見た目は「墨汁」だけど美味しい「まだ汁」とは? 使うのはコブシメの墨
鹿児島県奄美大島には、イカの「墨」を用いた美味しい料理があります。一体なぜ墨を用いるのでしょうか?
奄美の名物「まだ汁」とは
鹿児島県の最南端に位置する奄美地方。本土とは違う生物相があり、食文化にも大きな違いがあります。
そんな奄美地域の名物料理のひとつに「まだ汁」というものがあります。これはイカを使った汁料理なのですが、初めて見る人はびっくりするほど「真っ黒」なのが特徴です。
まだ汁はイカを身だけでなくその「墨」まで利用して作ります。同様の料理が沖縄県にもあり、当地ではよりわかりやすい「墨汁」という名前で呼ばれています。
コブシメのの墨の威力
奄美地方でまだ汁を作るときによく用いられるのが「コブシメ」というイカです。
コブシメはコウイカの一種なのですが、特徴的なのはやはりその大きさ。腕まで含むと全長1mを超え、重さは10kgに至ることもあります。
コウイカ類は「スミイカ」と呼ばれることもあるほど墨の量が多いイカなのですが、巨大種であるコブシメの墨の量は飛び抜けています。一説によると大型のコブシメ1匹の墨で、25mプールを黒く染めることが可能なのだとも。
ちなみにコブシメは沖縄での呼び方「クブシミ」から来ているのですが、クブ(クビィ)とは「多い」、シミは「墨」という意味なので、つまり「墨の多いイカ」という意味になります。
なぜイカの墨を入れるの?
さて、ここまでお読みいただいた皆さまの中に、もしかしたら一つ疑問が浮かび上がっているかもしれません。だとするとそれは「なんで墨を汁に入れるの?」というものでしょう。
イカの墨は一般的に生臭さのもととされ、調理時に墨袋を破ることはご法度とされています。しかし一方で、イカの墨は旨味を大量に含んだ食材でもあります。
イカの墨は粘度が高く、水中で広がらずにまとまりを保ちます。これには旨味成分であるアミノ酸が多く含まれており、敵がイカと誤認したりこちらに気を取られてしまいやすいようになっているのです。
まだ汁や墨汁は、イカの墨の旨味を利用した料理なのです。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>