発達障害の特性のある孫を育てる“祖父母” 本当はどう思ってる?〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説
発達障害の特性のある子を孫に持つ祖父母への支援について、言語聴覚士・社会福祉士の原哲也先生が解説。前編「祖父母の気持ちや行動」について。
6~9歳児に見られる「中間反抗期」って知ってる?〔アンケート結果〕発達障害や発達特性のあるお子さんと保護者の方の関わりについて、言語聴覚士・社会福祉士であり、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表として、発達障害のお子さんの療育とご家族の支援に長く携わってこられた原哲也先生が解説します。今回は、発達障害の特性のある子どもを孫に持つ「祖父母」について。
発達障害の特性のある孫を持つ「祖父母」の気持ち
今回と次回は、発達障害の特性のある子どもの「祖父母」へのサポートについて皆さんと一緒に考えていきます。
今回はまず、発達障害の特性のある子どもを孫に持つ、祖父母の行動や気持ちについて考えていきましょう。
「孫と祖父母」はお互いよい影響をもたらす関係
祖父母にとって、孫の誕生はさまざまな意味を持ちます。
①孫との関わりという新たなつながりが生まれる
②孫と遊ぶことで祖父母の健康が維持・増進される
③孫と関わることで幸せを感じる
などです。そういった中で孫との関わりは祖父母にとっての大きな生きがいとなることも多いです。また、孫にとっても祖父母の存在は、
①情緒的に安定する
②多様な経験や価値観を知ることができる
③優しさや思いやりが育つ
など、よい影響をもたらすことが多いです。孫と祖父母は互いに幸せを与え合う相手であり、両者の人生において互いに大切にしたい存在なのです。
子どもの特性を目の当たりにした祖父母は?
発達障害の特性のある子どもの場合、彼らとよい関係を築くには、彼らの特性を理解し、彼らに「わかる」方法で働きかけることが必須です。
子どもによって、時に微(かす)かな、逆に時には激しい癇癪(かんしゃく)など、彼ら独特の表現からその子の意図や気持ちをくみ取ることも必要になります。
これは孫と祖父母との関係においても同じです。しかしそのような関わりは両親でも難しく、まして祖父母の多くにとっては至難の業です。
祖父母が、癇癪やこだわりや常同行動や偏食など、発達障害の特性のある子どものさまざまな行動に遭遇したとき、発達障害について知識の少ない祖父母は、このような子どもに育ったのは親の育て方が悪かったのだと考え、両親を非難することが少なくありません。
また、子どもの行動の理由がわからないためにすべてを「わがまま」と考えて、厳しくしかることもあります。
そして、これは発達障害の特性のある子どもの祖父母に限ったことではないですが、孫を極端に甘やかしたり、物を買い与えたりすることでしか孫との関係を作れないことも多くあります。
これらの行動は、祖父母が孫の特性について知らないこと、孫について両親と情報共有が少ないこと、さらに自分の子育ての経験が通用しないことへの混乱などが原因であることが多いです。
こういった祖父母の行動について「どうしたらいいのか?」と我々が両親から相談されることは多いのですが、どうしたらいいか? を考える前提として、まずはこれら、祖父母の行動の原因について知っていただきたいと思います。
祖父母も迷い悩み大きく揺れている
発達障害の特性のある孫を持つ祖父母の方から相談を受けることがよくあります。代表的なものを以下に挙げてみます。
・孫が発達障害なのではないかと思うが、私はどうしたらいいのか?
・自分の孫は発達障害だと思うが、孫の親たちは全く気にしていない。どうしたらいいのか?
・嫁が自閉スペクトラム症の孫にどなってばかりで、孫がかわいそうでしかたない。どうしたらいいのか?
・3歳になっても言葉が出ないが、どうしたらいいか?
発達障害の特性のある子を持つ親と同じように、祖父母の心も大きく揺れ動いていることがよくわかります。わが子でなく孫だからこそ少し客観的に見ることができる、しかし、わが子ではないからこそ、祖父母が事を勝手に進めるわけにはいかない。そのようなジレンマを感じます。
全国の発達障害者支援センターへの質問の調査でも、祖父母からの相談内容は「孫について感じる異常について専門的な意見を求めるもの」がもっとも多く、つぎに「孫のために自分がどのようなことをしてやれるかについて」「孫に対する自分の接し方について」「孫の将来について」であったといいます。
これらは発達障害の特性のある子を孫に持つ祖父母の典型的な心配なのです。
〈参考:今井和夫「発達障害者支援センターにおける祖父母支援─センターへの質問紙調査を通して─」『秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要』第31号,P.61-74,2009〉
祖父母の心情に寄り添う
より具体的に発達障害の特性のある子の祖父母の心情を整理してみましょう。
・混乱した気持ち:診断名を聞いて混乱してしまう
・とまどいやジレンマ:自分は孫に間違った関わりをしてしまわないか。両親に任せておいたほうがいいのではないだろうか。積極的に関わっていいものなのか、やはり一歩引いてみていたほうがいいのか、わからない
・嫌だという気持ち:外出時にパニックになられてしまうと恥ずかしい
・悲しい:孫との幸せな時間を夢に描いていたのに、この子との関係づくりは無理じゃないか
・罪の意識:嫌だとか悲しいとかという気持ちを持ってしまったことへの罪悪感
参考『孫がASD(自閉スペクトラム症)って言われたら?! おじいちゃん・おばあちゃんだからできること』(著:ナンシー・ムクロー、監修:梅永雄二、訳:上田勢子/明石書店)
発達障害の特性のある子の祖父母は、このようにさまざまな気持ちを抱きながら、孫と向き合っているのです。
子育てに大きな役割を担う祖父母が多い
では、現実に祖父母は発達障害の特性のある子どもとどのような形で関わっているのでしょうか。
私の児童発達支援事業所では、親に代わって発達障害特性のある孫の支援をしている祖父母が多くおられます。療育への付き添い、通園施設や学校への送り迎え、親が仕事から帰るまでの孫のケア、ときには、完全に親に代わって子育て全般を担っていることもあります。
発達障害の特性のある子と両親を祖父母が支えている家庭も珍しくないのです。
祖父母のストレスと疲労
祖父母が親に代わって発達障害の特性のある子の支援をしているケースでは、祖父母は多くの人生経験を積んでいるのでさまざまな出来事に対して、より達観してみることができる、両親より時間の余裕があるためゆっくり時間をかけて孫に向き合える、という強みがあります。
しかしだからといって「祖父母なしでは発達障害の特性のある子の支援ができないから、祖父母にどんどん頑張ってもらいましょう」というわけにはいきません。
先ほどご紹介した調査でも、祖父母は発達障害の特性のある子との暮らしの中で、「精神的に大変である」「体力的に大変である」「健康面で大変である」「経済的に大変である」「自身の生活というものがない」「知り合いや友人などから孤立しがちである」などの印象があったとされています。
祖父母もストレスを抱え、大きな疲労を感じながら、時には孤立感を覚えながら、発達障害の特性のある子の実質的な養育者として、必死に毎日を過ごしているのです。
〈参考:今井和夫「発達障害者支援センターにおける祖父母支援─センターへの質問紙調査を通して─」『秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要』第31号,P.61-74,2009〉
最後に
今回は発達障害の特性のある子を孫に持つ祖父母の状況についてお伝えしました。
次回(第19回)は、このような祖父母に対してどのような支援が可能なのかを考えていきたいと思います。
原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。
2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。
著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。
「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著
わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。