1頭の犬が、孤独な闇に包まれた心を解きほぐす… 映画『少年と犬』を見て頬を涙が伝った
映画『少年と犬』3月20日(木・祝)公開
第163回直木賞を受賞し、累計発行部数50万部を突破した「少年と犬」(馳星周・文春文庫)が、高橋文哉さんと西野七瀬さんのW主演で実写映画化しました。
1匹の犬が、日本を縦断する旅路の先に目指すものとは?
人と心を交わしながら進んでいく物語を、映画オリジナル要素を加えて描いています。
「HBC演劇エンタメ研究会(通称“エンケン”)」のHBCアナウンサー・佐藤彩と森結有花が、試写会に参加してきました。この記事では、佐藤アナウンサーが映画を見た感想をレポートします!
ストーリー
震災から半年後の宮城県仙台。
職を失った青年・和正(高橋文哉)は、同じく震災で飼い主を亡くした一頭の犬・多聞(たもん)と出会った。
和正とその家族に瞬く間に懐き、一家にとって無くてはならない存在となったが、多門はなぜか常に<西の方角>を気にしていた。
そんな中、家族を助けるため危険な仕事に手を染めてしまった和正は、やがて事件に巻き込まれ、その混乱の最中に多聞は姿を消してしまう――。
時は流れ、多聞は罪を隠し続ける女性・美羽(西野七瀬)と滋賀県にいた。
多聞と過ごすことで徐々に平和な日常を取り戻していく美羽の前に、離れ離れになってしまった多聞を追いかけてきた和正が現れる。
最初は和正を警戒した美羽だったが、多聞を通して二人は少しずつ心を通わせ始める。
しかし、美羽が犯した罪はどこまでも追いかけてきた。
「俺が多聞を届ける。」美羽との約束を叶えるため、和正は多聞とともに“少年”を探す旅に出た。
そこに待ち受ける過酷な運命、そして奇跡とは――。
荒波にのまれ、生きている人たち
HBCアナウンサーの佐藤彩です。
「これは、再生の物語だ」というのが、最初に思った感想です。
多聞は、出会った人たちの心の闇に光を照らすような存在。
でも太陽のように明るく照らす、というより、静寂な夜の海を月明かりが照らして、光の道をやわらかく作っていくようなイメージの光です。
でも、それがうねりを伴う海だったら、月の光の道は、とても荒く、険しい道になる…。
本当はこんな状況になりたいわけじゃない、でもその中で生きなきゃいけない…多聞が出会う人たちは、荒波にのまれ、まっとうには生きられない辛さを抱えながら生きていました。
劇中で「守り神」とも言われる多聞は、そんな彼らと必然的に出会ったのだろうと思いました。
私はあまり事前情報を入れずに映画を見たため、タイトルの意味も、多聞がずっと「ある方角」を見ている理由も、見終わってようやくわかりました。
映画を見たあと、原作も読みたくなりました。小説ではあの展開はどう表現されているのか、とても気になったためです。
といってもここでその展開について伝えることは控えますが、原作を読むと、1本の映画になるとこの世界観になるということも、腑に落ちました。
「えぐい」と感じるほど感情移入
この作品は、見る人それぞれ、どの視点で感情移入するのかで、見終わったときの感覚は違うのかもしれません。
本当はまっとうに生きたい、だけど理不尽な状況のもとで、必ずしもまっとうな方向に歩めない、頑張れない、そういう人だっている…。
自分でわかっている、葛藤もある。そこに足を踏み入れちゃダメなことはわかっている。
でも、自分自身をも傷つけながら、生きるためにその道を選択してしまっている…。
この境遇って、その人のせいだけじゃないのでは…と思えてきて、つらい境遇に胸が締め付けられて、私には「えぐい」と感じられました。
そういった部分に感情移入して見ていると、結局、私の頬を涙が伝ってしまうのは、やっぱり仕方がないのかもしれません。
多聞が解きほぐす心
多聞は言葉を発するわけではないけれど、人の心にすっと入ってきて、寄り添う優しさがあります。
それはベタベタしすぎてはいませんが、一緒にいて楽しんでいるように見え、愛情を持って接しているのも感じます。
表情は優しく、まとっている空気感は凛としていて、強さ、信念がある感じが、とてもかっこよくもあります。耳を立てて、目を輝かせ、「クーン」と鳴く姿は、心に響きます。
健気な想いが伝わるのが、多聞の魅力でもあると感じました。
人はさまざまな境遇に翻弄されても、ちゃんと、再生していくことができるのではないでしょうか。
孤独な闇に包まれた心を、解きほぐす多聞。
多聞を必要とする人たちに対して、多聞はどう感じてこの行動をしているのかな、など想像しながら見てみると、多聞が希望の道を見つけるお手伝いをしてくれているように見えてきます。
映画『少年と犬』
・2025年3月20日(木・祝)公開
原作: 馳星周「少年と犬」(文春文庫)
監督:瀬々敬久
企画・プロデュース:平野隆
脚本:林民夫
出演:高橋文哉 西野七瀬
伊藤健太郎 伊原六花 嵐莉菜 木村優来(子役) /栁俊太郎 一ノ瀬ワタル 宮内ひとみ
江口のりこ 渋川清彦 美保純 眞島秀和 手塚理美 益岡徹
柄本明 / 斎藤工
主題歌:「琥珀」SEKAI NO OWARI(ユニバーサル ミュージック)
配給:東宝
上映劇場など、詳細は公式サイトからご確認ください。
【森アナの感想:「こんな高橋文哉さん・西野七瀬さん、なかなか見られない…」映画『少年と犬』を見て感じた“希望”】
文:HBCアナウンサー・佐藤彩
編集:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は取材時(2024年2月)の内容に基づきます