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【五感】視覚で楽しむ絵本3選。目で感じる不思議に触れてみよう!

イロハニアート

安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)

お子さんの感覚を豊かに育む方法として、近年注目を集めているアート教育。世界各国の教育現場で実践されている「モンテッソーリ教育」でも、身体の感覚を養うことで、子どもの自発性を伸ばす取り組みが行われています。 アートに触れるファーストステップとして親しみやすい絵本は、お子さんの感受性をさらに高める入り口としてぴったりです。このシリーズでは、「五感で楽しむ絵本」をピックアップし、それぞれの感覚にフォーカスして、アートの視点から解説します。 今回取り上げるのは、視覚の不思議に触れられる3つの絵本。目の錯覚を使ったり、シンプルな色と形に注目したりと、見ることの面白さを教えてくれる作品です。 おもに2・3歳から小学生までを対象とした絵本をご紹介しますので、親子で読み聞かせをしたり、お子さん一人でじっくり観察したりと、様々な楽しみ方ができます。絵本を通して発見を重ねながら、親子で視覚の奥深さを味わってみましょう!

①『ふしぎなえ』—小人たちと錯覚の面白さを体験


安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)

最初にご紹介するのは、3歳から小学校低学年のお子さんにおすすめの『ふしぎなえ』。
表紙の絵を眺めていると、レンガの壁を上る小人たちの姿に違和感を覚えるのではないでしょうか。平らな壁のはずなのに、階段のように見えてきます。

安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)p.4, 5

家の中が描かれたページでは、なんと小人たちが逆さまになっています。絵本の上下を逆にすると、彼らがどのような動きをしているのか、より見えてくるはずです。家という見慣れた風景も、少し視点を変えるだけで、新しい発見に満ちていることを教えてくれます。

作者の安野光雅氏は、日本を代表する絵本作家で、世界各国で愛される名作を生み出しています。細やかな表現と鮮やかな色彩が特徴で、読者が絵をじっくり見て想像を膨らませるという、絵本の新たな魅力を示しました。

安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)p.14, 15

『ふしぎなえ』は、「だまし絵の巨匠」と言われるエッシャーからインスピレーションを受けて誕生しました。目の錯覚を使った独自の表現で、読者を不思議な世界にいざないます。

上のページは、迷路をまっすぐ進んでいると思いきや、途中で上下が逆転してしまいます。
指で道をなぞったり、ページの半分を隠したりすると、どの地点から見え方が変わっているのか謎が解けるでしょう。

安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店(1971年)p.20, 21

蛇腹のカードが登場するページでは、カードが地面についている部分もあれば、トンネルのように小人が行き来している箇所もあります。眺めているうちに、カードが空中に浮かび上がるように見えるはず。常識にとらわれず、空間を自由に感じ取れる作品です。

『ふしぎなえ』には、文字が書かれていないため、集中して絵を眺めたり、「小人たちは何をしているのかな?」など、親子で会話を楽しんだりすることができます。

ページをめくりながら、絵本を逆さまにしたり、絵を半分隠してみたりと、お子さんが能動的に関わりたくなる本作。日常生活とは異なる見え方を通して、新しい発見や自由な発想につながっていくでしょう。

②『視覚ミステリーえほん』—視覚のトリックとその仕組みを楽しく発見


ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)

次に取り上げるのは、小学校低学年から中学生を対象とした『視覚ミステリーえほん』。大人気『ミッケ!』シリーズを手がけるウォルター・ウィック氏の作品です。

『ミッケ!』シリーズでは、手作業で組み立てたセットや、作者自らが制作したドールハウスが登場し、細部まで作り込まれているのが魅力。さらに、光の当て方やカメラの角度を工夫し、見え方のトリックを活かした謎解きを盛り込むなど、視覚の面白さにもこだわっています。

ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)p.6, 7

『視覚ミステリーえほん』では、ウィック氏が巧みに操る錯覚の表現とその仕組みを楽しく解説。まるで手品のように、ものの見え方が鮮やかに変化していきますよ。

たとえば、絵本の最初に登場する紙ねんど。形を押し付けられた部分は凹んでいますが、絵本を逆さまにしてみるとどうでしょう? なんと、くぼんでいたはずが、盛り上がって見えるのです。

ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)p.12, 13

上の写真は、おもちゃが宙に浮かんでいるように思えますが、実は鏡を使ったトリックが使われています。一見すると合成した写真に思えるかもしれませんが、よく観察すると、鏡の上にどのように物が置かれているかが分かり、錯覚の仕組みが理解できるはずです。

ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』あすなろ書房(1999年)p.26, 27

「色紙の階段」は、ウィック氏のテクニックを丁寧に解説しているページです。左右のページで異なるのは、色紙に隙間があるかどうか。少しでも間が空いていると、立体的には見えませんが、ぴったりくっつけると本物の階段のように感じられます。

しかし、いくら立体的に見えても、右側の階段は平面です。今度は、「なぜ平らだと認識できるのか」と一歩進んで考えると、目で捉えた情報をどのように受け取っているのか、より深く知るきっかけになります。

錯覚の仕組みを楽しく学びながら、トリックを見破れるかどうか、親子でチャレンジしてみてくださいね!

▼ウォルター・ウィック氏の「ミッケ!」をアートの視点で楽しむ記事はこちら


③『あかいふうせん』—シンプルな形を観察して広がる想像力


イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)

最後にご紹介するのは、2・3歳の小さなお子さんも楽しめる『あかいふうせん』。赤色の丸い形がページをめくるごとに変化し、「次はどうなるの?」とワクワクする展開の絵本です。

イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)p.6, 7

物語の始まりに登場するのは、子どもが膨らませているフーセンガム。
シンプルな線と形で描かれているため、読者の頭の中で、イメージが自然と広がっていくのが魅力です。「何歳くらいの子どもかな?」「ガムはどんな味かな?」など、親子でコミュニケーションを取ると、お子さんの想像力がさらに広がるでしょう。

イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)p.14, 15

物語が進むと、フーセンガムがリンゴになったり、ちょうちょになったりと、形が変わっていきます。ひとつの赤い丸だったはずが、まったく別のものに見えてくるのが、面白いポイントです。

また、文字がない絵本なので、単純な形から何かを連想したり、他のものに見立てたりして遊ぶこともできます。

イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版(1976年)p.22, 23

作者のイエラ・マリ氏は、デザイナーとしても活躍した絵本作家で、その洗練された表現は高い評価を得ています。

シンプルさだけでなく、登場するモチーフにダイナミックさを与えているのが特徴で、まるでアニメーションのような、生き生きとした動きが見えてきます。

マリ氏は文字のない絵本を作り続け、生命の循環や形態の移り変わりを、ことばに頼らず絵で伝えてきました。親子で一緒にページをめくる時、お子さんがそれぞれのシーンをどのように観察したか、ぜひ耳を傾けてみてくださいね。

見る楽しさから広がる、豊かな感覚の世界


この記事では、視覚をテーマに、3冊の絵本をピックアップしてご紹介しました。目の錯覚やシンプルな形を観察して、見ることの楽しさに触れることができます。

お子さんと一緒に、絵をじっくり眺めたり、ページを逆さにしてみたりと、ぜひ色々な遊び方を試してください。五感を通して発見する喜びが、アートをより身近に感じ、感覚を豊かに育むきっかけになるでしょう。

※本記事の画像は、各出版社に許諾を得た上で、スキャンデータを作成して掲載しています。

《参考文献》
安野光雅 絵『ふしぎなえ』福音館書店、2025年(初版:1971年)
ウォルター・ウィック 写真と文/林田康一 訳『視覚ミステリーえほん』、あすなろ書房、2012年(初版:1999年)
イエラ・マリ作『あかいふうせん』ほるぷ出版、1987年(初版:1976年)
今井良朗編著『絵本とイラストレーション 見えることば、見えないことば』武蔵野美術大学出版局、2014年
絵本学会機関誌編集委員会『絵本BOOKEND 2018 通巻15号』絵本学会、2018年6月

《参考ウェブサイト》
板橋区立美術館「イエラ・マリ展 字のない絵本の世界」(最終確認:2025年10月23日)

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