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土の下から聞こえて来るG線上のアリア/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(73)【千葉県八街市】

田舎暮らしの本

土の下から聞こえて来るG線上のアリア/自給自足を夢見て脱サラ農家40年(73)【千葉県八街市】

バッハが好き
激しく弾む音
テンポの速い音楽
それが子どもの頃から苦手
で、恥ずかしながらいま
暗く、沈み込む音楽が好き
バッハが沈み込ませてくれる心
どこに心は沈み込むか
ミミズやムカデがいる土の中
田舎暮らしとバッハは相性がいい
ピタッと重なる表と裏
365日、意識が土に注がれる
田舎暮らしとはバッハそのもの
暗い旋律、ゆるやかな音の流れ
それでいて我が心は高揚する
沈み込みながら湧き上がる?
田舎暮らしの、そんな矛盾が
・・・好き、バッハが好き

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雨の日の畑仕事が教えてくれること

自給自足に必要なのは「効率」より心地よさ

9月に入って猛暑が一段落した。ここ3日ほど雨模様である。特に今日5日は台風の接近で強雨。今朝、さあ起きようかとベッドから立ち上がった時、頭に冷たいものが当たった。雨漏りだった。ボロの我が家、雨漏りは珍しいことではないが、寝室での雨漏りは初めて。特大のバケツを慌てて設置した。

激しい雨の中で働く。送るべき荷物があるだけでなく、雨だからって、部屋の窓から外を眺めてたってつまんない。前に、自給自足、田舎暮らしの下準備は2つだけ、暑さ寒さに耐える体を作ること、筋肉を鍛えておくこと、そう書いたが、もうひとつ付け加えておこう。雨の中でズボズボになりながら畑仕事が出来ること。出来るだけじゃなく、それを心地よいことと感じる心も大事である。

ブラック企業を辞めた女性とヘンリー・ソローの思想

かぶった帽子と作業着から雨がしたたる。そこで思い出す。20代女性のしたたる悩み。メーカーの正社員だったが退職した。ブラック企業でなく、パワハラを受けたわけでもない。ただ職場には自分の理想とはかけ離れた現実があったという。

現代は、目に見えるモノも見えないモノも多く、とにかくモノがあふれかえっています。私たちの生活はもう十分便利になっているのに、企業は即戦力や効率を重視し、ひたすらモノを作り続けて利益を追求しています。利益のためにモノを作るのはいったんやめるべきだと感じています・・・。

感想を一言でいえば、純粋で、優しく美しい心の持ち主である。かような疑問を抱くようになってしまったら、もはや現代社会で生きるのは難しい。利潤を追求し、得た利潤を自分たちの生活費とするというのが世の大原則。それとは相いれない。別の会社に移っても、彼女の心は満たされないだろう。そこで思う。まさしく彼女は21世紀日本のヘンリー・ソローだと。

どうするか。田舎の山中にこもり、自給自足の生活を始めればいい。栽培における「効率」はいくらか重視せざるを得ないが、利潤追求はせずともよい。必要なのは日々3食分の食べ物を栽培収穫すること。それで心を解き放つことができる。自給自足の暮らしをうまく軌道に乗せることが出来たなら、メーカー正社員時代のあの悩みは夢だったか・・・と思うに違いない。

日本食と田舎暮らしの健康効果

伝統食が抑うつを減らすといわれる理由

荷作り作業を終える時刻、いつも僕は夕食の準備をしておく。お客さん用に収穫した野菜を袋に詰めながらチェックし、不合格品を集めて我が夕食とするわけだ。今日の夕食はゴーヤ・ピーマン・ニンニクと牛肉の煮もの、それにカボチャとサバ。そして湯上りのビール。

魚・野菜・果物に囲まれた食卓の力

前に、日本の伝統食は抑鬱症状を減らすとの研究報告を伝える新聞の記事があった。海藻、大豆製品、野菜に含まれる葉酸は神経伝達物質の合成を助ける。魚は神経伝達物質の働きをサポートするという。僕は海育ちで魚なしの食事は考えられない。同時に、百姓という仕事ゆえ野菜を食べる機会は増える。結果、我が食卓は自然に日本の伝統食になるのだ。ストレートにそのせいだとは言えまいが、日常生活でウツになることは皆無。

畑とエネルギー、地方が背負うリスク

猛暑と虫害で試される白菜の命

9月も第2週に入った。そして天気はなお猛暑。焼け付く、のしかかる、熱波が包み込む・・・どう表現すべきか頭も混乱するほどのすさまじさである。午前の仕事を終えてランチタイムで部屋に戻る。作業着を脱いでパンツ1枚になり、扇風機を回す。だが送られてくる風は温風である。

人間も辛いが、野菜はもっと辛い。この下の写真は定植半月の白菜。猛暑に痛めつけられ、数日前の強雨に叩かれ、いま再び猛暑にさらされている。さらに不運だったのは虫害。青虫や毛虫には熱中症というのはないらしく、むしろ、低温気味の天候よりも活動が活発になる。この白菜は激しい雨と高温でダメージを受け、さらに青虫に食われてのトリプルパンチなのである。どうやら生長点がダメになったみたいだから外葉は伸びても巻くことはあるまい。ニワトリの餌にするしかない。

由利本荘市・風力発電撤退の衝撃と地域の現実

先週の台風は強い雨だけでなく風もかなりだった。それでソーラーパネルが傾いた。固定しなおすとともに、ちょうど良い機会、周辺の草も取ってやることにした。この作業をしながら思い出すのは、秋田県由利本荘市の洋上風力発電のこと。

かなり大きなニュースになった。事業を行う予定だった三菱商事が撤退を決めた。資材高騰や円安による建設コストのふくらみが理由であるらしい。地元民は街の活性化を期待し、風力発電の経済効果を期待してコンビニまで出来たのに、計画中止が大きな落胆を招いているという。

朝日新聞の連載『現場へ!』はこうした状況をふまえた「再エネと地域共生 行方は」というシリーズを始めた。風力発電には思わぬリスクがある。羽が折れて落下する。飛んだ羽が当たって高齢男性が死亡という事故もあった。風速40メートルクラスになるとソーラーパネルも転倒するが、人間にぶつかるということはない。由利本荘市には建設反対のグループがある。そのリーダーは言う。

夕日の美しい海が風車で埋め尽くされる。想像できない。そんなに必要なら、東京につくればいいじゃないか・・・。

東京につくればいいじゃないかという言葉は以前にもあった。原発である。地方で作られた電気が送られる先は東京。地方はリスクを背負い、東京は恩恵だけ受ける・・・不平等じゃないかというわけだ。たしかにそれには一理ある。

先に書いた抑鬱症状を減らす伝統的な日本食。しかしそれにも弱点があるという。精製された白米には食物繊維やミネラルが少ない。漬物や干物には塩分が多く、日本食では乳製品や生野菜、果物などが不足しがちになる。

僕は乳製品が好き。チーズやヨーグルトを好んで食べる。この上の写真は今日の朝食。右に見えるのはモロヘイヤとシーチキンを合わせて茹でて、生クリームを掛け、塩コショーを少し振ったものだ。果物も、早春のイチゴに始まり、ラズベリー、クワ、ブルーベリー、プラム、マクワウリ、ポポー(この下の写真)、イチジク、柿、ミカン、フェイジョア、キウイ・・・途切れることなく食べる。

ポポー

これ、まさに田舎暮らしならではの役得ということであろうか。海もなし山もなし。日々、平凡な風景ではあるが、季節ごとに、浮かぶ雲、鳴く鳥、吹く風は変化する。情熱を傾けた野菜たちもアクシデントを乗り越えて成長する。この風景に交わる人の暮らしには「重い心」の生じようがない。野菜を食べる、果物を食べる。田舎暮らしとは心身にすこぶるヘルシーなのである。

さて、野菜にとって辛い天気は依然として続く。発芽から日の浅いものにとって、焼け付くほどの光がどれほどキツイものか、想像に余りある。それでも年間のスケジュールに従い種まきはやっておかねばならない。今日は普通の大根と聖護院大根をまいた。相変わらず猛暑何するものぞと、何もかもを覆い尽くすほどのカナムグラ、それを撤去しながらの畑作りである。

何者にもなれぬまま終わるのか

精神科医が抱える「何者にもなれない」悩み

キャリアと夢のはざまで苦しむエリートたち

朝日新聞「悩みのるつぼ」に相談を寄せたのは30代女性。なんと優秀な人、立派なキャリアの人。そんな人がなぜ悩むのか・・・我が第一印象だった。すなわち、この女性は、絵、漫画、小説などの分野で活動したいと子どもの頃から思っていた。大学はいったん理工学部に入ったのだが、”夢を追って貧乏になるのは嫌だと思い”、医師である父の勧めで医学部に入った。そこでは楽しく、成績も優秀だった。

現在は精神科医です。最近また小説家になりたいと10万字程度の物語を書きました。まだ発表もしていませんが、他人の発行部数や知名度がうらやましくて、嫉妬で身が焼かれそうになります。自分にしか出来ない何かで早く周囲に認められたいという強迫、焦りで毎日息苦しいです。何者にもなれない、医者のままで人生が終わるのだと絶望的な気分になることもあります・・・。

20年ほど医学雑誌の編集に携わった僕は、医者はとびぬけたエリートなのだとの思いが今もあるが、この女性は違うのか。僕がもし精神科医なら彼女に言う。募る嫉妬心は体にとても悪いです・・・。

人間、進もうと決めた道では努力を重ねるしかない。他人と比較し、落胆したり妬んだりするのは時間とエネルギーの無駄だ。昔こんなことがあった。毎年秋に行われる出版社のロードレース大会は皇居2週、およそ10キロだった。40数年前の僕は1キロを3分20秒くらいで走っていた。そんな僕がどうしても叶わない相手がいた。くやしい、彼になんとか勝ちたい。努力を重ねた。しかしキロあたり5秒という差を縮めることは出来なかった。今年も負けたなあ・・・でも、全力を傾けたのだから素直に負けを認める。同時に勝者に敬意を表する。これが大事。

夢を追うには「貧乏を恐れない心」が必要?

まだ若い精神科医の女性には負けに耐える心も大事だと教えてあげたい。ただひとつ彼女の言葉で僕は気になる。「夢を追って貧乏になるのはイヤ」という部分。彼女の唯一最大の弱点はここではあるまいか。夢を追う、そのために貧しい暮らしになってもかまやしないわ・・・いかなる道を選択するにせよ、この気持ちが力となり、成功への第一歩になる。

今の我が暮らしを「成功」とは言うまい。だが夢を追ってビンボーになることに僕は平気だった。思い描いた夢が、一気にではなく、ポツリポツリと現実のものとなる。そのプロセスを楽しむ。思わぬ障害をなんとかはねのける、その苦労をも楽しむ。そこには嫉妬も焦りもなく、仕事を終えて浸かる風呂がただ心地よく、夕食がすこぶる美味い。田舎暮らしという夢は小さい。でも小粋な味わいを秘めているのである。

日中の光はキビシイ。しかし朝一番の風にはかすかに秋がある。オクラの花が心地よさそうに咲いている。ただしそれも一時のこと。昼前にはもくもくと雲が立ち上がり、やがて雷鳴と強い雨。ここ数日すっかりこのパターンになった。

猛暑だが、晴れ間にはあえて草取りで汗をかく。抜いたらすぐ枯れるようにするためだ。頑丈に根を張った土をプルパワーで引っ張る。しばしば切り傷を負う。あるいは爪の先端が割れる。そして、抜いた草の山が出来上がると同時に、草に隠れて見えなかった土が姿を現す。我がバッハは土の中にひそんでいる。そのバッハが姿を現す瞬間だ。

孤独と音楽、バッハに救われた人々

孤独 バッハと生きる

ドイツのバッハ資料財団で広報を担当する高野昭夫さん(64)を「孤独 バッハと生きる」と題して紹介したのは読売新聞だった。楽譜は読めず、楽器も弾けない。そんな高野さんは、孤独の中で出会ったバッハの曲を心の支えとして人々に助けられて道を開き、ここまで生きてきたという。

母親は富山の歓楽街でバーを営み、彼氏の所に行くことが多く、いつ親に捨てられるんだという恐怖があった。本当の父親は誰なのか知らない。そんな高野さんがバッハに出会ったのは中3の時。ずっと図書館に通い、バッハを聴き続けた。そして言う、「あの時出会えていなかったら今日まで生きていなかったと思います・・・」。

僕は激しいリズム、テンポの速い音楽、それが若い頃から苦手。暗く、緩やかで、沈み込むような音楽が好き。焼け付くほどの太陽の下で裸で畑仕事をする僕は、友人・知人から野蛮人、原始人とも呼ばれるが、こと、音楽に関しては間違いなくネクラな男のようである。

土を掘ると響くG線上のアリア

田舎暮らしとバッハはコインの表と裏。僕にとっては両者がピタッと重なり合う。草を抜き終えたら鍬を打ち込む。表面は白く乾き、熱くさえあるが、30センチの深さの土は黒く、水分が保たれている。そこからバッハが聞こえてくる。トッカータとフーガ、G線上のアリア・・・世間では熱中症警戒アラートが発せられる36度という午後の光。それに後頭部を焼かれながら、不思議と心は涼やかなのである。田舎暮らし、それはゆるやかに、静かに流れる音楽のようなものだ・・・ビートのきいた激しい音楽が好きという田舎暮らし実践者もいるかもしれないが、やはり僕はそうなのである。

田舎暮らしがもたらす矛盾と豊かさ

ボクシング好きの“ネクラ男”の矛盾

ずっと晴れと曇りと雨が入り混じる天気であったが、今日はどうやら安定、そして暑い1日になりそうである。爽やかな風を受けながらランニングに向かった。走りながら昨夜のボクシングの試合を思い出す。僕はサッカーもバスケットも駄目。唯一心躍るのはボクシングなのだ。暗く沈み込む音楽が好きな男。そいつが激しく殴り合うスポーツを好む。少しばかりの矛盾もあるが、それもまたよし。

KOシーンがなかったのは物足りないが、井上尚弥のテクニックは素晴らしかった。それ以上に僕がすごいと思ったのは最終ラウンドまでフットワークが軽かったこと。ボデーを打たれた相手選手の足の動きは徐々に鈍くなったが、井上にはそれがなかった。フットワークが変化しない。下半身が強い。田舎暮らしを途中挫折させないための条件でもある。

カボチャ畑が見せたアート

ツルが描いた自然の造形美

朝食をすませて畑を見回り点検する。作物Aが終わったらBに引き継ぐ。さらにC、Dと続く。少品種を大量に作る農家の畑には途中の休みがあるが、我がチマチマ多品種農法には休みがない。朝の見回りでまず気が付いたのはカボチャの葉がほとんど黄色になっていること。間もなく撤去である。

カボチャのアートを楽しむ

カボチャを撤去したら来月、ニンニク、タマネギを植えようか。そこで目に留まったのがこの上の写真だ。期せずしてアートになっている。冬の間に使用したビニールトンネルのパイプ。それを5月、わきに立てかけておいた。カボチャのツルは10メートル近くを這ってこのパイプにからまり、こうして実をならせたのだ。ざっと勘定してカボチャは畑に100個ある。すでに収穫したものと合わせると四畳半の床が埋まるほどになる。

保存食としてのかぼちゃと「まだ来ぬ秋」

カボチャは貴重な食品である。栄養的に優れているだけでなく、長期保存が可能。ネズミに齧られさえしなければ来年春まで食べられる。さて、9月も半分が過ぎた今は夏なのか秋なのか。気温こそ少しばかり下がったが、カラッとした秋の空気には程遠い。高い湿度は野菜を苦しめる。かつまた僕をも苦しめる。6月半ばから3か月、エアコンなし、2方向の窓を開け、扇風機を朝まで回して熱帯夜をしのいできた。長い時間「強」でフル稼働する扇風機は熱を持つ。この扇風機をも早く仕事から解放してやりたい。本物の秋は・・・まだか。

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