【平野美術館の「島田紘一呂木彫り展-散歩道で出会う生き物たち-」】 クスノキ香る展示室。見渡す限り猫、猫、猫。「人とともにある猫」強く打ち出す
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は浜松市中央区の平野美術館で4月5日に開幕した特別展「島田紘一呂木彫り展-散歩道で出会う生き物たち-」を題材に。
木彫刻に由来するクスノキのさわやかな香りが漂う展示室内は猫、猫、猫である。大小の猫が100匹以上いるだろうか。虫や犬などを含めて約150点の木彫が並ぶ。
島田紘一呂さんの観察眼の鋭さは、入室後の右にある「散歩道」ですぐ明らかになる。身をかがめ、背中は少し反るように。左足を前にした上半身に体重の過半をのせ、後ろ足はいまにも蹴り出しそう。目の前にある動くモノ(それはほかの哺乳動物かもしれないし、昆虫の類いかもしれない)に対するやわらかい臨戦態勢に息をのむ。
猫と立体の箱を組み合わせた4点、猫と紙袋を組み合わせた5点、猫とひじかけ付きの椅子を組み合わせた3点など、音楽で言う「変奏曲」のような連作がユニーク。飼い猫としてのたたずまいがにじみ出ていて、近くにいるだろう飼い主の存在を意識させる。「人とともにある猫」という側面を強く打ち出す。
そのようなことを考えながら展示室を進むと、だんだん猫が抽象化されていく。2010年代後半からの「歴史瞑想」シリーズは、双頭で一枚板のボディーを持つ猫が現れ、未来派を思わせるシンプルに機械化された猫に行き着く。
金属製の円盤の回転によって動力が与えられるかのような姿。顔は鉄板。それでも猫に見えるのは、決して「猫らしさ」を見失わない作者の「猫愛」ゆえか。
(は)
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■平野美術館「島田紘一呂木彫り展-散歩道で出会う生き物たち-」
住所:浜松市中央区元浜町166
開館:午前10時~午後5時
休館日:毎週月曜 、5月3日(土)、4日(日)、5日(月・祝)
観覧料(当日):一般800円、中高生300円、小学生200円
会期:6月1日(日)まで