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3.11後に動き出した沖縄「繁多川公民館」 地域の交流と活躍の場が「子どもの将来像」にもプラスに

コクリコ

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」第3弾2回目は「繁多川公民館」(沖縄県那覇市)。同施設をライター・太田美由紀がルポ。

【写真➡】繁多川公民館でみんなが楽しむ「ゆし豆腐」作りを見る

皆さんは、公民館にどんなイメージを持っていますか? 沖縄県那覇市の繁多川(はんたがわ)公民館、若狭(わかさ)公民館は、「私たちが持っている公民館のイメージ」を鮮やかに塗り替えてくれます。第1回では、繁多川公民館にスポットを当て、地域に昔から伝わる豆腐づくりを軸にはじまった地域づくりについてお伝えしました。

第2回は引き続き繁多川公民館。東日本大震災をきっかけに動き出した地域の防災の取り組みについてお伝えし、私たちが暮らす地域の公民館でどんなことができるかを考えます。

東日本大震災が一つのきっかけになった地域の防災

繁多川(はんたがわ)公民館では地域の人の思いから生まれた講座や企画がたくさんあります。中でも2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに立ち上がった講座は、館長の南信乃介(みなみ・しんのすけ)さんの印象に強く残っていると言います。

震災直後、南さんは地域の人に会うたびに何度もこんな声をかけられました。

「何か東北の人たちにできることないかな」
「あの映像を見てたら居ても立ってもいられないよ」

沖縄から遠く離れた東北の震災です。なぜそのように自分ごととして捉えられるのか。南さんはたずねました。すると、こんな声が返ってきました。

「ふるさとが荒れ果てて見る影もなくなってしまう経験を、私たちもしているから」

沖縄戦を生き抜いてきた年配の人たちは、テレビに映る津波の被害を受けた東北の地に、沖縄戦で荒れ果ててしまったふるさとの姿を重ねていました。「今は何ができるかわからないけど、どうしたらいいかを考える場はつくれます」と、南さんはその場で約束しました。

話し合いには、第1回で紹介した豆腐づくり「あたいぐゎープロジェクト」に関わっていたメンバーと、「すぐりむん(優れた人)」が集まることになりました。「すぐりむん」とは、地域でその人の経験や知識を提供する人材として実行委員会で認定された人たちで、人生のロールモデルとして地域の人たちに親しまれています。

新しい公民館のあり方として全国的にも注目されている、繁多川公民館。  写真提供:繁多川公民館

集まった15人と公民館のスタッフは、「畑にあるほうれん草ひと束でもお金に変えて送ろう」「バザーをしよう」と話し合い、震災から3週間後には、義援金集めのために、「あたいぐゎー手作り市」と名付けたチャリティーバザーを開催しました。そして、すべての売り上げを岩手県の宮古市に直接届けることになりました。手作り市はその後も毎年行われています。

「それをきっかけに、防災意識も高まりました。炊き出しを体験する避難訓練をしたり、今でいう自助の力を高めるために地域づくりをしようと、住民同士で街歩きをしながら避難経路を確認したりしたんです」

沖縄の住宅地は入り組んでいます。細い路地や行き止まりが多い地域、独居高齢者が多い地域、あそこの井戸は危ないなどさまざまな課題が見つかります。

行政の防災担当が対策を考えて防災計画を立てる予定でしたが、それよりも早く、調査に協力した地域の人たち自ら対策を考えて、次々に改善がはじまりました。南さんは驚きました。

「危ない井戸はすぐに蓋をしてくれましたし、倒れそうなブロック塀は補強してくださいました。行き止まりの壁がある敷地に住む人は、『壁に穴を開けてみんなが通れるようにすればいいよ』と提案してくれました。

行政主導で防災計画を立て、『お宅の壁に穴を開けてください』とお願いしても、すぐには実現しなかったのではないかと思います。

このエピソードは一つの例ですが、地域の人たちが集まって地域の困りごとを自分たちで調査して、自分ごととして一緒に考えると、自分にできることがあればすぐにでもやりたくなる。そういうことの繰り返しが地域をつくっていくんだと思います」

中高生のボランティア「繁多川公民館おたすけ隊」

子どもたちは、そんな大人のやりとりや行動する姿を見て育ちます。

中高生のボランティア「繁多川公民館おたすけ隊」も大人と対等に意見を述べ、アイデアを出して地域づくりに実際に関わっています。

自治会の依頼でクリスマス会を企画・運営、ガイドボランティア、公民館のもちつき会や高齢者の粗大ゴミを運ぶお手伝いも行います。

多くの地域では、中高生は塾や習いごとに忙しく、このような活動に積極的に参加する人たちは少ないのでは? と疑問を投げかけると、南さんは一つの仕掛けを教えてくれました。

「『おたすけ隊』には、毎年80人前後が手を上げてくれます。エントリーして活動してくれた子には公民館から感謝状やボランティア証明書を学校に出すので、それが評価につながります。

最初はそれらを進学時に使うことを目的としてエントリーする子も当然いますが、大人の話し合いや活動の様子を間近に見たり、自分自身が活動するうちに、やりがいを感じておもしろくなり、繰り返し参加してくれる子、きょうだいや友達を誘ってくれる子もいます。

幼いころから地域の誰かと関わり、自分がやったことで誰かが喜んでくれたなどの実感を持てた子たちは、大人になっても地域でできることはないかなとチャレンジしてくれるようになります。

活動を通して好きなことや得意なことを見つけて、将来の仕事を具体的にイメージするようになっていく子どもたちも多いですね」

公民館でのもちつき会を手伝うおたすけ隊。  写真提供:繁多川公民館

世界遺産・識名園でガイドボランティアをするおたすけ隊。  写真提供:繁多川公民館

おたすけ隊は高齢者の粗大ごみを捨てる手伝いも。  写真提供:繁多川公民館

自分たちの地域をより良くする拠点「公民館」を使いこなす

この取材をするまで、筆者は公民館にあまりいいイメージを持っていませんでした。まさに「スペースを貸してくれるだけの場所」という認識で、子育てしている人や日中働いている人にはあまり縁のないところだと思っていました。

しかし実は、公民館は「社会教育を行う場所」で、「社会教育とは学校教育以外の教育活動」のこと。人が集い、共に学び、社会をつくる場所でした。社会教育法の第20条、公民館の目的には、こう記されています。

公民館は市町村その他の一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もって住民の教養向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

少し難しいので、南さんにわかりやすく説明していただきました。

「公民館は、戦後の民主化が始まったとき、自分たちで自分たちの地域をより良くしていく拠点としてできた仕組みです。

自分たちの考えや発言を、誰かの力を借りながら実現できる場所、地域の未来をつくる最初の一歩を踏み出す場所、民主的な社会をつくる拠点として全国に広がりました。

高齢者、子育て世代、子どもたち、障がいのある人ない人など、さまざまな人たちが分断されてしまっている今、公民館は、地域に住む誰もが目的もなくふらりと立ち寄って、いろんな人と顔見知りになり、違いを認め、語り合ったり、世代を超えて何かを学んだりできる場所──街のリビングになると思っています」

公民館のロビーはまさに街のリビング。その場にたまたま居合わせた人たちが世代を超えて一緒に楽しむ様子も見られる。  写真提供:繁多川公民館

本来は、サービスをする側、される側という境界線もないと南さんは言います。新しい人と出会い、ともに学びあうことで、自分たちで地域たちの住む街をよくしていくことができる。しかも、これだけ全国各地にくまなく設置され、安価で使えるスペースを活用しない手はありません。

「本当は公民館の職員からも住民の皆さんに働きかけてほしいのですが、ぜひ、住民の皆さんの活動に、公民館の職員をうまく巻き込んでほしいと思います。

『今度こんなことをやろうと思っているんですがどう思いますか?』『誰か手伝ってくれる人とつなげてくれませんか?』と声をかけたり、公民館主催のイベントに行って『おもしろいですね。今度こんなアイデアがあるんですけど』などと声をかけたりしてもらえれば、公民館のネットワークや予算を使い、何か共催ができるかもしれません」

公民館でも何か講座を開きたいけれど、どんなニーズがあるかをつかみかねているかもしれません。そうであれば住民からのアプローチは参考になるはずです。

例えば子育てサークルで集まっているなら、スペースを借りるだけでなく、「保育園の先生にお話を聞きたい」「子育ての専門家の人とつながりたい」などと相談すれば、力を貸してくれるはずです。

公民館の数は全国に1万3798館(令和3年度社会教育調査より)。地域によって、生涯学習センター、交流館、地域交流センター、地域センター、コミュニティセンター、区民・市民センターなどと呼び方が異なる場合もあります。

まずは、家の近くの公民館に出かけて、そこのスタッフや職員に話しかけ、信頼関係をつくることから始めてみませんか。いろんな世代の、誰もがふらりと立ち寄れる居心地のいい街のリビング、すでにある公民館の中に、意外と簡単につくることができるかもしれません。

第3回は、同じく那覇市の若狭公民館についてお伝えします。場所は同じ那覇市内ですが、少し違う地域性です。さまざまなアートを取り入れ、クリエイティブな思考を育み、イノベーションを引き起こす公民館のお話です。

取材・文/太田 美由紀

子どもが「自ら学ぶ力」を存分に発揮できる学校とは? 先進的な実践をする全国の学校を取材。教育学者の汐見稔幸(東京大学名誉教授)とライター太田美由紀の共著『学校とは何か 子どもの学びにとって一番大切なこと』(河出書房新書)

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