クリエーティブ県あおもり❷ 「なぜ青森・八戸のレストランに世界中の美食家が集うのか?」 Casa del cibo 池見良平シェフ
八戸産天然ホヤの焼きリゾット 田子町産『緑の一番星』黄卵 八戸産糠塚キュウリ
世界から注目されるレストラン「Casa del Cibo」
「青森にしかない」ものを生み出している最先端のクリエイターにインタビューを行い、青森が誇るクリエーティブ・マインドの秘密を探るインタビューの第2回。
(第1回はこちら→クリエーティブ県あおもり❶ 「青森でしか体験できない“最高”のクリエーティブ」ねぷた表現師・忠汰さん)
今回は、食べログ青森No.1レストラン(2024年8月1日時点スコア)のCasa del ciboの池見シェフにお話を伺いました。青森県八戸市にあるこのお店はいま、“ヒトサラ ベストシェフ&レストラン”や、Japan Timesの「Destination Restaurant 2023」にも選ばれ、世界中の美食家たちがわざわざ足を運んでいます。そんな最注目シェフが創り出す、青森ならではの「おいしい!」の秘密を探ります。
神奈川→フランス
嶋野 :神奈川県相模原市出身とのことですが、青森にいらっしゃるまでをお伺いできますか?
池見シェフ(以下、池見) :幼少期はとにかくワンパクでした(笑)。水泳や剣道とか体を動かすことが好きで。あと、ボーイスカウトをやっていたこともあって、キャンプとか自然の中で遊んでばかりでした。その時から、探究心というか新しいものが好きで、人がやらないことをやろうとばかりしてました。そういう試行錯誤の土台って、料理にもやっぱり必要で、いろんなものに疑問をもったり、どうすれば美味しくできるのかって考え続けることがいまも大切です。
嶋野 :料理の道を志したのはいつから?
池見 :最初は農業をやりたかったんです。でも進路を選ぶ際に、将来もずっと無くならない仕事はなんだろう?って考えた結果、自分の実力で勝負できる業界にいこうと。だから料理の専門学校に行こうと思いました。今の若い人たちは「やりたいこと」を探していると思います。でもなかなか見つからない事が多い。だったらまずは「やるべきこと」を見つけるべきだと思います。
嶋野 :エコールキュリネール国立(現在のエコール辻・東京)で学ばれ、フランスで修行されてます。でもなぜ、そこからイタリアンに転向されたのですか?
池見 :一言でいうと自分に合ってたんだと思います。フランス料理は美しいし、細部の細やかさは世界一だと思います。一方で規則が完成され過ぎたところもあって。私は探究心をもっていろんなチャレンジをしたいタイプなので、イタリアンのアクティブさが合ってました。もちろん、盛り付けやお皿のコーディネートには、フレンチで学んだことが活かされているとは思います。
八戸産毛ガニ 青森県産なす 蟹ミソソース
東京→青森・八戸
嶋野 :東京での修行期間を経て、ご夫婦で八戸にお店を構えられました。
池見 :妻の実家の近くということもありましたが、何より食材の素晴らしさに惚れました。例えば水蛸。はじめて食べたときは本当に感動しました。活きてる!って味わいです。きっと甲殻類を食べているから、その味わいも混ざってる感じがして、この土地と海のすごさを実感しました。水蛸って繊細で、どんなに丁寧に運んでもどうしても時間が経つと身がだれてしまう。それがここだと、最高の状態で美味しいまま料理できる。最近は東京でも美味しい食材は手に入りますが、やはり地元だから100%引き出せる食材というものはあって、その個性は絶対にその土地でしか出せません。
嶋野 :めちゃくちゃ美味しそうです笑。(※この日は残念ながら水蛸はあがってない日でした。。)
青森に来てすぐに上手く軌道にのったのですか?
池見 :いえ、試行錯誤の連続でした。震災直後にオープンして、最初は物珍しさもあって割とすぐにお客さんが来てくださいました。でもそこで一回ブレて、お客さんありきじゃない、凝った料理を目指してしまった時期もありました。そこからもう一度原点に戻って、せっかく八戸に来たんだから作れる、八戸の食材をふんだんに使ったわかりやすいイタリアンを作り始めたことで、いまの基盤ができました。そこからは値段は少し上がってしまうことは覚悟で、この土地だからお出しできる料理を追求するようになりました。
取材日のメニュー。ほとんどが青森県産の食材。
青森の食材と、仕入れ方
嶋野 :ちなみに青森県産の食材はどうやって見つけて、仕入れてるんですか?
池見 :自分の足で探すことが多いですね。青森の生産者さんって、すごいものを作ってるのに全然営業してきてくれません(笑)。だから人伝にこちらから聞いてみたり、ふらっと立ち寄って話を聞きにいく。するとものすごいものが出てきて驚きます。
例えば、三戸郡新郷村で育った「銀の鴨」。これにはビックリしました。フランスで生まれたバルバリー種を青森で30年近く育てているのですが本当に濃い味です。鴨って血抜きの方法で味わいが変わって、日本だと全部血を抜くこともあるのですが、こちらはある程度残して締めるそうです。そのバランスやタイミングが抜群で。血ってアミノ酸であり旨みでもあるから、それが深い味わいにつながるんでしょうね。県内のものだから風味も損なわずに料理できます。
嶋野 :池見さんの話を聞くと、料理がさらに美味しく感じられます。
いま食べログをはじめ、各グルメサイトで高い評価を獲得されてます。
ご自身だとどこが評価されているのだと思いますか?
池見 :「また食べたい」「このお店に来たい」と思ってもらいたい。その想いの積み重ねだと思います。ありがたいことに常連さんもいらっしゃって、毎月来ていただける方もいます。そんな目の前のお客さんに楽しんでもらうためにどうすればいいかを考えて、毎回サプライズを加えるようにしています。1日1つでも、新しいことを取りいれるようにしているので、そこが違いをつくっているのかもしれません。
八戸産アイナメ グリーンオリーブ ケイパー
クリエーティブな視点が新しい料理をつくる
嶋野 :池見シェフにとって青森という場所はどんな所ですか?
池見 :うちでしか食べられない料理をつくれるのはこの土地のおかげだと思います。
メニューの中での青森産の割合は毎年増やしていて、今年は自作のハーブも含めてほぼ青森のものだけでつくれるようになってきました。
料理って、食材と料理法の組み合わせがほぼ決まっています。東京のように全てが揃う場所ではないからこそ、地元の食材をどう活かすか、どんな食材を見つけてくるか、どんな風に盛り付けしていくのかという新しい発想が必要で、それがオリジナリティになっています。青森には、その組み合わせ可能性がまだまだあるのが魅力です。
嶋野 :最後に、これからどんな料理をつくっていきたいですか?
池見 :「目の前のお客様に最高のものを届ける」の繰り返しです。分かりやすくて、お客さんが食べたくなるものを作り続ける。新しいものを常に1つ加えることで、自分自身も感動し続けたいです。
それと同時に、海や土地の食物連鎖のことも気になっています。このまま環境問題が進むと、青森に限らず、土地の素晴らしい食材がいつか枯渇してしまいかねない。そういう部分にもなにか役に立つことをしてきたいです。
鮑の肝を練り込んだトロッコリ 八戸産蝦夷鮑 八戸産アオサ
青森県産ブルーベリー フレッシュラベンダー ルビーチョコ
取材後記
レストランのカウンターにお邪魔して、料理をいただきながらインタビューしました。ご夫婦の会話で印象的だったのが「この土地出身じゃないから思いつける料理法があるんですよ。例えば地元出身だとワカメは味噌汁に使うって思い込みがあったのですが、彼はトマトペーストのパスタにいれたりする。そこが面白いです」。地産地消という言葉がありますが、池見さんの料理には、地元の食材に外から見たクリエーティブな目線が掛け合わさってるから、自由にフラットに食材の本当の魅力を引き出せるのだと思います。また、最後におっしゃっていたように、海の環境や土地の将来への意識も高く、私もハッと気付かされるお話がたくさんありました。また季節を変えて、ぜひお邪魔したいです。
Written by 嶋野裕介
【profile】
クリエーティブディレクター/ブランディングディレクター
東京大学経済学部卒。マーケティングプランナー、営業職を経て現職。国内外で100以上のアワードを受賞。著書「なぜウチより、あの店が知られているのか? ちいさなお店のブランド学」。奈良美智さんとホタテが好きで青森にハマり、30回以上訪れています。青森最高です。