者に、毎年5日の休暇を確実に取得させることが必要となりました。
■3.同一労働同一賃金
2020年から順次、同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などあらゆる待遇での不合理な待遇差を設けてはいけないこととなりました。
また、これらは賃金だけでなく教育訓練や福利厚生などについても同様とされています。
介護保険事業における注意点
介護保険事業では、運営指導の際に「労働契約書の有無」や「就業規則が提出されているかどうか」を確認されることがあります。この際に、単に労働契約書が存在するだけでは不十分で、それが実際に従業員に書面で渡されているかどうかも重要です。
また、就業規則についても、作成しただけでなく、きちんと労働基準監督署に届け出ているかが問われます。皆さんの職場では、これらの対応がきちんとできているでしょうか?確認してみてください。
「選択」という視点で考える介護現場の働き方改革
ここまで、働き方改革の基本について解説してきました。
では、これらを踏まえたうえで、介護現場の働き方改革について考えていきましょう。
働き方改革の本質は、「多様で柔軟な働き方を、自分で選択できるようにすること」です。介護保険事業においても、その視点で取り組みを考えることが重要です。
介護職におけるリモートワークの可能性
介護保険事業で、すべての職種にリモートワークを導入するのは難しいですが、ケアマネジャーや事務職など、一部の職種では業務内容からも導入しやすいと言えるでしょう。
週休3日制の導入は可能か?
週休3日制については、介護報酬単価から考えると一見難しいと感じられるかもしれません。しかし、「多様な働き方の選択」が働き方改革のポイントであれば、現在の給与を80%にして、休日数を増やすと、週休3日制の実現は可能であると考えられます。
一方で、休みが増えるということは、その分人材を確保しなくてはいけないという課題も出てきます。この課題とも向き合いつつ、給与が80%になっても、週休3日制がよいと思う人がいるのであれば、その選択肢も用意しておくことが大切です。
■先進的な取り組み事例:週4日×10時間勤務
また、先駆的な事業所では1日の勤務時間を10時間として、その代わりに、週4日勤務という形で、給与の水準を保つ働き方を実施しているところもあります。
この働き方は、残業時間の削減とともに、給与も週40時間の勤務時間分を維持することが可能です。このような選択肢が増えることも働き方改革の1つです。
ICTの活用で、介護現場の課題解決を
また、介護の現場での働き方改革としては、移乗リフトの導入や、様々なセンサーの活用・記録の電子化などICTの活用も重要な選択肢の1つです。
例えば、移乗リフトを使うことで、体格が小さい方や力に自信がない方でも、無理なく安全に介助ができるようになります。
また、ICTを活用して業務を効率化することで、少しずつ1つ1つの業務にかける時間を短縮することができます。その結果、職員一人ひとりが利用者さんと向き合う時間をしっかり確保できたり、業務の負担が減ることで、職員の離職防止にもつながります。
処遇改善加算を本気で活用しませんか?
令和7年度より、介護職員の処遇改善加算の要件として「職場環境等要件」が示されています。
これは、職場環境を改善することで魅力ある職場づくりを推進し、結果的に給与アップにも繋げていこうという制度です。そのため、単なる制度ではなく、働きやすい職場づくりのための「投資」と捉えるとよいでしょう。
6つの取り組み区分と要件
この制度では、以下6つの区分に分けて、それぞれで取り組みを行うことが求められています。
1.入職促進に向けた取組
2.資質の向上やキャリアアップに向けた支援
3.両立支援・多様な働き方の推進
4.腰痛を含む心身の健康管理
5.生産性向上のための取組(2つ以上必須)
6.やりがい・働きがいの醸成
実際の取り組み事例(専門家:脇先生の事業所)
筆者の事業所でも、この職場環境等要件を活用して、以下のような取り組みをしています。
・時短勤務正社員制度
・リフレッシュ休暇制度
・物価高騰手当の支給
・希望休の100%実現
・年間休日数5日増加
・定例会をハイブリッド形式で実施(オンライン参加・アーカイブ視聴)
・記録の電子化(記録とレセプトが連動し、業務負担の軽減)
・フィットネスジムとの提携による福利厚生の充実
働き方改革の本質とは?
先述してきたような、出勤時間や休日数の調整なども、働き方改革を行ううえでもちろん大切であると思います。
しかし、筆者個人としては、職場環境の改善の中でも「人間関係の質」が良くなる取り組みこそが、一番の働き方改革ではないかと考えています。
「関係の質」から始まる成功循環モデル
ダニエル・キムは、成功循環モデルとして、以下の流れを提唱していて、以下の順番で、改善に取り組むことで、良い循環が生まれるとしています。
■「結果の質」だけに注目する危うさ
何かを解決する際に「結果の質」から着目をしてしまうことはよくあることです。
たとえば、人材不足を解決するために、すぐに求人を掲載して募集をかけることや、給与や休日数などの労働条件だけを良くすることは、「結果の質」にフォーカスした対応と言えます。
しかし、ダニエル・キムは、「結果の質」から先に改善しようとすると、かえって悪循環に陥ってしまうと指摘しています。
人間関係が悪い職場では改革は進まない
たとえ労働条件が良くなっても、職場の人間関係が悪いままでは、離職はなかなか減りません。
また、風通しの悪い職場では、言いたいことが言えず、ミスを隠してしまうような雰囲気が生まれがちです。
そうした環境では、小さなミスが積み重なり、やがて大きな事故につながるリスクも高まります。
一生懸命働いていても、もしアクシデントが起きてしまえば、自信を失い、「もう介護の仕事は続けられない」と感じてしまう人もいるかもしれません。
心理的安全性と風通しの良い組織づくりを
働き方改革で本当に大切なのは、職場の「心理的安全性」を高め、風通しの良い組織をつくることです。
そのためには、職場の環境を整えることと、職員全員が協力して取り組むことの両方が必要です。
こうした取り組みを続けることで、安心して働ける魅力的な職場が生まれ、人が集まり、良いケアが提供できるようになります。そうした職場には信頼が生まれ、結果として事業の運営も安定していくと考えています。
最後に:働き方改革を「自分ごと化」しましょう!
職場環境を変えることは、現場の介護職員にとって難しいと感じるかもしれません。それでも、自分にできることから始めることが働き方改革の第一歩です。
たとえば、同僚との人間関係をより良くするためにコミュニケーションを工夫したり、ケアの質を向上させるために、学びの機会をつくったりすることも働き方改革として、立派な取り組みです。
まずは、自分が「どんな職場で働きたいのか」、「どんな介護職員になりたいのか」、「どんなケアをしたいのか」といった理想を明確にすることから始めましょう。 理想がはっきりすれば、周りと比べることなく、自分の目標に向かって進めるようになります。
そして、そんな前向きな職員が増えていけば、組織全体の働き方改革も自然と進んでいきます。今、自分の立場でできることを、もう一度見つめ直してみませんか? 一緒に、より良い職場環境をつくっていきましょう。
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