自閉症長男、「ママ」より先に数字を覚えた!?数字に支配された驚きの日常生活と母の対策
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
「ママ」より先に数字を覚えた自閉症の長男
ASD(自閉スペクトラム症)の長男「ハジュ」は、興味の幅は狭いものの、一度ハマると本当に夢中になります。特に数字への関心はとても強く、日々の生活でも数字に関わる場面が大好きです。
今回は、そんな数字大好きハジュの日常生活で起きたちょっと困ったことや逆に役立ったこと、数字に夢中になるあまり起こったエピソードをお話したいと思います。
2歳になる少し前、ハジュが、じーっとテレビのリモコンを見つめていました。ボタンを押したいのかな?と思いましたが、どうやらリモコンにあるチャンネルの数字に夢中になっていたようです。それから、床に敷いていたパズルマットの数字を見つめるようになり、どんどん数字に惹かれていきました。
この頃、ハジュはまだあまり言葉を話していなかったのですが、「これはハチだよ」「これはロクだよ」と教えているうちに、「あち(8)」「おく(6)」と話し始めたんです。なんと、彼の初めての言葉は「ママ」ではなく、数字でした(笑)。
数字に夢中すぎて心配…
ママ友たちから「早くから数字に興味があっていいね!」とうらやましがられることもありました。でも、私は次第に心配を抱えるようになったのです。
ハジュの数字への興味は、ただの好奇心を超えて、どんどん深い没頭へと変わっていきました。すると、思いもよらない困りごとが……。世の中には数字があふれているので、外出時は、あらゆる場所で足を止められてしまうようになりました。
駐車場、エレベーター、看板……。数字のある場所に吸い寄せられるので、道路の速度表示を見つけて飛び出しそうになることも。青ざめながら慌てて止めた経験も一度や二度ではありません。スーパーに行けば値札に大興奮、ホームセンターではメジャーコーナーに釘付け、駐車場の数字を順番に踏んで進むこだわり。さらに、エレベーターに乗れば、一度最上階から最下階まで行かないと気が済まない。これでは、日常生活がまともに進まないと感じるほどでした。
数字というものが、こんなにも日常を支配する存在になるとは想像もしませんでした。
数字が大好きな長男との毎日を乗り切る方法!
ハジュが数字まみれで過ごしていた頃、わが家はカオス状態。次女が生まれ、長女の小学校入学と、目が回るような忙しさでした。でも、目を回している場合ではなかったので、何とかしなければ!と、私は奮闘しました。当時通っていたグループ療育の先生や専門機関に相談したり、インターネットで情報をかき集め、試行錯誤の日々。「これは良さそう」と思ったものは、片っ端から試しました。そんな中、特にハジュに効果的だったのが、残り時間が見えるタイマーとメモ帳でした。
例えば、ハジュが数字に夢中になっている時、タイマーで残り時間を見せてあげます。そして、次の予定をメモ帳に絵で描いて「ほら、次はこれだよ」と伝える。数字好きのハジュにとって、時間も数字の一部だからか、タイマーには全く抵抗がありませんでした。むしろ、タイマーを見て納得して動いてくれるのです。
もちろん、外出先にタイマーを持っていくのを忘れることもあります。そんな時のために、スマートフォンにも見えるタイマーのアプリをインストール!「あ、忘れた!」と思っても、スマホさえあれば何とかなります。今思えば、数字が好きなハジュだからこそ、時間も数字で管理するというのは、彼にピッタリの方法でした。
どうしても譲れない時もある
現在小学4年生になったハジュは、今でも数字が大好きです。愛読書は、3歳上の姉の数学の教科書。ゲームに夢中になってもおかしくない年頃ですが、ハジュはむしろ、算数ドリルに夢中です。
こう聞くと、まるで勉強好きな秀才のように思われるかもしれませんが、実際は少し違います。彼が得意なのは、あくまで「算数」だけ。ほかの教科に対しては、あまり興味がないようです。
それでも、ハジュにとって算数は特別なもの。問題が解ける喜びを感じる一方で、どうしても解けない問題が出てくると、時には癇癪を起こしてしまうこともあります。さらに、もっとドリルをやりたい!と要求がエスカレートし、こちらの予定を伝えても聞き入れてもらえないことも……。
そんな時は、私も腹をくくって、彼が納得するまで付き合うことにしています。夜遅くまで問題を解いていることもありましたが、算数に対する熱意を発散させることも、彼にとっては大切な時間だと思っています。
普段から頑張っているハジュだからこそ、この「算数熱」が彼自身のバランスを保つ手助けになっているのかもしれません。親として、その熱を尊重しつつも、少しずつ上手に付き合っていく方法を見つけていきたいと思っています。
執筆/スパ山
(監修:新美先生より)
自閉スペクトラム症の特性の一つに興味の偏り、興味あるものへの没頭というのがあります。ハジュくんの数字への興味、算数熱について聞かせてくださりありがとうございます。
パパ、ママよりも数字から話し始めるとは、筋金入りの数字オタクですね!!!飽きることのない数字への興味が算数熱につながったのですね。ゲームより算数の問題を解くほうが楽しいなんて羨ましく感じてしまいます。
この、興味の偏りの向きは、なかなか周りがコントロールできないものですよね。算数が好きになってほしいとか英語が好きになってほしいといくら思っても、周りの思うようにはならないものです。興味がありすぎてそこから離れられずに危険だったり大変だったりすることもありますが、例えばハジュくんがタイマーで時間管理をしたように……興味の偏りをうまくつかって日常を回しつつ、好きなことをとことん楽しむ時間も十分に確保して楽しんでもらうことが生活の安定につながりますね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。