子どもの「自主学習」 つまずいたときのサポートや親の関わり方は? 現役小学校教師がくわしく解説
桐朋学園桐朋小学校教諭・伊垣尚人先生に聞く、「自主学習」の仕方について。後編はつまずいたときのサポートや、親の関わり方についてお聞きしました。全2回の後編。
現役教師が家庭での「自主学習」の仕方をくわしく解説桐朋学園桐朋小学校・伊垣尚人先生に教えてもらう「自主学習」の取り組み方。後編では、うまく進められない子へのアドバイスや、親の見守り方、また実際にどんなテーマで子どもたちがノートをまとめているのかを教えてもらいました。
(全2回の後編。前編を読む)
つまずいた子には友達からのアドバイスを
──「好きなことをまとめて」と言われてもうまく進められない子もいると思います。つまずいている子に対しては、伊垣先生から何かアドバイスをすることはありますか?
伊垣尚人先生(以下、伊垣先生):自主学習ノートのサンプルは教室に置いてあるので僕から具体的なアドバイスをすることはありません。
ただ前編でもお話ししたとおり、自学は孤独な取り組みになりがちで、モチベーションを維持するのが難しい。慣れるまでは特に、周りとの関わりやコミュニケーションが大事になってきます。
ですので、クラスの友達がやっていることを共有する時間も大切にするようにしています。
友達とお互いにノートを見合ったりすることで「こんなふうにやればいいのか」とわかったり、モチベーションが上がったりしていますね。
僕が声をかけるより、友達にアドバイスをもらうほうが上手くいくことも多いんですよ。得意な子にお師匠さんになってもらうこともよくあります。
「自学ノートは子ども同士で見せ合ったり教え合うことがモチベーションにつながります」(伊垣先生)
伊垣先生:それでも何をやったらいいかわからない子やモチベーションが続かない子には、1週間のカレンダーを作るのも効果的です。
子どもと相談しながら取り組みたいことのメニューを組んで、1週間やってみる。そしてまた相談しながら進めていくのを繰り返します。このカレンダーには保護者の方の確認欄も設けていて、家庭でも見届けてもらうようにしています。
大人は資料探しや本物に触れる体験のサポートを
──親のかかわり方も教えていただきたいと思っていました。親はどのように見守ったり、サポートしたりするのがよいのでしょうか?
伊垣先生:大人がサポートできるのは資料探しです。テーマに適したよい本があれば渡してあげたり、図書館に一緒に行ってあげたり。また、子どもが行ってみたい場所、やってみたいことに付き合ってあげるのもとてもいいと思います。
子どもは本物に触れるとさらにやる気になるので、そういった経験はぜひ大切にしてあげてください。
──忙しい親御さんも多いと思いますが、日々の声掛けで気を付けることはありますか?
伊垣先生:ノートを見て、感想を伝えるだけでもいいと思います。大人はどうしてもノートを“成果物”として評価しがちですが、なぜそういうことに興味を持ったのか、どんなふうに気持ちが動いたのかなど“文脈”や“ストーリー”が反映されているので、そこを丁寧に見るようにしましょう。
その上で、「これは知らなかった!」とか、「これはどういうこと?」など、感想や気になった点を聞いてみてください。
注意点としては、アドバイスできることがたくさんあっても10分の1くらいに留めること! 言いすぎてはいけません。大人も子どもの目線で一緒に楽しむようにしていただければと思います。
何をやってもいい時間から「好き」が見つかる
何をやってもいい時間から「好き」が見つかる
──最初はカレンダーで一緒に取り組んでいたとしても、特に好きなことも調べたいこともない、という子はいませんか?
伊垣先生:いますよ。それでも「何でもいいからやってごらん」と、とりあえず任せることにしています。というのも、何か少しでも興味のあることをやり続けることから「好き」が見つかるからです。
実は僕のクラスでは、毎朝、校内にある自然広場で自由に遊ぶ時間を設けています。その時間に、校内の池で一年中ヤゴ(トンボの幼虫)を捕っている子がいるんです。
なかなか見つけられないギンヤンマのヤゴも20匹くらい集めてくる。その子は決して勉強が得意なほうではなくて、お母さんも「うちの子はヤゴばかり捕って」と心配するほどなのですが、僕はこういう経験こそがとても大切だと思っています。
ひとつのことに興味を持って、没頭して、遊び尽くすことは、学びへと繫がっていくからです。
ほかにも、木登りばかりしている子もいるし、ずっと鬼ごっこをしている子もいます。
もちろん途中で遊びが変わったりもしますが、自分のやりたいことや好きな過ごし方がそれぞれ見つかっていくんですよ。それは、なんでも自由にしていい時間があるからなんですよね。
「今の子どもたちはみんな忙しいですよね」(伊垣先生)
伊垣先生:今の子どもたちは学校生活以外にも、習い事がたくさんあって本当に忙しいですよね。だから「何をやってもいい」という自由な時間を持つのがなかなか難しい。
でも僕は、子どもには「暇だな~」と思うぐらいの時間を過ごしてほしいと思っていて。その暇な時間から、好きが見つかるし、それがその子の個性にもなってきます。
だから自学ノートも、まずは「なんでもいいからやってごらん」、と伝えるようにしていますね。
スライム、インコ、相撲 なんでもあり!
スライム、インコ、相撲 なんでもあり!
「テーマは何でもいいんですよ」(伊垣先生)
──実際に、今の伊垣先生のクラスの子どもたちがどのようなテーマで自主学習ノートを作っているか教えてください。
伊垣先生:スライムが好きで、毎日少しずつ配合を変えてスライム作りの研究をしていた子がいます。スライム作りがひと段落した今はスーパーボール作りにはまっています。下の写真は、調べたことをさらにA3サイズにまとめたものです。
「調べただけでなく、実際に作ってみているのがいいですよね」(伊垣先生)
伊垣先生:どうしてもインコを飼いたくて、親に許可してもらうために一生懸命、生態や飼い方について調べていた子もいます。実際に飼うことになったときは本当に嬉しそうでしたね。
あとはトカゲを飼って卵から孵化させたり、トカゲのエサとなるコオロギの育て方を調べていた子もいます。その子は今、カマキリの研究をしていますが、この先もいろんな生物の研究に広がっていくんじゃないかな。
相撲が好きな子は、星取表をまとめたり、格付けや行司について調べたりと、一年中相撲についてノートに書いています。僕のために相撲クイズを作ってくれたりもして、おかげでずいぶん角界に詳しくなりましたよ(笑)。
以前のクラスでは小説を書いている子もいましたね。一日見開き1ページではおさまらず、2~3週間でノート1冊を使い切っていました。
「おかげでだいぶ相撲に詳しくなりました(笑)」(伊垣先生)。
伊垣先生:1年間の最後には、1年分の自学ノートをまとめて背表紙(厚紙)をつけて製本するのですが、事典のような厚さになるんですよ。毎日の積み重ねがこうして一目でわかる形になると、「これだけがんばったんだ!」という達成感が湧くし自信になるんですよね。
年度の最後に1年分の自学ノートを製本すると事典のような厚さに。
1年間毎日続けることが、子どもの自信や達成感に繫がる。
思いやりの心や失敗を許せる寛容さを
思いやりの心や失敗を許せる寛容さを
──私も見させていただきましたが、ディズニーについて調べていたり、イラストやマンガを描いている子もいましたね。知識や勉強にはつながらなさそうなテーマでもよいということでしょうか?
伊垣先生:自学には、学びに対する主体性が育まれたり、表現力や思考力、まとめる力がつくなどいろいろなメリットがありますが、僕はそもそも何か“能力”を高めるために取り組むものではないと思っています。
これまで日本人は能力主義に縛られてきました。努力して成長し続けることが幸せにつながり、能力で勝ち負けが決まると思わされてきた。事実、社会のあらゆる面で格差が広がっています。どれだけ努力しても常に比較や競争にさらされ、多くの人が生きづらさを抱えています。
そうではなく、子どもたちにはお互いの個性や興味関心を面白がりながら、周りの人と「一緒に生きていく」経験を積んでほしい。食いっぱぐれないように「一人で生きていける力」をつけるのではなく、どんな自分でも、どんな人とでも「一緒に生きていける」ことを学んでほしいんです。
自分を語り、相手を理解する言葉が、互いの持つ「能力」ではなく、「好き」や「大事」だったら、もっと生きやすい社会になり、思いやりの心や、失敗を許せる寛容さも育っていくのではないでしょうか。自学がそのきっかけになったらいいですよね。
何かを学ぶことは遊びの延長だと考えています。「好き」を探究することで、「学ぶって楽しい」「もっと学びたい」と感じてもらえたらうれしいですね。
───◆─────◆───
実際のノートを見せてもらい、伊垣先生のクラスの子どもたちが自主学習を「好き」の延長として楽しみ、学び、成長している様子がうかがえました。
自主学習そのものは一人で進めるものですが、それを共有し合うことでさらに意味のある取り組みになることもわかりました。子どもが興味を持って学んでいることを、大人も一緒に楽しみながら見守っていけるといいですね。
取材・文/北 京子
撮影/森﨑一寿美
自主学習の記事は全2回。
前編を読む。
「子どもの力を引き出す自主学習ノートの作り方」著:伊垣尚人(ナツメ社)
「子どもの力を引き出す自主学習ノート 実践編」著:伊垣尚人(ナツメ社)