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「カリスマになれない自分たちは、どう戦うのか」MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』ゲスト:かが屋・加賀翔ーー葛藤や挫折、自問自答を経て辿り着いた二人の現在地とは

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MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』ゲスト:かが屋・加賀翔

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第四十三回目のゲストはかが屋・加賀翔。“音楽”と“お笑い”という互いに別の道を歩んでいる2人だが、今回の対談では両者が共鳴し合っている様が伝わってきた。中でも大きなキーワードは「カリスマになれない自分たちは、どう戦うのか」ということだ。カリスマに憧れながらも、活動を続ける中で「自分はそっち側にはなれない」と悟り、そこから“己の道”を突き進んだアフロと加賀。いろんな葛藤や自問自答を経て、辿り着いた2人の現在地とは?

若手の頃は何にも楽しくなかった!

アフロ:さっきカメラマンの人と機材の話をしてたね。

加賀翔(以下、加賀):そうですね。最近はカメラマンとしてのお仕事も増えまして、今日も朝からザ・パンチさんの写真集を撮っていました。

アフロ:あ、ラジオ(『かが屋の鶴の間』)でも喋ってたね!

加賀:すごっ! 知ってくださってるんですか!

アフロ:『THE SECOND ~漫才トーナメント~』の写真も撮ったんでしょ?

加賀:そうなんですよ。去年、準優勝をされたマシンガンズさんがザ・パンチさんに「撮ってもらいなよ」と言ってくれた流れで、僕がカメラマンを務めることになって。

アフロ:芸人さんって画になる人が多いよね。

加賀:ただカッコいいだけじゃなくて、いろんなことを経た渋みがありますよね。

アフロ:この前、モグライダーの芝(大輔)さんと飲んでいた時に言ってくれたことがあって。「MCもできるし、ネタもちゃんとやっているのに何で売れないんだろう」みたいな小言を売れてない頃、友人にこぼしたら「だって、お前は“人間活動”をまともにしてないじゃん」と言われたらしい。普通の人は朝早くに起きて、通勤電車に揺られながら決まった時間に出社して、やりたくない業務もやる。そうやって頑張っている人は顔に出るんだ、と。「お前は芸人としてはすごいかもしれないけど、人としての説得力がない」「おぎやはぎの2人はそのプロなんだよ」って話をされたんだって。

加賀:うわ! めっちゃいい話ですね。

アフロ:そう思うとザ・パンチさんがいい表情をできないわけがない、というか。

加賀:本当にそう。渋谷の街角でポールに腰掛けているだけでも、「今日までいろんなことがあったんだろうな」と想像させられるんですよ。お二人とも3歳のお子さんがいるんですって。パパとしてのすごみもあるし、芸人としてのすごみもある。なんか……人間の厚みを感じましたね。

アフロ:『THE SECOND』の話をするとさ、ザ・パンチさんは初めて『M-1』の決勝に出られた時のフレーズを今回の決勝で繰り出したじゃない? あの瞬間にすごいドラマを感じたよね。

加賀:(パンチ)浜崎さんは事前に知らなかったらしいですね。「砂漠でラクダに逃げられて」のフレーズを言うかもしれないけど、どこで(ノーパンチ)松尾さんが言うのかわからないままステージに上がられた。3本目でそんなことをするなんて変態ですよね。

アフロ:HIPHOPには、自分が書いた過去曲のフレーズを新曲でもう一回出す“セルフサンプリング”という手法があるのね。ただ、出しどころが難しくて。昔の曲の輝きを改めて使うのって見え方によっては、カッコ悪く映りかねない。でもザ・パンチさんの使い所は寸分の狂いもなくて、全国民がしびれたよね。
加賀:勝ち進んだ上で使うからいいんですよね。決勝という大事な局面で伝家の宝刀を抜いた瞬間に、芸人たちは「うわぁー!!!」と爆沸きしていて。カッコよかったし、やっぱりいろんなものが凝縮されていましたね。だって結成27年目ですよ。麒麟さんとほぼ同期で、ずっと一緒にやっていたらしいんです。昔は『レッドカーペット』とかテレビに出る時にめちゃくちゃ緊張して楽しめなかったけど、今は友達(麒麟・川島明)が帯番組をやっているから楽しいしラクだ、と言っていて。長く続けていると、そういう良さが生まれますよね。僕も若手の頃は全然楽しくなくて、何にも楽しくなかった!

アフロ:ハハハ、そこまで強調するほどだ。
加賀:僕は最初によしもとのNSC大阪校に入りまして、そこで一度芸人を辞めているんです。芸人になろうと誘ってくれた子がバックれちゃったので、つまらなくなって辞めたら、親から「家には帰ってくるな」と言われて。仕方なく大阪から東京に行って、ピンで芸人をやりつつバイトをふらふらしていたら、なんとか奇跡的にコンビを組めましたけど……芸人を始めて5、6年は少しも楽しくなかったです。
アフロ:楽しくないっていうのは?
加賀:大きな理由はお金ですね。必死にバイトして稼いだなけなしの金で年金やら税金やらを払ったら、ほとんど残らない。もう意味がわからなくて「なんじゃこれ?」みたいな。人を笑わせるどころじゃないよ、って。まともに生活ができていないし、当時付き合っていた彼女のご両親からは「結婚するんだったら芸人は辞めてくださいね。ましてやお金を稼いでいないなら、なおさらです」みたいに言われていたんです。ようやくテレビに出られたと思ったら、ギャラを全然もらえない。それを相談する先輩もいなくて、しばらくはキツかったですね。

お笑いの道も途中で辞めたら、もう何もできんで

アフロ:今、気になっていた2つのことが紐解けたよ。俺が初めてかが屋を知ったのは『あらびき団』で、年金のネタに度肝を抜かれたの。あのネタは実際に苦しい生活の中で税金を払っていたからこそ生まれたんだね。
加賀:そうなんです。「こんなにお金を払わなきゃいけないの?」「それだったら自分のおばあちゃんに直接お金を渡すけどな」と思ったんですよ。それで、おばあちゃんにお金を渡すネタを考えたんですけど、いろんなことがあって年金とか身近なものをテーマにした。そしたら『あらびき団』以降、今起きる出来事を取り上げる“時事ネタ・コント師”という触れ込みでネタ番組に呼ばれたりして。あの時期は困りましたね。たまたま時事ネタっぽくなっただけなので。
アフロ:世間がどうこうじゃなくて、目の前にあった自分の問題をネタにしたからね。
加賀:そう! 自分の中では時事でも何でもなかったんですよ。
アフロ:もう1つ紐解けたのは、なんで同期や仲の良い芸人が賞レースで活躍しているのを素直に応援できるんだろう?と不思議だったのね。ミュージシャン同士では考えられないんだよ。「ふざけんなよ! なんで、あいつらなんだよ!」みたいな気持ちになっちゃう。

加賀:言わんとすることはわかりますよ。芸人の中にも妬みや嫉み側の人達もいますし、僕も全くないわけじゃないですから。

アフロ:でも同期とか仲間が売れてくれると、自分もやりやすくなる。だから応援できるんだね。

加賀:そうなんです。それと元々お笑いファンから始まっているので、好きな芸人や友達に対しても「うわ、『M-1』に出てる!」と素直に応援できるんです。あと「ああ悔しい!」って感情は、めっちゃ面白い人達の方が強いと思います。面白い人たちは「クソが!」とよく言ってますね。
アフロ:かが屋もめっちゃ面白いじゃん。
加賀:いや、僕は面白い側じゃなかったんです。学校でもスベっていたし、自分がお笑いをやるとも思っていなくて。将来は文章を書く仕事がしたかったんですけど、その才能がなかったんですよ。どうしようと思っていたら、たまたま同級生が芸人に誘ってくれたのでこっちの業界に入ることになって。その誘ってくれた感じも憧れの範疇というか、「友達が誘ってくれたからお笑いやってます」みたいな人がいるじゃないですか? 自分もそれだなって。
アフロ:姉ちゃんがジャニーズ(現・STARTO ENTERTAINMENT)に履歴書を勝手に送って気付いたら事務所にいました、みたいな。望んでないのに周りが道を作ってくれるタイプだ。
加賀:俺もそういうことなのかと思いつつ、いざNSCに入ったら同じような奴らが300人ぐらいいたんですね。で、半年も経たないうちに辞めちゃって、授業も数えるぐらいしか行かなかった。
アフロ:相方が辞めちゃったからだよね?
加賀:もう1つ大きな理由があって。同じ授業を受けている生徒の中に、ゆりやん(レトリィバァ)がいたんですよ。当時からすさまじくて! 本当に生徒全員が泡を吹いて倒れるぐらい面白かった。「無理無理! もう次元が違う! プロになったらこんな奴がゴロゴロいると思ったら、俺に芸人はできないや」って。ゆりやんが強すぎたのもあるんですけど、素人だからそんな人しかいないと思っちゃうじゃないですか。それで芸人は無理だと思って、授業に行かなくなりましたね。
アフロ:心を打ち砕かれてもなお、芸人を続けたのはどうして?
加賀:ウチのおかんに「帰ってくるな」と言われて。
アフロ:ハハハ、そこに繋がるんだ!

加賀:僕が高校を中退してるのもあって「こんな短いスパンで2回も中退する奴がおるか!お笑いの道も途中で辞めたら、もう何もできんで」「いっぺんぐらい燃え尽きるまでやれ!」「芸人を続けないんやったら家には絶対あげへん」って怒られたんです。家に戻る選択肢が断たれたその頃、大阪に漫才劇場ができる噂が流れて。僕はコントしかできないと思っていたし、「関西弁で漫才しないと認められない」みたいな大阪特有の雰囲気が怖かったので、お金はないけど東京でコントやろう、と。そしたら大阪の同期が僕のピンネタを見て「お前とコンビを組みたい」と言ってくれたんです。でも、僕は東京へ行くことが決まっているじゃないですか。そしたら「1年間お金を貯めて追いかけるから、先に東京で待っててくれ」と言われて。その約束を信じて、東京でただただバイトだけしていたんですよ。で、1年後に連絡が来て「ごめん、やっぱり俺はお笑いを辞める」と。やばい! どうしようってなっていた時に、バイト先のコンビニで賀屋(壮也)と出会うんです。コンビニの夜勤と昼勤が仲良くなるなんて、普通はありえないことなんですけど、なぜか仲良くなって。賀屋は放送作家志望だったので、お笑いを目指してる奴に近づいた方がいいだろうってことで、僕に声をかけて。そこから一緒にご飯を食べたり、どこかに行ったりして。「ネタを書いたから、1回試しにやってみよう」となって、それで引くに引けなくなったんです。お金もないし、本当にお笑いをやるしかなくなった。

親父も破天荒な人だったから、これは絶対にロックスターになるコースやんって

アフロ:「家に帰ってくるな」と言った時、お母さんはどんな気持ちだったのか聞いたことはある?
加賀:「あの時はホンマに胸が痛かったわ。でも、あそこで言わんかったらしゃあないと思った」って。オカンも心苦しかったみたいです。今は鼻高々そうですけど。
アフロ:「私があの時に突き放さなかったら、あの子はあそこまで行ってへんのや」っていうね。
加賀:「『キングオブコント』に出たんよ」と周りの人に自慢して、すごい喜んでくれましたね。
アフロ:やっぱり“強制力”って大事だよね。辞めさせてもらえないとか、学校へ無理やり通わされるとかさ。本人の意志を無視して強引に引っ張るのは今の時代にそぐわないんじゃないか、という声もあるでしょ? でも、無理くりやらされる中で得られるものってあるよね。
加賀:うん、ありますよね。僕は高校2年生の頭に学校を辞めているんですけど、本当に何もしていなかったんですよ。朝から晩までゲームをして、大好きなTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTのライブDVDを一日中ずっと観て。そんな奴がおかんに怒られて、言い返す気力もないというか。あんなに飯を作ってもらって面倒も見てもらったから、「芸人を辞めるな」と言われて「いや、辞める!」とは言えなかったですね。もう迷惑をかけられないなって。
アフロ:その鬱屈した生活の中にミッシェルは似合わなくない?
加賀:ハハハ、全然似合わないですよね。
アフロ:それでもライブ映像を観続けたことで、ミッシェルの“やってやれ”というエネルギーが蓄積されていたからその後も頑張れたのか、それともミッシェルの音楽はダメな自分を許してくれる存在だったのか、それはどっちなの?
加賀:いや、どっちでもないんですよ。
アフロ:ただただ、カッコいいっていう?
加賀:ですね。詩集『ビート』も持っていますし、歌も大好きなんですよ。でも、それ以上にミッシェルのギターが好きなんです。だからメッセージ性がどうこうではなく、純粋にカッコいいなって。あとはBLANKEY JET CITY、NUMBER GIRLもずっと聴いていて。ブランキーの「3104丁目のDANCE HALLに足を向けろ」の歌詞とか、10代の僕にはわからなかったけど、あのエネルギーの表出に憧れた。でも、自分には音楽の才能がなかったんです。当時働いていた八百屋の店主がめちゃめちゃ音楽好きで、僕が高校を辞めたと同時に50枚くらいCDを持ってきて。ザ・ビートルズから、聴いたことのないようなパンクとかもあって。「これを全部聴け」「俺がギターを教えてやる」と言われて。同時期にギターをもらったり、友達のお父さんが親父バンドを辞めるからって、大きいマーシャルのアンプをもらえたり。山奥の田舎だから騒音を気にしなくていいし、ギターを教えてくれる人もいて。親父も破天荒な人だったから、これは絶対にロックスターになるコースやん、と。
アフロ:できすぎた物語だもんね。
加賀:なんですけど、めっちゃ才能がなかった。
アフロ・加賀:アハハハ!

「MOROHAを聴いて何も感じない奴はクソだ」みたいな声が出始めた時に、


これは宗教になりつつあると思った

加賀:僕、初めてMOROHAを聴いた日のことを鮮明に覚えていて。コンビを組んで2年目のある日、古本屋の閉店セールのチラシを見て、バスを乗り継いで行こうと思ったんです。拝島町に向かう車内で、たまたまイヤホンからMOROHAの曲が流れてきて、「めっちゃ不思議な音楽だな」と思ったのも束の間「何だ、このすさまじいエネルギーは……」と思って気づいたらバスを降りていました。「漫画を買いに行こうじゃなくて、お前もペンを持て」と言われてる気がして、すげえ刺さったんですよ。全然知らないところで降りたので、反対側のバス停に行って。頭がカーッとなりながら、本数が少ないから何もすることがないまま、引き返すバスを待つしかなかったんですけど。
アフロ:鼻息を荒くしてバス停に立っていたんだ。
加賀:携帯に何かしらメモをすればいいんですけど、そうじゃないなって。俺も今すぐペンを持ちたいと思って。
アフロ:すごいなぁ、それはめちゃくちゃ嬉しい。
加賀:あの時、MOROHAを聴いて刺さった芸人がめちゃくちゃいて。同時多発的にみんなが偶然出会ってるんですよ。誰かに勧められたとかじゃなくて、それぞれが出会ってる。MOROHAの音楽は他人に勧められて聴くものじゃないって感じも、ちょっとあるのかもしれない。2人組なのも羨ましかったですし、憧れましたね。
アフロ:それに近い話で言うと、俺は3週間ぐらい前に落ち込むことがあってさ。かが屋のいろんな種類のレッドブルを試すコントを観て、ものすごく元気をもらったのね。だから、別の場所でお互いの表現に“救われている”のはすごく嬉しい。今回はツーマンをやらせてもらうでしょ? 俺はMOROHAで「生きるとは?」「勝つとは?」という極論を歌い続けて15年が経った。でも自分自身のキャラクターは、そこだけじゃない。もっと俺の全部の性格を使って、みんなに好きになってもらいたいと思ったんだ。
加賀:何かキッカケがあったんですか?
アフロ:ここ数年は、俺らに対するお客の見方がどんどん固定されていって。特にマズいなと思ったのは「MOROHAを聴いて何も感じない奴はクソだ」みたいな声が出始めた時に、これは宗教になりつつあるなって。ということは、俺が神様をやらなきゃいけないわけでしょ? その強度は自分にないわけ。
加賀:え、そうなんですか?
アフロ:ミッシェルのチバ(ユウスケ)さんは、神様のまま生きたじゃん。それができる人はいいんだけど、俺がやろうとすると絶対に不幸になるし、無理だなと思った時に「もう1回、MOROHAの見方を提示しなきゃいけない」と感じたのね。そこでツーマンの相手としてふさわしいのが、芸人さんだと思った。芸人さんって新しい角度を見つける天才じゃない?
加賀:それぞれが独自の視点を持っていますからね。
アフロ:2マンツアーを通してお客に「こんな角度でMOROHAを見てもらってもいいし、俺たちはこういう人たちの表現をいいと思っているんだ」と提示することで、地に足をつけようと思った。だから今、俺らは芸人さんに救われてる最中なんだ。

僕はお金を稼ぎたい。お金がないと生きていけない。


それなのに、なんで負い目を感じるんだろう!?

加賀:アフロさんとお会いして、ここまでお笑いに愛があるのかってビックリしました。最初はもっと怖い人だと思っていましたね。
アフロ:そこが15年やってきた中で、宗教になりつつあったMOROHA像だよね。それを負の遺産と言い切っちゃうと悲しいけれど。
加賀:いや、そのエネルギーは絶対に必要だったと思います。イメージと実像との振り幅があるから、みんなが「あの人、本当はめっちゃオモロいぞ」となりましたもん。この前、芸人の飲み会に初めてアフロさんが来ることになって。初対面の人が多かった中、鉄板なんだろうなってトークを炸裂されて。
アフロ:いやいや、恥ずかしいわ!
加賀:その話がめちゃくちゃ面白かったんですよ。フェスの会場で周りになめられないようにしてるとか、アフロさんの人間味や可愛げを感じました。主演映画『さよなら ほやマン』の公開前には、「○○さんのSNSをご覧の皆さん!」という告知動画を先輩・友人・知人の一人ひとりに送ったりとか「いや、こんなに熱いかね!?」って。その一挙手一投足が胸を打つし、本当に人間臭すぎるんですよ。こんなに剥き出しで、よく人間味の部分がバレずにきましたよね。全部に一生懸命じゃないですか。ナレーションの仕事も素晴らしいと思いますし。
アフロ:俺はお金にコンプレックスがあってさ、金を稼がないと戻りたくない場所に戻らなきゃいけない恐怖心がすごくあるの。それこそ神様になれる人間は、ナレーションのような畑違いの仕事はしないでミュージシャン一本でやるんだよ。でも、俺はどうしても金が欲しかったから、ナレーションをやることにしたのね。それによって神様の要素が1つ削がれて、俺に神様をやってほしいお客はそこで離れていったわけ。その背中を見て「自分らしい道を進んだことで、もう神様になる選択肢はなくなったんだな」と思ったんだよね。そこから可愛げを出す準備とかが、俺の中では始まったんだ。
加賀:ずっと悩んでいたことが腑に落ちました! 僕もお金にコンプレックスがあるんです。実家がめっちゃ貧乏で、晩御飯に僕だけオムライスを食べさせてもらって、おかんは豆腐1丁のみを食べていた。もう、あの生活に戻りたくない。だから「何でもやります! プライドも何もないです!」みたいなスタンスでいて。僕が写真の仕事をしていると「おっぱいばっかり撮ってスケベだな!」と結構言われるんです。でも、そんなの関係ないからって。お金を稼いで生活する。「自分の生活を守るために生きていく」が僕の軸にはある。ランジャタイさんとか真空ジェシカさんとか、身近な先輩はお金に全く頓着しない。国崎(和也)さんなんて、『ガキ使』(『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』)で自ら全財産を使うボケをした結果、借金をすることになった。でも笑いになるなら関係ないっていう。本当はそっちがカッコいいんですよ。僕もそういうロックな生き方に憧れるけど、自分にはできない。僕はお金を稼ぎたい。お金がないと生きていけない。それなのに、なんで負い目を感じるんだろう!? 「お金を稼ぎたい」って絶対に正しいはずなのに。その悩みを共有できる人や言語化してくれる人がいなかったけど、やっと今腑に落ちました!
アフロ:俺らの「お金が欲しい」というのは、ラッパーが言うメイクマネーとは違うよね。市井の人の「お金がなくちゃ」に近いと思うんだ。故に一般的な暮らしに寄り添えるラッパーになれた気がするね。やりたくないこともする。その中で消費されない唯一の方法は、“やらされているんじゃなくて、自分からやりに行ってるんだな”とお客に伝えることだと思うんだ。何をやってもいい。でもやらされているって少しでも感じさせちゃったら、もう終わりだと思う。俺は「世界一のCMナレーションをするんだ」という気持ちでいるし、そっちに振り切ると傷つかない。これは自分の願望かもしれないけど、畑違いのことでも本気でやればラッパーとしての新しい何かが提示できるんじゃないか、と思う。かが屋のコントにシャインマスカットのネタがあるじゃん。アレも貧乏だった背景が活きているよね。「お金を絶対に稼げなきゃいけない」っていう自分の軸を忘れていないからこそ、あのネタが引きずり出せるというかさ。それぞれ持ってる武器が違うだけ、って感じがするね。
加賀:憧れますけどね。
アフロ:憧れちゃうよ、わかるわかる。

加賀:それで言うと、僕に憧れてる後輩もいるらしいんですよ。すごいなと思って。
アフロ:ハハハ、そりゃあいるでしょ。
加賀:この前、人力舎の後輩・キャプテンバイソンの単独ライブに招待してもらったんです。僕はどの現場でもカメラを持ち歩いてて、配信ライブもやると言っていたので「写真を撮って告知してあげよう」と思ってカメラを構えたんです。いつも写真を撮る時は、掛け声で「次は鏡越しをいただきます、3、2、1……はいオッケー! いただきましたぁー!」ってハイテンションで言うんです。明るくしないと、と思ってカメラマンのキャラになる。
アフロ:キャラを降ろすのは大事だよね。

加賀:そしたらライブの手伝いをしていた人力舎1年目の子が「加賀さんって、今こんな感じなんですか……?」と絶望した顔をしていて。「『あらびき団』で観た、カッコいいかが屋はもういないんだ」みたいに落胆してるのを見て、心の中で「ごめんね、でもこれが俺なんだよ」と思いましたね。憧れられるってとてもいいことだけど、同時に生の声を聞くと怖いなって。
アフロ:相手の期待に応えるとしたら、クスリとも笑わず、ずっと腕を組んで舞台を観るとか。ネタがつまらなかったら何も喋らず帰るとかさ、そういうことでしょ?

加賀:難しいですね。僕は他人のネタでめっちゃ笑うし、「面白いよ!」と素直に言っちゃいますから。

アフロ:昔は「他の芸人のネタを笑ったら負け」という風潮があったじゃん。俺らも先に相手のミュージシャンを褒めたら負け、って暗黙の了解があった。アレは何だったんだろうね?
加賀:『オンバト』(『爆笑オンエアバトル』)とか、バチバチ世代の先輩から当時の話を聞くと「あいつらのネタで絶対に笑うなよ」と言っていたらしいですね。
アフロ:先輩は優しかった?
加賀:優しかったですよ。僕ら2年間はずっとスベっていたんです。4年目くらいに初めてウケたのがマセキの事務所ライブで、その様子がYouTubeに上がりまして。それを先輩が「かが屋のネタが面白いから見てくれ」と拡散してくれて。ライブシーンで話題にしてもらったことで、一気に風向きが変わりましたね。
アフロ:俺の場合は、優しい先輩のすごさに時間をかけて気付いたんだよ。若い頃、俺らなんか大したことなかったのに「お前らいいよ、才能あるよ」と言ってくれた先輩がいて。その時は「当たり前だろ」ぐらいに思っていたんだけど、今考えると褒めてくれていたわけじゃなくて、ただのエールなんだよね。いつも横で「MOROHAめっちゃいいよ」と支えてくれた人がいなかったら100%辞めていたのに、その先輩の優しさを軽く見ちゃうところがあった。逆に、評論家みたいな顔をしてる奴から「お前らよかったぞ」とボソッとに褒められた時の方が嬉しいんだよね。そんな自分の感覚にすごく腹が立つんだ。
加賀:ウエストランドの井口(浩之)さんに舞台袖で「面白かったよ」と言われた時、思わず「い、井口さん!!!」ってなりました。仲はいいんですけど、普段は「全然面白くないよ!」「なんだよ、どいつもこいつもカッコつけて」って、ずっと言っているんですけど、ライブの合間にふと「面白かったね」と言われたら嬉しくなっちゃう。
アフロ:井口さんみたいに素でそれなら全然いいし、俺もそういう人は大好きだよ。でも人心掌握術としてやる奴がいるんだよ! かつての俺がそう!
加賀:アハハハ!
アフロ:「俺は簡単には認めないぞ」みたいな不機嫌な顔をしてさ、この不機嫌さを通ることが才能の証明だ、みたいなクソ痛い自分がいたの。そういう人に対して中指を立てるのが本来の自分なのに、ミイラ取りがミイラになっていた。嬉しかったんだろうね、才能あると思ってもらえたことが。一昔前のカリスマと呼ばれる人ってニコリともしないし、ぶっきらぼうだし、「批評性がありますよ」っていうぎらついた目をしていた。それがイコール才能みたいなさ。そうじゃないところに行きたいと思った時に、自分がそこに憧れたことにも気づいたり、やってきたことの浅ましさにも気づいたりして。

“貧乏性”になった生い立ちに感謝だよね

加賀:すごいなぁ……。それだけ繊細じゃないと、あの歌詞は書けないですよね。繊細じゃないと書けないことしか書いていない。
アフロ:同じことを思うよ。
加賀:ハハハ、僕はだいぶ大雑把になりましたけどね。
アフロ:それは顔つきにも出てる気がする。『あらびき団』の時は、この人は神経質だろうなと思った。
加賀:わかります、パキパキの目をしてますよね。あの頃は単純に売れてなかったし、うまく喋れないし前へ出れないし、声も小さいとバカにされていて。準備したものでしか戦えなかったから、もうネタしかないって状況だったんです。『あらびき団』とか『ネタパレ』の頃の映像は、恥ずかしくて観れないですね。
アフロ:目がパキパキすぎて?
加賀:ですね。ウケなきゃ死ぬと思っていたし、ウケなきゃ昔に逆戻りだったので、スベった日はめちゃくちゃ落ち込んで帰りました。当時は夜のコンビニとカラオケでアルバイトをしていて。そのカラオケ屋は大学3校から近いところにあって、よくない飲み方する大学生が40人ぐらい来るんですよ。でっかいパーティールームで騒ぎまくって、酒でベロベロになった大学生がドリンクバーでゲロを吐いて。机に飲み物をこぼしたら「おい、雑巾持ってこいよ」と言われて。雑巾だけじゃ足りないので、おしぼりも大量に持って行って渡すんです。そしたら年下の兄ちゃんに「お疲れぇ~〜!」って、酒を拭いたおしぼりでブワーって顔を拭かれて。「やめなよ~」って隣の女子大生に笑われて。ちくしょう……絶対に売れてやるからな、と思いながらその出来事をメモして。
アフロ:そうして恨みを綴ったメモがネタ帳になっていくのか。その時期って相方との関係はどうだったの?
加賀:相方は大学に通いながら教員免許も取ろうとしていて。芸人で売れなくても将来安泰だったんですよ。しかも、あいつの実家は駐車場を持っていて、毎月4万ぐらい入ってくるんです。それで家賃を全額払ってもらってるから、焦りのかけらもなくて。「もっと焦ろう! 1人しか笑っていないし、このままじゃマジでやばいよ」と言ったら「いいじゃん、1人でも笑ってくれたら」って。「それも大事なんだけど、そういうことじゃないよ!」と。あいつは昔から余裕があったんですよ。
アフロ:もしも2人が同じぐらいストイックだったら、上手くいかなかったのかな?
加賀:どうでしょう? 同じくらいストイックなコンビって、あまり聞いたことがないですね。
アフロ:一時期は月に100本もネタ作りをしていたんでしょ?
加賀:それはストイックとかじゃないんですよ。当時は喫茶店で働いていたんですけど、僕はめちゃくちゃ真面目に働くので鍵を渡されされていて。お店は朝7時オープンなんですね。でも僕は朝5時半くらいにお店に着いて、勝手にコーヒーを淹れてタバコを吸いながらずっとネタを書いていたんです。お店がオープンしてもずっとネタを書いてるから「加賀さん、今お金をもらいながら働いてる自覚はあります?」って声優を目指してる女性の後輩アルバイトの子から言われて。謝りながら即座にそれをメモして。
アフロ:「よし、ネタにしよう」ってね。
加賀:それでさらにブチ切れられて。僕が喫茶店で働いていたのは、そこがチェーン店だったからなんです。社員割で飲めたんですよね。劇場の近くに系列店が多かったので、バイトが終わった後も同じ系列の喫茶店でネタを書いて。まあ……ちょっとでも元を取ろうという貧乏性ですね。貧乏性が高じて、気づいたら月100本を目標にしていました。
アフロ:コーン茶のフレーズが登場するネタがあるじゃん? コーン茶って恋愛モノにも活かせるし、ネタの切り口としては最高の発見なんだよね。居酒屋に行くとウーロン茶やジャスミン茶はあるけど、コーン茶ってあんまりない。それがメニューにあった時の喜びたるや。みんなコーン茶の魅力を知ってるんだけど、まだテーブルに上げていない。これが「君が好きだったウーロン茶」だと普通なんだけど、「君が好きだったコーン茶」って言われた瞬間に、聴き手が自分の中で一気に想像を膨らませられる。
加賀:わかる!って思いますよね。僕も含めて一定数は刺さる人がいるんですよね。
アフロ:そういう日常のパーツを拾い続ける上で、貧乏性は活きてくるよね。芸のためになるバイトを選ばなきゃダメだし。俺は漫画喫茶でアルバイトをしていたんだけど、理由はバックルームで歌詞を書きながら言葉に詰まったら書物からヒントをもらえる環境なのと、突然「明日ライブして」と言われても対応できるように夜勤を選んだ。全部、自分のやるべきことが軸にあって、金を稼ぎながらも音楽のためになるパーツをひとつも漏らしたくない。なぜ、そうするのかと言ったら“貧乏性”だから。これは生い立ちに感謝だよね。

ずっと憧れで頑張ってきたのが、初めて少しだけ肩の荷が降りたんです

加賀:アフロさんって、すごくちゃんとしてますよね。
アフロ:俺もすごい奴はいっぱい見てきた自覚はある。そうじゃない自分は、やっぱり必死にならないと人前に立たせてもらえない。だってお笑いとか音楽の仕事って、別になくても人間は暮らせるわけじゃん。100人の村があったとして、家を作る人、病気を治す人、ご飯を作る人がいる中でさ「俺はみんなに笑いを提供します」って奴がいたら、きっと相当なことを求められるじゃない?
加賀:ご飯を作りながらでも、お笑いはできますからね。
アフロ:うん、でもそれしかやりたくないわけじゃん。俺も「みんなのために音楽をやります」と言ったら、他のやつらは飯を作って命に関わることやってるのに「お前は歌うだけなの?」って。それで周囲を納得させなきゃいけないってことは、相当ちゃんとしなきゃいけないよなって日々思う。
加賀:今は兼業する人も増えてきたじゃないですか。「普段は会社員をやってますけど、週末はバンドマンをしてます」とか。それでちゃんとすごいっていう。僕らの先輩達がちゃんと道を作ってきたから、そのカウンターがカッコよく見えるわけで。その狭間にいる人間の頑張りも認めてもらいたいですよね。
アフロ:それは追求したいテーマだね。前に、自分の中でこれは芯を食ったと思ったMCがあって。その頃、すでに俺らは音楽だけで飯が食えるようになっていて、社会人バンドと対バンをすることになったのね。先攻の社会人バンドがライブ中に「あいつらは音楽だけで飯を食ってる。俺達は才能がないから、一生懸命働きながら音楽をやってる。そんな俺達でも、こんな音楽が鳴らせるんだ! 聴いてくれ、これは敗者の音楽だ!」と言ったんだ。もちろん盛り上がるじゃん。お客も「うわぁぁ! 頑張れー!」みたいな応援ムードになって。その後に俺らが出ていくわけよ、やりづらいよね。
加賀:めちゃめちゃやりづらいですね。
アフロ:俺がステージ上で言ったのは「いや、才能があるのは向こうだろ? 1週間の半分以上も会社に渡して、それでも人様の前で音楽ができてるってことでしょ? 俺は全BETしないとみんなの前でやれるような音楽ができないんだ」って。自分で言いながら「本当にそうだし、 “あいつらより”みたいな感覚ではなくて、お互いが自分のスタンスに誇りを持つべきだな」と感じた。

加賀:そのMCにお客さんは湧きましたよね?
アフロ:でも、いいことを言おうとした時って噛むよね。
アフロ・加賀:ハハハハ!

加賀:それって大事ですけどね。スラスラ言えるカッコよさもありますけど、噛んでるってなんで許せちゃうんだろうと思うんですよ。「今、噛んだ」って誰でも揚げ足を取れるじゃないですか。その瞬間、急に刺さる。
アフロ:親近感みたいなこと?
加賀:親近感が湧くから、本当に言ってくれてるんだなって気がする。噛まないカッコよさもありますけね。『SUMMER SONIC』でTHA BLUE HERBが10分くらいバーっと喋ったステージとか。
アフロ:「ILL-BEATNIK」だ。アレは俺の中で大きな分岐点でさ、ああいうことができないんだったら別の良さを見つけるしかないっていう。だから諦めさせてくれた人達にリスペクトだよね。
加賀:諦めさせてくれた人は、僕もたくさんいますね。ゆりやんもそうですし、ジャルジャルさん、シソンヌさん、バナナマンさんとか、男性ブランコさん、ロングコートダディさんとか、挙げればキリがないくらい強い人たちがいて。距離が近づけば近づくほど離れていくというか。勉強すればするほど自分にできないことがわかっていくので、全然近づけない。そんな中、周りから僕らのネタに関して「日常のこんなことに誰も気づかないし、着目しないよ」と言われて。ずっと憧れで頑張ってきたのが、初めて少しだけ肩の荷が降りたんです。「コーン茶でネタを作らないよ」とか「シャインマスカットの値段が高いとかで、ネタを作らないよ」と言われた時に、僕は当たり前にネタになるだろうと思っていたところが、他の人から見たら違っているんだと知って。そこから自分の当たり前に思ってることや、自分のできないところもプラスに捉えられるようになりました。うまく突っ込めないとか、ボケれないとか、途中で噛んだりとか、声が出ないとか……そういうことをちゃんとネタにしていこうって、ようやく思えるようになりました。もうすぐ10年目になるんですけど、やっと辿り着きましたね。

取材・文=真貝 聡 撮影=森好弘

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